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青春の砂鉄

曲がりくねった坂道をジェットコースターのように、乱気流に捕まった飛行機のように、荒波に弄ばれる小舟のように、ゆらゆらがたがた疾走していた。
道は狭く、登ったり下ったりで、かなりのスピードが出ていた。
ノーズの運転は、うまいのか下手なのかよくわからないが、乗り物には特別弱いわけでもない僕でも、すっかり気持ち悪くなって、吐きそうになっていた。

中3の途中まで、伊豆の町で過ごした。
それから3年。
僕は遠い都市の高3だった。
久々に故郷に帰って、当時の親友に会うところだ。

ノーズはその親友ではない。
クラスの不良グループの下っ端に属していたのだが、気がよくて誰からも好かれた。
『傷だらけの天使』のアキラみたいな雰囲気でもあった。
どこか情けなく、八方美人で、無類の人たらしだった。

中学時代はいつも、不良仲間と不良ではない僕らの間を泳ぎ回っていた。
顔の造作の中では、鼻が大きくて特に目立っていたので、みんなからノーズと呼ばれていたのだ。

親友のマオは、駅からかなり離れた所に住んでいる。
免許を取ったばかりのノーズが、駅まで迎えに来てくれることになったのだ。

「18になるのを待って、すぐ取ったんだ」

「教習所は?」

「そんなもん行くかよ」

自信満々のノーズの運転は、うまいのか下手なのかわからなかったが、とにかくスリリングで、胃に来ることは確かだった。

マオの家は、海の近くにあった。
30分余りの拷問からやっと解放されると、しばらく休んだ後、僕らは3人で海岸に出た。
並んで座って、バカ話をする。

「ダイスケは、すぐ辞めちゃったんだ。
やっぱり、やらかしちゃってね」

マオが言う。

ダイスケは不良グループの中で、ボス的な存在だった。
体も大きく、ケンカも強く、そして素行も最高に悪かった。
それでも、マオと同じ市内の公立高校に進んだのだ。
ノーズは家業の左官業を手伝うために、進学しなかった。

「ヒメコを妊娠させちゃったりもしたんだよね」

ノーズが口を挟む。

「それは多分、高校を辞めたあとの話だと思うけどね」

「産んだのかな?」

「噂では堕ろしたとか…」

初めて耳にする話だった。
聞いていて、いやあ~な気分になった。
ヒメコは僕の片思いの相手だったのだ。
今なお思い続けているわけではない。
もはや過去の話、思春期の思い出だ。
でも、やっぱり、いい気はしない。

小柄な、かわいい子だった。
ゴリラみたいなごついお兄さんがいて、妹を溺愛していた。
気軽に声を掛けたりしようものなら、大変なことになる。
彼女自身は、気さくで、やさしい子だったのだが…。

なぜかふと、思い出す。
そういえば、この海岸で中学時代、みんなで砂鉄を集めたことがあった。
理科の授業で使うものを、クラスの班ごとに集めるということだったと思う。
ビニール袋にU字型の磁石や棒磁石を入れて、みんな夢中になって、集めたものだった。
みんなの中にマオとノーズがいたことは確かなのだが、ダイスケがいたかどうかは覚えていない。
ヒメコは別のクラスだった。

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