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『山本さん家の場合に於るアソコの不幸に就て』という漫画本がある。
ひさうちみちお作の恐るべき短編集である。

中でも印象的だったのは『不幸』という作品。
具体的な展開は忘れたが、主人公は「不幸」である。
名前でも、あだ名でも、暗喩でもない。
文字どおりの「不幸」、つまり「不幸」という漢字2文字なのだ。

これほどラディカルな漫画は見たことがない。
この作品集よりさらに前に出た『愛妻記』という小品では、主人公は男の「モノ」だった。
それがさらに進化して、ついには「モジ」と化したのだ

同じ本の中に、『アソコの大冒険』という作品もある。
ここでは文字の「アソコ」が街へ出ることによって、さまざまな騒動を巻き起こしたり、騒動に巻き込まれたりする。

ひさうちといえば、妄想的で、変態チックな作品も多いが、時に極めてクールな思弁性を垣間見せることがある。
上記2作も一見すると、哲学的な寓話であるかのように見える。
が、実は、そうではない気もするのだ。

作品の背後にあるのは、抽象的なものでも、シュールなものでもなく、むしろ、乾いた現実感覚に裏打ちされた、かなり具体的な視点なのではなかろうか。

言い換えれば、ひさうちは実際に、「不幸」や「アソコ」に会ったのではないか、ということだ。
ぼくも同じような経験があるからである。

曲がり角を折れたところで、「女」が待っていた。
でかい。
身長2メートル以上はあろうか。

「さあ、かかってらっしゃいっ!」

「い、いえ、女性に対して手は出せませんから」

「なに、いいこぶってんだよ、ぼうや。
ここに頭つっこむんだよ。怖くないから」

そう言って「女」(という文字)は、くノ一で囲まれた四角いブランクを指差した。

回れ右して逃げようとする。
すると、後ろからも別の「女」が迫っていた。

仕方がない、強行突破だ。
頭を下げて、猪のごとく全力疾走で、前の「女」に向かう。

くノ一の間に体が入った。
とたんに胴体をぎゅっと絞めつけられる。
逃げられない。
苦しくて、だんだん気が遠くなってくる、

朦朧とした意識の中で、見れば「女」は、さらにひとり増えて、3人になっていた。

ついに失神する。
その瞬間、胴体がふっと緩んだような気がした。

「さあ、早いこと、やっつけちまいな」

そして次々に…

ぼくにとっては、屈辱的で衝撃的な字姦初体験だった。

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