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頭を使う

とにかく勘がいい。
特にギャンブル好きということはないのだが、賭け事や勝負ごとに関わったりすると、勝つことの方が遥かに多い。
勘がいいので、どんな仕事もそつなくこなすことができ、あまり無理をしないでも生きていくことができた。
そんな幸田高太郎君が、生まれて初めての挫折を味わったらしい。

「生まれて初めて、本当に好きになった女なんだよ。
オレ、自分の目を過信してたんだろうね。
彼女は絶対オレのことを本気で思ってくれているし、彼女と一緒になれば、オレは絶対幸せになれるって、信じて疑わなかったんだ」

ところが、その愛する女性は、二股どころか八股…もしかしたなそれ以上のマルチ股のとんでもない食わせ者、いや曲者だったという落ちだった。

「でもさあ、彼女の名誉のために、ひとつだけ強調しておくと、詐欺とか何とかでは絶対ないよ。
オレ、大して貢いでないし、なんか失ったって自覚も全くないんだ。
あるのは心の傷だけでさ…」

「幸田君は、勘がよすぎるからね。
勘ってやつは、すごいのを引き当てることもあれば、ババを掴んでしまうこともあるわけで…。
もうちょい、頭を使った方がよかったかもね。
僕はあんまり鋭い方じゃないから、偉そうなことは言えないんだけどね、色々兆候があったと思うんだ」

「うん、そうかもしれないなあ。
頭を冷やして出直すことにするよ」

修行が足りないから修行してくると言って、幸田高太郎君は足柄山へ行ってしまった。

どんな修業をしたのかわからないが、1年後に戻ってきた時には、別人のようにシェイプアップされていた。
いやシェイプアップというよりも改良、改良というよりも改造と言うべきか。

足はふたつとも頭になっていた。
足首から先がそのまま頭になり、スキンヘッドの頭頂部が地面と接している。
顔はもちろん、幸田高太郎君本人だ。

「歩き回ってるうちに、毛が抜けてスキンヘッドになっちまったんだよ。
最初は傷だらけになったり擦り切れたりして大変だったんだけど、段々鍛えられて頭の皮…というか足の皮かな、とにかく皮が厚く丈夫になったから、今はどんな所でも素足で平気で歩けるよ」

手もまたふたつとも頭になっていた。
これも、スキンヘッドの幸田高太郎君だ。

「主に口と歯を使って、どんなことでもできるよ。
元の手よりも器用になったくらいだ。
ピアノは弾けないかもしれないけどね」

そう言って、本体の幸田高太郎君が呵々大笑した。
つまり彼は、文字通りの五頭身になっていたのだった。

「そうなんだ、オレ、頭を使って生きることにしたんだよ」

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