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書評:逆転交渉術ーーまずは「ノー」を引き出せ

この本の著者と概要について

著者のクリス・ヴォスさんは、FBIの交渉人としてアメリカ国内外の人質事件を解決に導いてきた方。その後、自分の会社を興し、さまざまな企業へ交渉のトレーニングなどを提供しています。ハーバードなどの大学でも教鞭をとっています。

サラリーマンのわたしでは、想像もつかないような世界を生きてきたのでしょう。

本書は、Amazon.comで1300超の五つ星がついた、全米20万部のベストセラー本でもあります。

必要なのは、人々を落ち着かせ、意思の疎通をはかり、信頼を得て、要求をことばで引き出し、こちらは共感を寄せているのだと相手に思わせることのできる、現場で役に立つ単純な心理的戦術や駆け引きだった。

1 交渉の新しいルール より

著者の経験では、人質をとった誘拐犯との交渉には、「ハーバード流交渉術」のような問題解決をシステム化するやり方が通用しなかったようです。

試行錯誤の中、FBIでは人の感情に共感していくことにフォーカスした交渉術を確立したのだそうです。本書では、FBI流の共感を基盤にした交渉術のノウハウを教えてくれています。交渉においての傾聴の重要性と、傾聴とはどういうものなのかが良くわかるおすすめの一冊です。

このスタイルの交渉術は、強硬な信念をもった相手をどのように変えていくかというような場面でとても有効です。企業変革やプロジェクトの推進、また、上司、部下、他部門との調整など、ビジネスパーソンのあらゆる場面で使えるものです。

今回は、タイトルにもなっている「ノー」を引き出すとはどういうことか、そして、一番重要なポイントの「戦術的共感」と「ラベリング」について紹介します。

「ノー」を引き出すとは?

タイトルにあるように、まずは敢えて「ノー」を引き出すことで得られる効果をこのように語っています。

「ノー」と言うことで、言った人間は安全と備え、主体性が確保されたと感じる。

4 相手の「ノー」から交渉がはじまる より

いわゆる心理的安全性ですね。そして「ノー」には多くの意味が含まれています。

・まだ同意する準備ができていない。
・あなたのせいで不快な思いをしている。
・わたしには理解できない。
・自分にできるとは思えない。
・わたしはほかのものを求めている。
・もっと情報がほしい。
・このことをほかの人に相談したい。

4 相手の「ノー」から交渉がはじまる より

たしかに、自分が「ノー」と言ったときを思い出せば、当てはまるものばかりです。
そして、これを明らかにしていく手法が戦術的共感です。

戦術的共感とは?

ハーバード流交渉術では「人と問題を切り離す」とまず学びます。しかし、著者が人質事件の現場での交渉で感じたのは、感情そのものが問題だった時に人と問題は切り離せるのか、ということでした。

この場合、解決策の合理性を話し合っても仕方のないことですよね。

私も経験がありますが、読んでくれている皆さんも、「言われていることは納得できる。だけど、気持ち的に「Yes」と言えない。絶対に言わない。」と感じた経験があるのではないでしょうか。

このような場面では、相手の感情を否定や無視せずに、その感情を見極めて言語化することが重要になります。そのために、自分の感覚を開けひろげ、話すことを控え、聞くことを増やす。それを進化させたものが戦術的共感です。

戦術的共感とは、その瞬間の相手の感情やものの見方を理解し、またそうした感情の裏にも耳を傾けて、その後はどんな瞬間においてもこちらの影響力を増大させることである。このことにより、ひとつの合意に至るまでの感情的な障壁とたどれそうな道筋との両方に、目を向けることができる。

3 相手の痛みは、感じるのではなく言語化せよ より

言葉だけだと難しいように感じますが、まずはシンプルに傾聴です。相手の話を聞き、口出しも反論もせずに受け入れることです。

そして、傾聴に集中し、顔や身振り、声のトーンを良く観察すると、相手に同調し、何を考え、感じているのかがわかるようになるとのこと。これは人の脳がそのような機能を持っていて自然にわかるのだそうです。

人の脳はすごいですね。

共感により相手の感情の認識をすると、問題解決に向けて交渉が驚くほど前に進むようになるのだとか。これを狙って意図的に傾聴することを戦術的共感と呼んでいます。

拾い上げた感情を「ラベリング」する。

そして、戦略的共感で最も重要なスキルがラベリングです。

ラベリングとは、傾聴によって予想される相手の感情をことばに変え、それを相手に向かって復唱するように繰り返すこと。

・・・のようだね。
・・・のように聞こえるね。
・・・のように見えるね。

というような表現で繰り返すことがポイント。

ネガティブな感情をラベリングすることでそれを発散させ(極端な場合は消散させる)、ポジティブな感情をラベリングすることでそれを強化するのである。

3 相手の痛みは、感じるのではなく言語化せよ より

著者はラベリングの効果をこのように語っています。

自分ごとに置き換えてみると、誰かにネガティブな感情を聞いてもらえるとありがたいと思いますよね。しかもそれに対して、ラベリングで共感してもらえたとしたらどうでしょう。きっと、「この人は自分のことを理解してくれる人だ」と嬉しい気持ちになるのではないでしょうか。

人は誰でも認められたいという欲求を持っています。だから共感することで、ネガティブな感情を発散させることができるわけです。

そして、ネガティブな感情を発散させたところで、次にポジティブな相手に思いやりのある感情のラベリングを行うことで、問題解決するための思考に導いていきます。

ラベリングの効果は絶大。ぜひ取り入れていきたいですね。

まとめ

私自身、交渉の場面では傾聴を重視するスタイルなので、参考になる部分がとても多かったです。すぐにでも真似をしたいスキルが満載の一冊でした。

ただ、全体を読んでわかったことがもうひとつ。

こんなにすごい交渉人でも失敗することがあり、その結果さらに研究し新たな方法を見つけ出したのという過程が語られています。一つのことを極めるには相当な努力が必要だとわかります。

自分の交渉の型を作るために、学び、実践して、振り返る、これを実直にやっていくことが重要なんだと改めて感じました。


最後まで読んでいただきありがとうございました。
これからも交渉やコミュニケーションに関わる本の紹介をしてきます。
スキ・フォローなどしてもらえると嬉しいです。

ではまた。

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