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【影響力の武器】人が動かされてしまう心理現象を深く理解して自覚する事が重要

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

YouTubeでメンタリストのDaiGoさんが、「僕の人生に大きな影響を与えた」と言って頻繁に紹介されていた本書。

以前から気になっていた本であり、いざ購入して目にするとその分厚さとボリュームに圧倒された。

しかし、読み終えてみると、思ったほど難しい内容ではなかった。

丁寧かつ簡易な言葉で書かれており、その一方でその内容は非常に濃密。

今年読んだ本の中では今のところベスト3に入る良書だった。


〜「カチッ、サー」〜

本書の大きな題材として、カチッ、サー効果というものがある。テープレコーダーの再生ボタンを押す音(カチッ)と砂嵐の音(サー)が語源になっているそうで、ある働きかけをきっかけに、深く考える事なく、半ば自動的に反応して行動を起こしてしまう、という心理現象のことを指す。

ある有名な心理実験で、心理学者のエレン・ランガー(Ellen J. Langer) の実験がある。被験者がコピー機の順番待ちの列の先頭へ行き3通りの言い方で頼む、というものである。

1.要求のみを伝える:
「すみません、5枚なのですが、先にコピーをとらせてもらえませんか?」

2.本物の理由を付け足す:
「すみません、5枚なのですが、急いでいるので先にコピーをとらせてもらえませんか?」

3.もっともらしい理由を付け足す:
「すみません、5枚なのですが、コピーをとらなければいけないので先にコピーをとらせてもらえませんか?」

実験の結果としては、1.の場合、6割程度の人が承諾したのだが、2.の場合ではほぼ全員が順番を譲ることを承諾した。
もちろん、理由を聞いて順番を譲る事はあるかもしれない。
しかし、この実験の面白いところは、3.の場合でも2.の場合と同じくほぼ全員が順番を譲った、というところだ。
よく落ち着いてみれば、3.は理由らしいが理由になっていない。にも関わらず、2.の場合と同じように人は順番を譲ることを承諾してしまったのだ。

この結果からわかることは、人は理由を添えて何かを頼まれた時、その理由の内容に反応しているのではなくて、"ので(英語ならbecause)"という言葉に反応している、ということだ。

この実験から、人は何かの働きかけに対して、条件が揃えば、よく考えることもなく、行動を起こしてしまうことがわかる。

「影響力の武器」とはまさしく、こういったカチッ、サー効果を用いたものである。
カチッ、サー効果を熟知している人々は、これを利用して、自分の利益のために他者を陥れる事も可能なのだ。



〜人が動かされてしまう6つの要素〜

本書で紹介されている「カチッ、サー」効果は主に6つである。

返報性
恩恵を与えてくれた人に対してお返しをせずにはいられなくなる心理。
例えば、知らない人からクリスマスカードが送られてくると、知らない人相手でもクリスマスカードを返してしまう。

コミットメント
ある決定をしたりある立場を取る(コミットする)と、自分の中で一貫した行動をとるように圧力がかかる心理。
例えば、1度契約すると宣言してしまうと、そのあとに不利な条件を提示されてもその契約を断れなくなってしまう。

社会的証明
特定の状況である行動をとる人が多いほど、それを正しい行動だと判断してしまう心理。
例えば、テレビのバラエティ番組で笑い声が聞こえてくると、それが番組制作者が意図的に流したものだったとしても、内容に関わらず、その番組を面白いと感じてしまう。

好意
好意のある人物からの要求に対して、断りにくくなる心理。
例えば、親しい友人からの紹介で、欲しくもない商品を買ってしまう。

権威
権威のある人物の行動や言動は正しいと感じてしまい、その人物からの要求に断れなくなる心理。
例えば、「医者」の言うことに対して患者は何の疑いも持たずに信じてしまい、よくわからない薬でも言われたまま飲み続ける。

希少性
数が少なかったり、隠されているものに対して、実際以上の価値があると感じてしまう心理。
例えば、「数量限定!」と明示された商品に対しては、実際の価値以上に価値を感じてしまう。

さて、ここに挙げたものは、誰もがセールスや詐欺の手口で耳にしたようなものばかりかもしれない。
しかし、影響力の武器を使いこなす人たちはこれらの心理を巧みに操り、相手から「承諾」を引き出すのである。

恐ろしいのは、頭のどこかで分かっていても、いざその場面になると冷静に考えることが出来なくなる、というのがこの影響力の武器である、ということだ。

本書では一つ一つの心理現象について、事例を踏まえてかなり細かく解説してくれている。さらには各章でそれぞれに対する防衛法も提示してくれる。

自分はだまされない、と思っている人ほど、1度この本を読んでみて、自分の行う「承諾」が本当に理論的なものなのかどうか、1度考え直す事が出来るかもしれない。



〜影響力は悪くない。深く理解する事が重要〜

さて、本書の締めとして、著者は、これらの心理現象は今の社会にとっては有用なものである、と述べている。

情報があまりにも多いこの社会においては、個人の知識や能力だけで、日々訪れる膨大な数の決断や問題について、すべて論理的に考える事は非常に難しい。

先に述べた、思わず人が動いてしまう6つの要素は往々にして正しい事が多いのだ。

多くの人が「良い」と言った商品は、多くの場合において、良い商品である。
一貫した行動をとることで、決断を早くする事ができるし、一貫性のある人は信頼されやすい。
好意のある人物からの提案や要求は、自分にとっても有益なものである事が多い。
権威のある人からの助言は、正しい事がほとんどだ。

本書で紹介される影響力の武器は、あらゆる場面での決断や問題解決について、信頼性の高いものばかりなのだ。

それらの心理現象を全て否定してしまう事は、現代社会を生きる上ではあまりにも不利になる事が多すぎる。

影響力の武器は、ある意味効率よく人生を送るためには欠かせない心理現象なのだ。

その上で、その影響力の武器を悪用する人々がいる、ということを深く自覚しておく事が重要なのだ。

ある決断を迫られた時に、1度冷静になり、「今のこの自分の決断は本当に自分の意思で決めたものなのか?影響力の武器によって動かされているものではないか?」と自問自答する事が必要だ。

人間の心理現象を深く理解し、自分の心の動きを自覚し、意識する事が、賢い消費者となり、騙されることから逃れる最上の方法なのだ、と思う。




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