見出し画像

歴史体現書 【狂気とバブル】

こんにちは!蛸龍です!

皆さんはこれまで読んできた本の中で思い出深い書籍はありますか?

私にとって、一風変わった思い出として、強烈に記憶に残っている本はズバリ!チャールズ・マッケイ著「狂気とバブル」です。

具体的に何が印象深いかといいますと・・・とにかく長いんです!!!
なんと総ページ数は驚異の813ページ!!
もはや本というより、読める鈍器です・・・

さて、そんな冗談はさておき、せっかくですので本書の紹介をさせていただきます。
私は魅力的な表紙とタイトルにはもちろんのこと、何よりもそのページ数に惹かれて購入しましたが、なかなかお目にかかれない大作だと思いますので、これを機にお手にとってもらえたらと思います。

究極の歴史刊行物

本書は1852年に発行された「常軌を逸した集団妄想と群衆の狂気」の邦訳版で、原題にある通り人類の狂気的な熱中について、事実を事細かにまとめた歴史ノンフィクション作品です。

驚くことに発行当時は日本がまだ江戸時代でしたから、そこらの歴史書と比べると、存在そのものに歴史的価値があると言っても過言ではない作品となります。

当然のことながら100年以上前に刊行された本ですので、背景にある世界情勢や常識が現代とは大きく異なり、理系の私にとっては言い回しや例え話がなかなかピンとこない難解な作品であったことも事実です。

ですが、分かりやすく後世に影響を与えた史実を中心に取り上げる教科書や他の歴史書とは異なり、面白みのない話も含めて実際に起きたことが事細かに描写されているのは、当時の人間模様を理解するうえで非常に貴重な一作であると感じます。

パソコンや車はおろか、電気すらもなかった時代の目線で語られる史実や教訓というだけでも、私はタイムスリップした気持ちで非常にワクワクしながら読み進めた記憶があります。

反芻される人間の歴史

さて、そんな難解ながらも歴史的価値の高い本書ですが、驚くことに現代でも通用する人間の本質的な部分に関する描写が多々あるのです。

 疫病が猛威を振るうようになると、終末が近づいているという、頭のおかしい狂信者の予言を信じる者が増えてきた。大きな災害が起きると、軽々しく人の言うことを信じたりだまされたりする人が激増するのが世の常である。ペストがヨーロッパ全土で大暴れした一三四五年から一三五〇年にかけては、終末はすぐ目前だという考えが浸透していた。ドイツ、フランス、イタリアのどの主要都市にも自称予言者が出没し、一〇年以内に大天使のらっぱが鳴り響き、雲の中から救世主が現れて世界に審判を下すだろう、などと予言していた。
狂気とバブル (Japanese Edition) (Kindle の位置No.3219-3224). Kindle 版. 

▶コロナ、震災、テロなどの大きな災禍の中、今でも同じような状況になっていないだろうか・・・
大きな不安を目の当たりにした人間の心理・行動はいつの時代も同じようですね。

こうした人間の許し難い考えの根底には、森羅万象において人間は重要な存在なのだという間違った判断がある。空の星々はわれわれを見守ってくれている、その動きや角距離で、われわれを待ち受ける喜びや悲しみを表してくれているのだ、などと考えるだけで、人間の自尊心はどれだけくすぐられることか!このとてつもなく大きな宇宙にあっては、人間など、夏の木の葉を餌にする目に見えないほど小さな無数の虫たちに比べたらはるかに数が少ない。しかし、人間は、永遠の世界は何よりも人間の運命を予知するために創られたのだ、などと浅はかな考えを抱いていた。
狂気とバブル (Japanese Edition) (Kindle の位置No.3628-3633). Kindle 版. 

▶人間はいつでも人類こそがこの世の中心であると考えがちなようです。
例えばグレタ氏が地球温暖化に対する世界の取り組みが弱いと指摘したように、我々も結局は自分たち人類こそが世界の中心で、人類可愛さから地球の未来を軽んじていませんか?
過去には地球こそが宇宙の中心であり、天体が地球の周りを周回すると唱える天動説なんかも本気で信じられ、反対意見となる地動説を唱える人々は異端者とされた歴史すらもあります。

事実上、国の最高の法律になっているのは世論である。ほかの法律は、いくら人間的かつ神聖なものであろうと、どれも遵守されなくなっている。遵守されないばかりか、世論に触れるにつれて廃れ、消滅しているのである。この国を、そしてこの下院を支配する最高の法律のせいで、もし背いたら名誉が失墜すると思い、わたしはこのおきてに従わざるを得なかった。
狂気とバブル (Japanese Edition) (Kindle の位置No.3170-3174). Kindle 版. 

▶いつの時代も「世論」の力は絶大だったようで、いくら法律を厳格に定めたとしても、世論に反する場合は"名誉の失墜"が起こってしまうようです。

人はなぜ歴史を繰り返すのか

一体なぜ人々はこれほどまでに歴史を繰り返し、過去の教訓を正しく活かせないのでしょうか。
これについて本書の訳者が、フランスの歴史家:フランソワ・ギゾ氏の理論を基に秀逸な言葉を残しています。

ギゾの論理からすると、過ちや愚行が繰り返されるのは、祖先が経験したことを後世の人間が実際に経験しているわけではないからであり、戦争がなくならないのは、残虐さや痛みを実際には知らない人間が引き起こすからだということになる。だとしたら、残念ながら戦争や差別は永久になくならないし、いずれまた、どこかで投機熱も沸騰する。
狂気とバブル (Japanese Edition) (Kindle の位置No.31-34). Kindle 版.


要するに人類は様々な歴史から教訓を得てはいるものの、実際に自身が体験したわけではない以上、行動を実際に変化させるには至らないということなのでしょう。

行動経済学の権威とも言える書籍:ファスト・スローの言葉を借りれば、人の自己には"経験する自己"と"記憶する自己"の二つが存在するため、教訓を活かしきれずに歴史を繰り返してしまうのでしょう。

最後に

一世紀以上に亘って愛読される本書は、歴史書として人類の本質的な部分についても多くの知見をもたらしてくれる素晴らしい著書でした!

そのボリュームからつい読むのを断念してしまいそうですが(自分も実際に何度も諦めかけました・・・)、読み終わった時の読了感や、他の書籍で語られている物事の裏付けになるような情報がたくさん眠っておりますので、ぜひ一度手にとって読んでみてはいかがでしょうか。

ではまた!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?