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静かなる狂気

【プロローグ…

その看護師を職とする女性は、恨み募る義母を静かにそして計画的に死へ追いやった。華麗に。そして長年の恨みを、闇の中に葬った。

【本編…

静まり返る部屋の中で、その細い息をする老人と私は居た。私が掃除をして整えた部屋ので、私が洗濯して清潔にした布団に包まり、ただ仰向けに天井を向いて横たわっているこの生き物は、私の人生に初めての感情を抱かせた。今思えば無垢な心だった私は、心の中のヘドロを喉に手を入れてとりだしたい程に感じ、それを吐き出さずにお腹の中にしまった。そして、気がつかないふりをしながら数十年を生きてきた。私と私の心を豊かにする者たちで満たす為に。それを、今になって私の領域に踏み入るなんて、思いもしなかったことだ。…いや。知っていた。私は知っていたけれど、そのヘドロと一緒にお腹の中で封印していた。私は義母を引き取り自宅で介護をし始めた。かきむしりたい感情を押し殺し、少しずつ計画的に静かに殺していく〝殺人計画”を実行していった。その老人は夫の母親、つまりは義母でありこの人との関係を断ち切るために嫁いだ家を出たにもかかわらず、今のこの平穏な空間にこの要介護の老人を引き取る事は、自分の人生のある種区切りとでもいうべきものとも考えた。というか、考えるしかなかった。女性は、自分と夫の親を介護しなくてはいけない。その前に子育てがあったり、その最中に子育てがあったりもするが、それは日本では女性の仕事だ。いくら、女性が仕事をしていても。だ。これをおかしいという人もいるが、男性社会の男女格差の大きな日本において、この愚痴をこぼしたところで変人扱いされるだけだ。それくらいの事はわかる位の知識はある。そして、看護をしている私には、介護とは何という事が何なのか。看取るということは何なのか。死とはどうやって訪れるのかを知っていた。だから義母を引き取った。最期の仕打ちをお見舞いとしてささげるために。そんな事をしようとしているとは、誰にも言わず長男の良い嫁としての役割を果たす為。
そうして、義母を引き取り自宅で介護をし始めた。かきむしりたい感情を押し殺し、少しずつ計画的に静かに殺していく‟
何故それをしたのかは、言葉で説明なんて出来ない。生きてきて生きていく為に削ぎ落としてきた感情を呼び起こして、もう捨ててきた感情を少しだけ身体の中に育てた。見たくもない感情を。この感情を持たない限りは、守られるべき場所、この安住の場所にその生き物の息が少しでも混ざっていくことを耐えるなんて無理な事と本能が悟った。

ヒトが人と生きるなんて事を神様は何で与えたのだろうか。地球上で生きているもの達の中で、こんなに他の動物に危害を与え同じ生物同士が殺しあう愚かなものがあるか。愚かとも、それを超えて怒りや悲しみを持って喜びと変えていくという愚策を繰り広げ、その生きている一瞬に最大の喜びを得ようと欲を垂れ流す。その欲深き者の悪しき行いは伝染し、無垢に産まれた赤児をいつか血に染めて行く。それを恐ろしいとも思わず。無垢を汚したくないと守る者と、無垢などこの世にあるとも知らない愚かな者との愚行。そうして人と人の殺し合いがある。
生きることを前提として生があるのか、その逆なのか。ただ、死を恐れるのは生きることに執着する様に人は操作されているのだ。虫や植物は死を恐れない。むしろ、種を存続することで自己の死が訪れるのにも関わらず種の存続の為の道を選ぶのだ。
人も元はそうだったのではないのか。人も、生命を生み出すことで死を迎えることが40%はあった時代がある。私自身、時代が違えば1人目の出産で生はなくなっていた。それは、幸か不幸か。

何か幸せなのかなど、分から何のに先人の教えという名の学びによって従えとばかりの学びの場に身を置くのだ。
教育の義務?!なんの教育なんだ。生きるため?ではなく、私たちは戦中の日本と同じ様に、一握りの人間のためのコマとなり洗脳されて動かされているだけなんだ。


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