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雨が好き

「雨ってどうして降ると思う?」
あなたは時々、不思議なことを聞いてきた

雨に濡れれば、嬉しいのか悲しいのかなんて分からなかった
予測できない雨はどこまでも続くようで

「ざーざーとか、ぽつぽつとかじゃなくて、さーさーと降る雨が好きなんだよね」
あなたはそう言って、わたしの顔をのぞいた
そんな顔をよく知っていた、わたしがうなづくのを待っている顔

「でしょ?」
「うん!」
笑うと目が細くなって、それがずっと離れない

芽が出るのを待つばかりの草花を支える地に、雨がゆっくりと溶けていく

わたしは雨が嫌いだ

水たまりで遊ぶときは遠くから見ているだけだし、濡れるし、髪はまとわりつくし、薄暗いし、
せめて空は明るくいてほしかった

雨が好きな人というのも、いるものだ

「雨ってどうして降ると思う?」
あなたは時々、不思議なことを聞いてきた

「分からないんだけど、たぶん泣きたい人がいて、その代わりが雨になってるのかなって」
それでも雨が好きなの?とわたしは尋ねる
「だれかの心が軽くなってるってことだからね」

わたしは笑った、あなたは噓つきだった

雨が好きな人というのも、いるもので、みんな何かがあって。
あなたは晴れた日に笑うことはなかった

わたしは雨が嫌いだ、それでも次に降る雨を願った
晴れたあの道では、あなたは笑っていられた

わたしは雨が嫌いだ、いつもやさしいだけだった
ほぐされ、ながされただけでは、だめだったけど、やさしかった

雨に濡れれば、嬉しいのか悲しいのかなんて分からなかった
ただもう少しだけ、この雨と一緒にいるの


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