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ツールドフランス2024 第21ステージ(Monaco - Nice) 考察

ついに最終日になりました。例年パリシャンゼリゼ通りでフィニッシュする最終ステージですが、今年はパリオリンピックが開催される関係で南仏ニースでのフィニッシュでした。

最終日はほとんどの年が前日の第20ステージでタイムトライアルを行い、総合成績を決めてからパリに凱旋する日程ですが、最終日に個人タイムトライアルというのはグレッグ・レモン選手がローラン・フィニオン選手を8秒逆転して総合優勝を決めた1989年以来なので、歴史的に見ても今年は特別な年になりました。

実際にはニースではロードレースより個人タイムトライアルの方が開催しやすいなどの理由があったと思いますが、主催者的には今年は多くの総合系の選手が参加する見込みがあったので、最終日を個人タイムトライアルにしたら逆転劇などのドラマが生まれてすごく盛り上がるんじゃないかと思い設定したのでは、とも思いました。ポガチャル選手にヴィンゲゴー選手、エヴェネプール選手、ログリッチ選手と、少なくともこの4人は厳しい山岳コースを越えてきてもまだ僅差で争っていそうですからね。結果的にはポガチャル選手の圧勝で個人総合成績では大きなタイム差がついてからのタイムトライアルになってしまったので逆転をかけたバトルは見れませんでしたが、もし僅差でここまできた場合はかなり緊迫したバトルが繰り広げられていたと思うと胸熱です。

またスタート時間までにかかる時間が長くて、現地時間14時40分にスタートする個人総合141位のAstanaのバッレリーニ選手から個人総合47位のグーセンス選手まで1分30秒間隔でスタートして、そこから現地時間18時40分にスタートする最終走者のポガチャル選手まで2分間隔でスタートします。計141名が全てスタートするまで4時間5分もかかります。前後の道路封鎖時間を考えたらロードレースするよりもよっぽど封鎖しているので、スタートのモナコとニースで合同の夏祭りをしているくらいの規模です。こういうところからもヨーロッパでの自転車競技、ツールドフランスがいかに根付いているかがわかります。前日の夜に行われた第21ステージの前夜祭の様子を見ても、その盛り上がりを見ることができます。

タイムトライアルのコースは全長33.7kmで獲得標高が650mと上りが長いのが特徴です。こう思うとタイムトライアルのスペシャリストよりもクライマー系の選手に向いているコースですね。GroupmaFDJのキュング選手がこの日をまたずにDNFした理由がわかります。とはいえ、最終日のタイムトライアルは、本気で走らなければいけない選手(個人総合がかかっている選手、ステージ優勝が狙える選手)以外はニース凱旋顔見せパレード走行のような感じなので、ロードレースでまとまって集団スプリントよりはファンの方々に一人一人応援してもらえるので、また違った良さがありそうです。それにしてはちょっとコースが厳しいですけど。最終日はどっちの方がいいか選手たちに評判を聞いてみたいですね。

結果はポガチャル選手が2位のヴィンゲゴー選手に1分03秒差、3位で第7ステージで優勝しているエヴェネプール選手に1分14秒つけての圧勝。別次元の強さを見せてステージ6勝目を飾りました。もともとの弱みだった3週目に調子が落ちることなく、むしろ3周目のほうが手に負えない感じで最終日のタイムトライアルまでも制してしまいました。チーム力強化、弱点克服、さらにニースはポガチャル選手の準地元なので、普段走っている道をレースで走れると思うと楽しくてしょうがなかったと思います。最初の計測地点でヴィンゲゴーに7秒差だったのが、山を下ったところの3つ目の計測地点では1分に開いていることから、かなりノリノリだったことでしょう。

ヴィンゲゴー選手も最初の計測地点まではポガチャル選手とあまり変わらないくらいで走っていたのですが、第2計測地点から第3計測地点の下り区間のポガチャル選手のペースアップが非常に速く、それまでヴィンゲゴー選手のスピード差が、0.2km/h(第1計測区間)、0.5km/h(第2計測区間)だったのに対して、1.2km/h(第3計測地点)まで上がっていて、ほとんどこの下り区間でついた差でした。それくらい重いギアが踏めていたということですね。だからヴィンゲゴー選手が良いパフォーマンスだったけど単にポガチャル選手が強いだけ、と言っている意味がよくわかります。

ポガチャル選手はヴィンゲゴー選手よりも1分も速いのに、フィニッシュ後にだいぶ余裕そうにしていたのでどういうことなんだろうと思っていましたが、上り抑えめで下り飛ばしただけだから余裕そうだったんでしょう。それまでの山岳ステージのスピード差を考えたら、そりゃそうだなと納得させられました。

エヴェネプール選手は全体的に上位の2人よりもよいタイムを出すことができませんでしたが、ツール初参加で何度も総合争いをしているお兄さんたち2人と渡り合って、ここまで走れている時点で凄いことです。潜在能力の塊なので、来年のツールではよりお兄さんたちに近い走りをしてくれることを期待しています。タイムトライアルが終わった後に総合3位に入ったことと、レースが終わった安心からか、素の24歳の若者の表情が出ていたので、彼にとっても長く厳しいレースだったということですね。

あと、第20ステージが終わった段階での個人総合4位から11位までのタイム差が熾烈で、

4位のアルメイダ選手と5位のランダ選手が40秒
6位のA.イェーツ選手と7位のC.ロドリゲス選手が1秒
8位のヨルゲンセン選手と9位のジー選手が24秒
10位のチッコーネ選手と11位のブイトラゴ選手が22秒

と、かなり秒差の争いだったのですが、終わってみるとみんなそれぞれがキレイに順位通りでフィニッシュしていて、唯一変わったのが10位のチッコーネ選手と11位のブイトラゴ選手のところでした。ブイトラゴ選手はチッコーネ選手より2分速くフィニッシュして個人総合10位になりました。チッコーネ選手は上り区間はロードバイクにTTバーをつけたバイクで走り、下り区間ではTTバイクに乗り換えましたが、作戦が功を奏しませんでした。

そして全てのリーダージャージが決まり、カヴェンディッシュ選手の特別セレモニーも遂行できて、スーパー敢闘賞も決まり、2024年のツールドフランスが幕を下ろしました。思い返すと3週間あっという間でしたが、全ステージを観戦した達成感からか、最終ステージは「また来年なんだよな・・・」と年末にゆく年くる年を見ているような風情を感じました。

今年の個人総合成績はポガチャル選手とUAE Team Emiratesの圧勝に終わりましたが、Visma Lease a BikeもSoudal-Quickstepも、Red Bull-BORAももちろんその他のチームもですが、来年のツールドフランスへの宿題がたんまりできたと思うので、来年までにどれくらい改善してくるかも非常に楽しみです。ポガチャル選手の最強伝説はいつまで続くのか、それとも来年はリベンジが遂行されるのか、はたまた新しい若手が台頭してくるのか。今から楽しみでたまりません。

と、今回の考察レポートはこれが最後になります。これまでこのnoteを読んでくださったみなさま、お付き合いいただき誠にありがとうございました。今年は全ステージをスタートからフィニッシュまで観戦して、さらにこのようにnoteにレポートを載せることで、レースのこと、ネット上で見つけたことや囁かれていること、自分が知っていることや思っていることなどを皆さんとシェアすることができて、本当によい経験になりました!今後も時間と体力が許せばこのようなレポートを続けていきたいと思っていますので、この活動を応援してくださる方がいらっしゃいましたら、スキやサポートを頂けますと嬉しいです。

またポッドキャストの60rpm Club Podcastのメンバーとしても普段あまり取り上げられないサイクリングに関するいろいろな情報を発信していますので、こちらもアカウントをフォローしていただき、番組を聴いていただけると幸いです。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
また次のレポートの機会にお会いできたら光栄です。

Au revoir. À tres bientôt. 


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