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才能③



久しぶりに会った彼女は、やたらに赤い服を着ていたんだ。


それは目にとても映える赤。反射した光が想像以上に眩しい。それに加えて彼女のショートヘアがきっちりと決まり過ぎていて、まるで小さいものがだれかの攻撃に過敏になって、襲われないように威嚇しているみたいだ。

だれかが誰かを威嚇するとき。それは事前の攻撃の集積という必死に集めたデータの中で、その人がその人自身の判断で敵が近くにいる、と指示を下した結果であった。

そんな彼女の語尾に注目して、彼女から発せられる言葉の数々を聞いてみる。

「大丈夫だよ。」とか「意外とね。」とか「そう!」とか、彼女から出ている言葉はいつもと全く変わって見えない。しかし、その語尾には確実になんらかの摩擦によって生じた、と思われる”棘”のようなものが微かに感じられた。

語尾というのは、その人が緩和するとき。人は、自分自身の体から離れれば離れるほど、そのものに対して集中力が削がれるのではないか、とぼくは思っている。長い言葉の後の語尾も、その例外ではないのではなかろうか。

変化というのに人は敏感で、しかし、それに嫌気が差したか、あるいは他に集中が一瞬でも注がれ集中に偏りが生じた際、周りの変化の兆しはその人の肌から見逃され、その瞬間、その者は後手に回ることとなり、つまり確実に後退することとなる。それは、まるで後ろから来たランナーに追い越されるようであり、前を進みながらに後続へと追いやられる。


でも。