見出し画像

音楽室


「夢の中でおれは一回死ぬ。」

「正確には、夢という概念の中の深くに入り込んだおれはつまり死んでいることになるのだ。その際、だれかがおれの代わりに生きているはず。ということはつまり、その者のためにおれは死んでいることになるのだ。地球は反転する。それと同様に、生死も夢を機に反転する。」

そういう思いに急激に憑りつかれ、そして苛まれながら、おれは地球儀を回していた。

クルクルと勢いよく回る地球儀はおれの手に従ってまわり続けているのだが、おれからするとその状態がまたどこか寂しくて、左手で地球儀を持って右手でそれを回しているのにもかかわらず、両手がまったくの手持無沙汰に感じている。

ふと思い出す、小学校の教室の窓際に置いてあった埃被りであり、色の落ちた地球儀。

それでずっと遊んでいたのに、地球儀は一向におれの手には馴染もうとしなかったが、それでもその地球儀を手名付けたいおれは毎日ひたすら地球儀を回していた。

そうやって無理やりに地球儀を回していると、ずっと前からすでに嫌われていたそれに睨まれているような気がした。

おれが、「飼い慣らす」という目的にそれを従わせようとした結果、それは反対方向へと走っていったようだ。

それがわかった瞬間、おれの中の世界だけ、急に止まったように感じる。

その「瞬間的な停止」は何度経験しても慣れないし、毎回毎回それで嫌な思いをするんだよなあ。

人間を空中から一通り見渡した時に、その人間たちの思惑は、常に重なり、重なり合って、何層にも絡まり合って、まるで複雑な蜘蛛の巣のようである。

今のおれは、その蜘蛛の巣を一本一本、解いていこうとしている。

そして過去のおれは、小学校でその地球儀遊びを卒業したのだった。

中学生になって、すっかり地球儀とは疎遠になっていたおれは、代わりに音楽室へと向かうことが好きになっていた。

音楽室全体は、外から見るよりも意外と小さくて好きなんだ。