#16 インド人へのインタビューから分析!ファッションECでの良いAI活用のポイント
インドのファッションEC「Myntra(ミントラ)」がAIを活用した新機能を最近(2023年5月)2つ立て続けにリリースした。
それを受けて、以前の記事では、インド在住の筆者がそれら新機能のUX(ユーザ体験)について記事を書いた。(以下参照)
今回は、Myntraを利用しているインド人にインタビューを行い、それらの新機能をどのような時に、どのように利用しているかを明らかにした。
Myntra(ミントラ)とは?
Myntraは2007年に設立された、バンガロールを本社とする企業で、インド最大のファッションEC(ネットショップ)を運営している。
現在、Myntra上では6,000以上のインドおよび国際的なファッション/ライフスタイルブランドが販売されている。
日本でいうところの「ZOZOTOWN」のような位置付けのECと言って良いだろう。
1. パーソナルアシスタント機能の「My Stylist」
どんな機能?
まずはAIを活用した「パーソナルスタイルアシスタント機能」である「My Stylist」。(2023/5/18にリリース)
「My Stylist」は、一つの服のみではなく、「コーディネート」のレコメンドをしてくれる機能だ。
いくつかの切り口でコーディネートを紹介してくれるのだが、例えば「過去のMyntraでの購入品起点での」コーディネート提案機能だと、「追加でこれを買うと、過去に買った商品と合わせてコーディネート完成するよ」という形で商品を提示してくれる。
UIも直感的であり、筆者もあまり思考せず楽しく見ていけると感じた機能だが、レコメンドの精度によるところが大きいとも感じた。
ユーザインタビューの結果
結論としてこの昨日は、服やコーディネートの選択肢に触れる新たな切り口として、楽しく閲覧されていた。
週1-2回程度Myntraを見ているというバンガロール在住のAさん(27歳・女性)は以下のように語る。
Aさんを始めとして、新たに購入する服を見つけるだけではなく、ざっとコーディネートを「Look Book的に」見て、手持ちのものと合わせたコーディネートの参考にするというユーザは何人か見られた。
また、ユーザの発言や使い方からは、全面的にコーディネートや購入品の参考にするというより、好きなもの・良いと思うものをつまみ食い的に見ている様子がうかがえた。
Cさん(25歳・男性)はこう語る。
ファッションはそもそも「正解」があるものではなく、「好みに合うかどうか」という要素が大きいものだ。
見ていく中で、全てレコメンドを良いと感じられなくても「ある程度良さそうなものがある」ということであれば見る理由になる。
筆者は当初「精度」が気になったのだが、そもそもファッションには「絶対的基準に基づいた正しい答え」や「高い精度でのレコメンド」が求められないカテゴリである。
現時点でこの機能は、ユーザ視点では楽しく見ていく上で問題がない程度の精度であり、また「コーディネート」という切り口で服を選ぶことができる点で新規性があるため、楽しく使われる機能になっているようだ。
2. ChatGPTを活用した「MyFashionGPT」
どんな機能?
またほぼ同時期(2023/5/24)にリリースされた、ChatGPTを使った「MyFashionGPT」。
これは、文章で欲しい服を打ち込む、もしくは例示されている文章を選ぶと、そのニーズに合う服を提示してくれるという機能である。
筆者が使ってみると確かに「それっぽい」ものが出てきた。
ただ一方で、質問をするためにはある程度ニーズを明確にして言語化する必要があるし、それを打ち込む面倒さも発生するため、果たして服選びのシチュエーションでそのようなものが使われるのかと疑問に思っていた。
ユーザインタビューの結果
実際、結論は仮説通りだったと言える。
多くのユーザにヒアリングを行ったが、「MyFashionGPTを知っている」というユーザには出会えたものの、日常的に利用しているユーザには出会えなかった。
先述のCさん(25歳・男性)は、利用しない理由についてこう語る。
「ファッションとは相性が悪そう」「ニーズが言語化されているのであれば、自分で探せば良い」という反応である。
また、他のユーザもおいても「MyFashionGPTを知ってはいるが、わざわざ使う理由がない」という反応が多かった。
(「使わない理由」をあえて言語化をするのは難しいものなので)明確に述べていたユーザはいなかったのだが、筆者がユーザの画面を見せてもらいながら話を聞いている限りにおいて、
この機能自体に、明確な使い勝手の瑕疵やマイナスの印象があるというわけではない。
(筆者から依頼してその場で使ってもらうと)使ったら使ったで良い機能だと思える。
ただアプリには他の機能や特集ページもあり、それらにそちらの探し方に慣れており、不満もない。その中で、日常的にMyFashionGPTを積極的に使う理由がない。
というようなことだと受け取れた。
やはり、ファッションという具体的なニーズありきではなく、ビジュアルを見ながら感覚的に選んでいくことが一般的な商材においては、「ある程度ニーズを明確にして言語化する」必要があるMyFashoinGPTは相性が良くないのだと思われる。
もし、ChatGPT的なものを活用するのであれば、より頭を使わず直感的に使えるよう、
入力ではなく選択式になっている
文字のみではなく画像を見ながら選べる
というような形の方が良いのではないだろうか?
例えば、服の画像も見ながら選べるような「診断コンテンツ」のようなものはどうだろうか。
「どんな時に着たいか」「どちらが好きか」などの質問がいくつか出され、ユーザは服の見本画像付きの選択肢を次々に選んでいく。数問答えるとおすすめの服が出てくるようなイメージである。
上記は日本のあるサイトの診断コンテンツ例である。(「おすすめのショップ診断」なので診断の趣旨はやや異なる)選択式になっており、かつ画像も用いられている。
ChatGPTの強みを活かしつつ、ユーザ側も直感的に使うことができ、少ない負荷で納得感があるおすすめに辿り着くことができるのではないだろうか。
ユーザインタビューから得られた示唆
Myntraを利用しているインド人ユーザに「My Stylist」と「MyFashionGPT」の使い方をインタビューした結果、以下のような示唆が得られた。
示唆1. AIと服選びの相性は良さそう
まず、服選びはロジカルに導き出される「正解」があるわけではない。何を良いと思うかは人それぞれの好みに大きく左右される。
一方でAIは、ある程度の条件があれば、それに沿って多くの選択肢を出すことができる。
それを踏まえると、AIは服選びを含む、以下のような性質をもつ商材と相性が良いと言えるだろう。
単一の「正解」があるわけではない(条件に対する厳密な正確性が求められるわけではないない)が、
個々の「好み」には、ある程度方向性があるカテゴリの商材
示唆2. 服選びにおいては、ユーザに言葉で考えさせるな&選ばせるな
服は多くの人にとって、欲しいものや自分の好みを言語化することが難しいカテゴリでもある。
精緻に言語化して探すというよりも、まずはどんどん具体的な選択肢を見て選んでいくというのが向いているのではないだろうか。
そのような性質を踏まえると、以下のような提示方法が良いと考えられる。
0から欲しいものをユーザに言語化してもらうより、提示した選択肢から選択してもらう方が良い
その場合の選択肢は、テキストではなくビジュアルの方が良い
服以外にも、アクセサリーやカバンなどのファッション全般や、家の内装、また家具や小物などのインテリアなどもその傾向は強いだろう。
今回はMytraのユーザインタビューの結果と、結果から導き出された示唆についてお届けした。
これらは、言われてみれば当たり前のようなことだが、これらをユーザ行動に肌感覚を持った上で、言語化しておくことは必要なことだと考えている。
今後は、現在のMyntraの機能が今後どのように進化していくのか、ロイヤリティや売上向上に寄与するのかなどにも注目していきたい。
お読みいただきありがとうございました!
弊社では、企業様向けにインド市場リサーチ・戦略策定支援などを実施しております。
弊社が強みとするインド国内の消費者への定性インタビューにより、数字では見えづらいリアルなインサイトを発掘することが可能です。
お気軽にお問い合わせください。
よろしければマガジンのフォローもしていただけると嬉しいです。
また弊社はUXコンサルティング、中国のリサーチ等も行っております。リサーチや記事執筆、講演などご要望ありましたら、弊社サイトよりお問い合わせくださいませ🙇♀️
もし私の文章がお役にたちましたら、サポートいただけると嬉しいです!アドベンチャー力をアップするためのおやつ代にします!