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#3 インドの便利アプリ「Urban Company」を使って&インタビューしてわかった価値(後編)

本記事はインドのグルガオンに本社を置くユニコーン企業「UrbanClap Technologies India Private Limited」が提供する、清掃・修理・美容・マッサージなどの技術を持つ個人のサービス提供者の派遣サービスアプリ「Urban Company」についての2本立ての記事の2本目(後編)である。

画像の出典:公式サイト

前編では、Urban Comapnyのサービスの内容の説明、筆者の利用体験記、ユーザ目線・サービス提供者目線でのメリットを記載した。

後編では、一連の体験と考察から得られる日本・日本企業への示唆を記す。

【弊社紹介】
弊社(株式会社hoppin)はUXコンサルティング事業、および中国・インドのUXリサーチ事業を行う企業である。参考:会社サイト
後者について、具体的には、中国・インドの優れたUXを提供するサービスを、現地ユーザやサービス提供企業の役職者へのインタビュー調査を通して分析し、日本企業への示唆を出している。
また筆者の滝沢は上海に2回居住したことがあり、2022年現在はインドのバンガロールに居住している。参考:筆者執筆のYahoo!ニュース


前編のサマリ

  • Urban Companyとは

    • 清掃・修理・美容・マッサージなどの技術を持つサービス提供者(個人)と、サービスを受けたい個人をマッチングするプラットフォーム。サービス提供者は家まで来てサービスを行ってくれる。

  • ユーザにとってのメリット

    • 質は十分であるのに価格が安い(コスパが高い)、家まで来ていただける(利便性が高い)、ユーザがサービス提供者を選ぶ手間がないという点。

  • サービス提供者にとってのメリット

    • サービス選択時にあえて「個を立たせない」売り出し方がされているため、尖った強みがなくてもユーザに選んでもらいやすい。

    • また得られる給与も高い。平均的には前職の1.5-2倍の給与が得られているというデータあり。

    • またUrban Companyは、サービス提供者が働く中で蓄積されたデータを活用して、サービス提供者に融資サービスを提供しているため、給与とは別に長期的な生活の安定のための資金を得られる。

    • このような金融サービスは中国発のDiDi、シンガポール発のGrabでも行われており、一種の金融包摂(経済活動に必要な金融サービスをすべての人々が利用できるようにする取り組み)の役割も果たしている。


後編のサマリ

  • 新規事業開発に携わる人/部署への示唆

    • 「個を立たせない」プラットフォームの可能性は、まだまだ多くあるのではないか?

    • サービス提供者にとっては「尖った強みがなくても仕事を獲得しやすい」「スキルそのものを正当に評価してもらいやすい」という点で価値あり。

    • ユーザにとっては「標準化された品質を、比較・検討の手間なく簡単に使うことができる」「期待値とのずれが出にくい(結果として負の体験が減る)」という点で価値あり。

  • CtoCのプラットフォームビジネスを行う企業への示唆

    • プラットフォーム側は仲介そのものだけではなく、データ活用によりサービス提供者への金融サービス提供も行うことができるのではないか?

    • またそれはローン等の金融サービスを十分に受けることが難しい個人にとって価値があるサービス(いわゆる「金融包摂(経済活動に必要な金融サービスをすべての人々が利用できるようにする取り組み)」)になるのではないか。

  • 金融機関/Fintech企業への示唆

    • 2のビジネスは、プラットフォーム側だけしかできないわけではない。金融機関やFintech企業などの第三者機関がプラットフォーム側と提携し、ユーザデータを分析・活用や金融サービス提供という役割を担う形でも可能なのではないか?



ここから得られる示唆は?

これらから、大きく3つの示唆が得られると言える。

1.新規事業開発に携わる方/部署への示唆

以下の顧客価値があるというの理由で、「個を立たせない」プラットフォームには大きな可能性があるのではないか。

【サービス提供者にとっての価値】

今は何かと「個の時代」などと言われており、「尖った強みを持つ」ことに競争の源泉を求めることが多いように感じる。

そのため、個人事業主が自分の強みを活かして戦えるよう、「個を立たせる」プラットフォームは日本にもある。
しかし、実際のところそこで目立ったり勝てるようなスペシャルなスキル(「自分をうまく見せる」というマーケティングスキル含)は持てる人は稀だろう。
このような「個を立たせない」プラットフォームがあることで、一定以上のスキルを持つ方々はある程度平等に仕事を得られるようになる。

画像出典:Urban Companyブログ


特に「スキルはあるが、マーケティング力が高くない」というサービス提供者にとっては、スキルそのものに重きをおいて評価されるこのプラットフォームは向いていると言えるだろう。

「個を立たせる」プラットフォームにおいて、サービス提供者は、ユーザ側に選んでもらうため、「提供スキルの向上」と同時に、自分のプロフィールの工夫や実績の見せ方の工夫など、少なからず「個々の売り込み」へリソースを割くことになってしまう。

マーケティングをうまく行うことも一つの価値あるスキルであり、それ自体が悪いわけではないが、その場合は「スキルはあるがアピール下手な人」は不利になってしまいがちだ。
ただ、個のアピールの余地が少ないプラットフォームならば、事前のアピールの余地がない分「提供するスキルのレベルが高い人」が正当に多くアサイン・高く評価されやすくなる。サービス提供者は、自分のスキルを磨くことに集中できるわけだ。


【ユーザにとっての価値】

また、ユーザ側としても、作業内容や本人のこだわり度によっては「標準化されたサービスを提供してくれるのであれば誰でも問題ない」場合がある。
例えば、現在存在しているサービスだと、フードデリバリーや配車サービスがそうではないだろうか。

一般的に、これらのサービス提供者に抜きん出た個性を求めたりすることはない。仮に複数のサービス提供者から自分で選ベるようになっていたとしたら、逆に面倒だと感じる人も多いだろう。

画像出典:Capermint

また事前の検討・選定がないことで、「書いてあることは良かったけど、実際の技術は思っていたものと違った・見掛け倒しだった」というマイナスのギャップも少なくなると考えられる。

このように、ユーザが「特別な強みを持つ個」を求めておらず「手間なく」「一定以上のレベルの」サービスを受けられるこそが顧客価値になるという市場も多いのではないだろうか。



2.CtoCのプラットフォームビジネスを行う企業への示唆

CtoCのプラットフォーム側は仲介そのものだけではなく、データ活用によりサービス提供者への金融サービスも行うことができると言えるのではないだろうか。
ある程度の利用データがたまれば、それらのデータを用いて「その個人がどの程度返済能力があるか」を、精度高く、かつコストを抑えて判定しやすくなる。

だがこれは、言うは易く…であり、「意味がある行動データの収集ができること」と「信用度に関係する行動データの仮説立案と分析を行うケイパビリティがあること」、2つが揃っているからこそできると言えるだろう。


またCtoCでサービスを提供する個人の中には、(ケースバイケースだが)企業に勤めている場合と比較すると、一般に社会的信用が乏しい方も多く含まれる場合がある。

結果として、返済証明が十分にできないという理由で、一般的な金融機関からは借りられる額が限られたり、利子が高くついてしまうこともある。
そのような個人にとって、プラットフォーマーによる金融サービスの提供は社会的価値がある(いわゆる「金融包摂(経済活動に必要な金融サービスをすべての人々が利用できるようにする取り組み)」)になると考えられる。



3.金融機関/Fintech企業への示唆

先述の2に記載した「プラットフォームの利用データを活用した個人事業主への融資」というビジネスは、プラットフォーム側だけしかできないわけではない。
金融機関やFintech企業などの第三者機関がプラットフォーム側と提携し、ユーザデータを分析・活用や、金融サービス部分の提供という役割を担う形でも可能なのではないか?

銀行等の金融機関においては、金融サービスの中で「個人への少額ローン貸付」に積極的に取り組む企業は今まで少なかったのではないか。
手続きや審査コストが高い割に額が少ないため、金融機関側の利益が少なくなってしまうためだ。

しかし、別サービスを利用する個人のデータを持っている企業が、それらのすでにあるデータを与信に活用して金融サービスを提供するとなると話は変わってくるのではないだろうか。



Urban Companyや、前章で例に挙げたDiDiとGrabは金融部門を自社で持っているが、ここで一つ外部に委託している例を挙げよう。中国のWebank(微衆銀行)である。

弊社は2021年にWebankの役職者にインタビューを行ったことがあるため、以下その内容も交えて記載する。

Webankは、2014年に中国のIT大手のテンセントを主要株主として設立された銀行で、「微粒貸」という面倒な手続きなしでスマホで借りられる、消費者向け小口ローンが有名だ。

Webankはコミュニケーション&決済サービスの「WeChat」を提供しているテンセントを主要株主に持つ。
別会社ではあるものの、提携関係に近いような形であり、ユーザの行動・決済に関する多くのデータが連携されるようになっている。(もちろん、勝手に連携されるわけではなく、ユーザ許諾は取った上で、である。)

そのため、限度額の確認および申請はとてもスピーディーで、また入金も数分で実施される。

実際に現地に住む中国人にローンを借りてもらったのだが(下記の図解参照)、Webankが謳っている「5秒で限度額確認、1分で申請、3分で入金」という言葉以上のスピードで借りることができていた。

このように、データを持つ会社と提携し(テンセント-Webankのように必ずしも自社グループでなくても良いだろう)、金融機関やFintech企業等の金融を畑とする会社が審査を部分を担うという方法も考えられる。

ちなみにWebankは、ユーザの貸倒率とテンセントのサービスの利用状況の関係性の検証を密に行うことで、「どんな行動をする人にどの程度のお金を貸すことができるのか」、ということを従来の審査よりも精緻に読み取れているという。
結果として、現在の貸倒率は0.05%(催促した後の貸倒率)。中国最大手の中国工商銀行(ICBC)は2%なので、他社と比較して大変低い状態だ。

前編、後編の2記事を通して、Urban Companyについて書いてきた。
この記事が何かの参考になれば幸いである。

また、この記事に書いていないインタビュー内容・情報等もあるため、追加のご質問等があれば連絡いただきたい。



お読みいただきありがとうございました!

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