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巣立ちのとき

 初登園の日、キミは記憶に無いだろうけど、私はあの日の全てを昨日のことの様に鮮明に思い出す事ができる。

 私は落ち着かない数時間を家で過ごし、正直どんな顔で迎えに行ったら良いのかと、ドギマギしながら再び門をくぐった。

 それまで片時も離れ離れの時間を過ごす事なく、あの日産院でへその緒が切れてからも、まるで見えない「緒」で繋がっていたかのような日々が続いていた。来る日も来る日も、私の目の届くところで遊び、常に一緒に過ごした。キミはなかなか歩く事をせず、入園のわずか数日前、いよいよ何かを感じ取ったのか、やっと立ち上がり、最初の一歩を踏み出した。

 キミは迎えにきた私の姿を見つけると、顔をくしゃっとさせた途端、大粒の涙を落とし、おぼつかない足取りで歩み寄ってきて、その小さな手を差し伸べて来た。私はホッとしたような、申し訳ないような、幾つもの切ない感情が押し寄せて来て、その小さな手をとり、抱き寄せるしか出来なかった。精一杯の笑顔で。

 そして数日のうちに、キミは自分の居場所として、ここを選んだ。母の温もりに代わる、あたたかな場所を、キミは自分で見つけたんだ。
先生やお友達と過ごす日々は、未知との遭遇でまるで宝島を冒険するような日々。全てが新しい出来事だった。それまでのんびり緩やかに成長していたキミは、まるで水を得た魚のように、生き生きと、そして嫋(たお)やかに過ごす日々を重ね、心も体も、見違えるように大きく成長した。

 キミが保育園で学んだひとつひとつは、これから時間をかけて少しずつ、となりのひとつと線で結ばれ、これから体験するであろう様々な出来事と繋がり、時には化学反応を起こし、もっと大きな学びになるだろう。
 5年という長い年月をかけて、丁寧に育ててもらった根っこは、これから大きく幹を伸ばし、枝を張り、たくさんの葉を付け、そしていつしか、大きな実りの時期を迎える事だろう。
 惜しみない愛情を注いでくれた先生方に、周りのお友達に、感謝の気持ちを忘れないで欲しい。今のキミは沢山の人の手で、心で、知恵で、育てられているのだから。。

卒園おめでとう。
すべての人に感謝の気持ちを込めて

#子どもの成長記録


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