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盛田昭夫 『21世紀へ』(008)

盛田昭夫 『21世紀へ』(008)

日本には、「横並びの精神」が根付いています。
盛田さんが指摘しているように、「ライバル会社が新しい事業を始めると、『うちもやらにゃならん』と考える会社が多い」のです。

その結果、どうなるかと言うと、利益が出ない、消耗戦を強いられることになります。よく言われる、ライバルが多い“レッドオーシャン”です。
その中で、無益な競争をすることになります。

これは、企業にかぎらず、個人でも同様です。

「あの人がやるから私もやる」

“レッドオーシャン”で、かなりの確率で勝てる自信があるなら、勝負してみるのもいいでしょう。そこでの経験が、後に生きてくるかもしれません。

ところが、そこで体力を消耗しすぎてしまうと、次に別な取り組みをしようとしてもなかなかできないという、状況に陥ってしまう可能性が大きいです。

ライバルの少ない“ブルーオーシャン”で勝負できれば、勝ち続けることは可能かもしれません。

孫子の兵法によれば、「戦わずして勝つ」ことが最善であると書かれています。

それは分かりますが、容易なことではありません。

人生は長いようでいて、短いです。
30年以上前までなら、定年までのおよそ40年にわたる社会人人生を全うすれば、退職金がもらえました。

さらに、年金を支給され、老後の安泰した人生を送るためのグランドデザインを描くことが可能でした。

ところが、現在ではどうでしょう。
企業は、正社員を減らし、契約社員やアルバイトといった、雇用期間を保証しないですむ雇用形態が常態化し、人材をコストとみなす経営者が増えてきました。

「終身雇用制度」は完全に崩壊したと言っていいでしょう。もはや雇用は保証されていません。

少子高齢化は国の予想をはるかに上回る速度で進行し、国は年金の支給を減額したり、年金支給開始年齢を先延ばしすることで、対応しようとしています。

そうした措置もいつまで続くか分かりません。
いずれ年金制度は破綻するかもしれません。

年金制度が破綻するという最悪な結果に至らなくても、社会保障制度改革が実施されれば、現行以上に厳しくなるかもしれません。
もはや年金を当てにすることはできません。

健康保険制度も同様です。長生きはリスクとなってきています。

高齢になれば病気になる確率は高まります。

医療費を削減しても、介護保険料の負担は重く、のしかかってきます。

こうした現実を目の当たりすると、将来に不安を抱えた人たちが増えるのはきわめて自然のことです。

現実から目を逸らしてはいけません。

そこで、今後どうしたら良いのか、考えてみました。

一度しかない人生に、悔いを残さないためには、人生にも「選択と集中」が不可欠だということです。

「人がやるから自分もやる」という、横並びの考え方から、「人がやるなら自分はやらない」、さらに、「人がやらないなら自分はやる」という強い
意志で、取捨選択する考え方に切り替えていかないと、生き残っていくことは難しい、と考えています。


『21世紀へ』 盛田昭夫
2000年11月21日 初版発行
ワック

目次
はじめに
第1章 経営の原則
第2章 人材の条件
第3章 マーケットの創造
第4章 国際化への試練
第5章 経済活性化の原理
第6章 日米関係への提言
第7章 変革への勇気
第8章 日本国家への期待
第9章 新世界経済秩序の構築
あとがき


第1章 経営の原則

「繁栄のための経営理念」(1982年)から


誰でもできることは必ず競争が伴う

プリンシプルとは何か。それは、誰もが、どんな商売でも自由にできるということである。誰でもできるということは、必ず競争が伴うということでもある。

したがって、競争に負けた会社は潰れざるをえないから、是が非でも競争に勝たなければならない。

21世紀へ 盛田昭夫 022 p.44           



選択と集中

競技で勝つためには、自分のペースを守ることが必要である。マラソンでも、走りながら相手ばかり気にして、自分のペースを乱す選手は絶対に勝てない。

経営の場合も同じである。自分の得意の種目-----つまり業種を絞って、自分のペースを守ることが、自分の力を発揮するうえで最良の方法なのである。

ところが世間には、ライバル会社が新しい事業を始めると、「うちもやらにゃならん」と考える会社が多い。つまり、相手によってペースを乱されているわけで、これでは競争に勝てない。

21世紀へ 盛田昭夫 023 p.45          




トランジスタラジオ誕生の秘話

ソニーの場合は、最初、音響分野に的を絞り、まずテープレコーダーを手がけた。テープをつくるためには、物理、化学、金属などの技術者が必要になる。もちろん、そのほかに電気や機械の技術者も必要だ。

そこで、これらの幅広い技術陣を、新しい分野に活用しようということになり、井深さんが一つの提案をした。

「アメリカで開発されたトランジスタは、普通の電機メーカーには向かない。うちのように物理屋や化学屋のいるところに打ってつけだ。トランジスタをやろうじゃないか」というわけで、トランジスタに乗り出すことになった。

しかも、どうせやるなら、ラジオ用のトランジスタでなければ意味がないということになった。

21世紀へ 盛田昭夫 024  pp.45-6         
        




盛田昭夫公式ウェブサイト



➳ 編集後記

『21世紀へ』を読み返して感じたこと

『21世紀へ』は、20世紀を全力で走り抜けてきた盛田氏が、このままでは日本がダメになるという危機感に、すべての日本人が気付いてほしいという気持ちがビンビンと伝わってくる本です。

盛田氏の「予言」はいみじくも当たってしまいました。
少なくとも現状においてですが。

この警世の書に書かれていることの多くが当たっています。
盛田氏の慧眼は本当に素晴らしいと思いました。

アマゾンや楽天でなくても、ブックオフ等で目にしましたら、ぜひ手に入れてください。なかなか見つからないかもしれませんが。

その内容の濃さと経験に裏打ちされた説得力のある文章に惹きつけられるでしょう。


🔴「自分の得意の種目-----つまり業種を絞って、自分のペースを守ることが、自分の力を発揮するうえで最良の方法なのである」

どうも日本人は「人まね」が好きな民族だと思います。
いや、むしろ他人ひとと同じことをしないと仲間はずれにされるから、そうすると言うべきかもしれません。

もちろん、ライバルは必要です。
しかし、「選択と集中」得意技に特化して勝負したほうが、勝てる可能性が高いでしょう。

ブルー・オーシャン戦略を採れるかどうかです。

一度、自分できることを書き出し、その中から得意技を抽出し、得意技に集中できれば他人ひと差別化ができると思います。

そうすることでレゾン・デートル(存在理由)を明確化できるはずです。


⭐ブルー・オーシャン戦略

ブルー・オーシャン戦略とは、従来存在しなかったまったく新しい市場を生み出すことで、新領域に事業を展開していく戦略です。新市場を創造することにより、他社と競合することなく事業を展開することが可能になります。この概念は、W・チャン・キムとレネ・モボルニュによって提唱されました。

ブルー・オーシャン戦略 の蔵総合研究所          




盛田氏は、一点の曇りもなく、自分に正直で、言行一致した行動派の経営者でした。また、今ではなかなか見つからないダンディなジェントルマンです。表現がダサい? 古い?




⭐ソニーの現状 (ソニーグループの子会社)


ソニーを日本企業とは知らない人たちがいることに驚きました。
さらに、ここ数十年で業態を変えてきましたね。

ソニーは「エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション分野」を扱う企業ということになりますが、半導体も生産していますし、得意な映像技術を深掘りしています。映画部門も持っていますね。

極論すれば、音と映像を2本柱にして、これらに関わる技術を開発し、横展開していると言えます。

ただし、ウォークマンが大ヒットしたあと、アップルの iPhone のようなスマートフォンがなぜ作れなかったのかと悔やまれます。技術力はあったはずです。目利きが及ばなかったのでしょう。

スマホがここまで世界中に受け入れられるとは想像していなかったのかもしれません。


⭐『21世紀へ』について

『21世紀へ』に関するこのブログを最初に投稿したのは、アメブロで8年前(2014-06-28 22:21:22)のことでした。

note に再投稿するにあたって、大幅に加筆修正しました。

『21世紀へ』の「はじめに」の1行目から2行目にワック編集部による
この本の説明が書かれています。

本書は、井深大と並ぶソニー株式会社のファウンダー(創業者)盛田昭夫によって、1960年代から90年代にかけて執筆された論文の集大成である。

21世紀へ 盛田昭夫 p.1       


ソニーは日本を代表する世界的企業であることに異論はありません。



✑ 盛田昭夫氏の略歴

巻末の「著者紹介」から

盛田昭夫(もりた あきお)
ソニー創業者。1921年生まれ。大阪大学理学部卒業。
海軍技術中尉に任官し、井深大と出会う。
46年、井深とともにソニーの前身、東京通信工業を設立。
ソニー社長、会長を経て、ファウンダー・名誉会長。
この間、日米賢人会議メンバー、経団連副会長等を歴任。
海外の政財界にも幅広い人脈をもち、日本の顔として活躍した。
98年米タイム誌の「20世紀の20人」に日本人として唯一選ばれる。
99年死去、享年78。
著書に『学歴無用論』(朝日文庫)『新実力主義』(文藝春秋)
『MADE IN JAPAN』(共著、朝日文庫)『「NO」と言える日本』
(共著、光文社)等がある。


⭐出典元




⭐回想録


⭐プロフィール


⭐マガジン (2023.03.20現在)


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