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伊藤雅俊の商いのこころ 第4回

合併の体験

私が約20年間勤務した、洋書輸入卸(取次)会社が、私の在職中に当社(Y社)より規模の小さな同業他社(T社)と、合併しました。

当社経営陣は口を揃えて、「対等・・合併」と、強調して言っていました。

しかし、私は経理担当者として「真実」を知っていました。それが「対等合併」でないことを。

アマゾンという黒船が日本に襲来してから、同社の洋書・洋雑誌の価格破壊によって、当社は大きな打撃を受けました。

卸価格だけではありませんでした。洋書の新刊が日本入ってくるスピードが
桁違いに早く、勝負になりませんでした。

当社は業績が急激に悪化し、合併することになったのです。
「対等合併」ではありませんでした。主導権は、T社に完全に握られていました。

合併後も、社名だけは当社(Y社)のまま営業を続けました。当社は業界で名が通っていたからです。

しかし、合併しても業績は一向に好転しませんでした。

私は経理担当者であり、会社の財務状態が非常に悪化していることを把握していました。新経営陣のとって内情を知っている私が邪魔な存在になったのです。

そのため、私の処遇を巡り画策しました。私には選択肢が3つしかありませんでした。大阪支社への異動、浦和物流センターへの異動(格下げ)そして自主退職です。

私は当時50歳前でした。今から20年ほど前のことです。私の年齢では転職はかなり困難でした。そうすると残りの選択肢は2つです。

大阪への単身赴任は健康面を考えて無理だと判断しました。
そして、最終的に浦和物流センターへ異動しました。ここでは経理業務ではなく、在庫管理や出荷業務に携わりました。デスクワークから肉体労働への変化です。

確かに仕事はきつかったですが、それ以上に通勤が辛かったです。ドア・ツー・ドアで片道2時間30分かかりました。つまり、往復で5時間です。
しかも、出荷業務が終了するのが午後11時頃になる日が毎週あり、帰宅時間は午前1時過ぎになり、起床は5時頃でしたから睡眠時間はほとんどありませんでした。

土日祝日は体を休めるため寝ていることが多かったですね。

異動から1年半が経ち、リストラされました。その数年後に、経営破綻
しました。経営能力のない人たちが経営者となっていたからです。
彼らは経営責任を負うことはありませんでした。

私の親しかった友人の死と、多くのリストラの犠牲者を出した末に会社はなくなりました。


合併は簡単なことではない

歴史も社風も違う企業と企業が一緒になるのは、男女が結婚するようなもので、よほど相性が合わない限り、うまくいうわけがありません。

会社と会社の合併は、口で言うほど簡単なことではないのです。

『伊藤雅俊の商いのこころ』 p.81                      



対等合併はありえない

合併して効果を上げるには、どちらが主導権を握るのかをはっきりさせる必要があり、一方が他方を抑え込むことになります。

「対等合併」は精神論としてはあり得ても、実際の経営では中途半端な妥協は許されません。

私は人を支配するのも、人に支配されるのも嫌いな人間です。自分が望まないことを他人に押し付けるのは、人の道に反する行為と思うので、私は合併や買収といった覇道を選びませんでした。

『伊藤雅俊の商いのこころ』 pp.81-2                  



逆三角形の組織図

私は1968年に作ったヨーカ堂の組織図に、自分の考えを集約しました。それは一番上がお客様と接する営業の第一線の店舗で、社長が一番下にくる、普通の会社の組織図とは天地を逆さまにした格好の逆三角形の組織図です。

『伊藤雅俊の商いのこころ』 p.88                     



奢りは身を滅ぼす例として『平家物語』が取り上げられます。
時々古典に触れることは大切であると思います。



➳ 編集後記

この記事を最初にアメブロに投稿したのは、9年前(2014-04-20 22:35:08)のことです。

伊藤雅俊さんは2023年3月10日に逝去しました。享年98歳でした。
ご冥福をお祈りします。


合併経験がありますので、社風が異なる企業同士が一つになるということは非常にむずかしいと実感しました。

「企業は人なり」と昔から言われますが、社風は企業の歴史とともに形成されるものです。企業の歴史が長ければ、社風を簡単に変えることは容易なことではありません。社員をそっくり入れ替えることでもしない限り(現実的ではありませんね)、不可能です。

🔴「私は人を支配するのも、人に支配されるのも嫌いな人間です。自分が望まないことを他人に押し付けるのは、人の道に反する行為と思うので、私は合併や買収といった覇道を選びませんでした」

伊藤雅俊さんは「合併や買収」を覇道(武力・権謀をもって行なう支配・統治の仕方)と言っています。

伊藤さんは他人の側に立って考える人であったことがわかります。

伊藤雅俊さんの言葉は商いをする(商売とは飽きずにやらないといけないことから商い)上での心得を述べたものですが、人間としてどうあるべきかということにも通底するものです。

人間を見据えた洞察力の為せる技です。深掘りをしなければ、洞察力は身につきません。成功体験も失敗体験も不可欠です。頭で考えただけでは洞察力は得られません。



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