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ソ連軍が戦力相関(correlation of force)を評価する手法はどのようなものだったのか?

ソ連軍では、軍事的能力の優劣を評価するため、戦力相関(correlation of forces, COF)という概念に基づく分析手法を発達させてきました。簡単に述べれば、戦力相関は軍隊の任務達成の可否を彼我の相対的な戦闘力の比較に基づいて解明する手法です。その基本は軍隊の規模、つまり兵員の数を定量的に比較することでしたが、主力戦車、歩兵戦闘車、火砲、迫撃砲、対戦車火器、航空機など作戦で使用する主要な装備品ごとの比較も行います。

戦力相関の歴史は、第二次世界大戦における赤軍にまでさかのぼることができます。第二次世界大戦に赤軍の司令官を務め、戦後は国防大臣に就任したゲオルギー・ジューコフは、自らの回顧録の中で1942年11月初旬までにドイツ軍が前線に620万名の人員、5万1700門の火砲・迫撃砲、5,080両の戦車・装甲車両を備えた266個師団、3,500機の軍用機、194隻の軍艦を展開したこと、それに対して当時のソ連が660万名の人員、77,800門の火砲・迫撃砲、戦車・装甲車両7,350両、4,544機の軍用機を展開したことを述べていますが(清川勇吉ほか訳『ジューコフ元帥回想録』朝日新聞社、1970年)、これは戦力相関に基づく戦況理解の典型です。つまり、戦闘の状況が戦力の数的な優劣に基づいて変化するという思想が、戦力相関の基礎となっています。

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