反乱を成功させたければ、計画的に人材を育てなければならない
戦争を遂行するためには莫大な人力が必要であり、人事の成否が戦況を左右されると言っても過言ではありません。これは国家間の戦争だけでなく、内戦にも当てはまります。
政府軍は国家が動員した人員で戦闘力を組織化できますが、反乱軍であるゲリラは依拠できる行政組織を持たず、人員の確保から始めなければなりません。キューバ革命(1953~1959)で7月26日運動を率いた指導者の一人であるエルンスト・ゲバラが、自らの著作『ゲリラ戦争(La Guerra de Guerrillas)』(1960)でゲリラの育て方には戦局の段階に応じた調整が必要だと論じています。
移動性の武装集団から地方政権への移行期
新たに発足したゲリラは、政府軍が近づけない難所に潜伏し、決して1か所に定住してはならない、とゲバラは述べています。この段階のゲリラは外部の人間とほとんど接触を持たない小さな武装集団として出発し、地方を転々としながら活動します(113頁)。
この段階で最も重要な課題は、ゲリラの基幹要員を集めることであり、後の部隊の中核となる人材を育成しなければなりません。戦闘の経験を積むため、あるいは武器や弾薬を調達するために、あえて敵と交戦することはあります。しかし、ゲリラとしてまだ未熟な段階であるため、戦闘で大きな損害を生じさせないよう注意を払うべきであり、ゲバラは一撃離脱の戦い方を徹底させることを主張しています(114頁)。
こうした戦法では、敵に大した損害は与えることは難しいものの、敵に損害を与えるよりも、ゲリラの存在を広く社会に認知させることの方が重要です。政府に不満を持つ人々に、ゲリラに加わるという選択肢を与え、組織の基盤を拡大することが重要です。この過程でようやく居住地区に勢力圏を広げていくことを考えることができるようになります。
居住地区にゲリラの勢力圏、支配地域を広げれば、周囲を警戒監視するための陣地を構築し、敵が近づきにくい場所に産業を興す段階へと入っていきます。この段階でようやくゲリラは1か所に定住可能となり、「靴工場、葉巻や紙巻き煙草工場、衣料品向上、兵器工場、製パン所、病院、そして無線送信機工場や印刷所など」が開設されます(同上)。
この段階のゲリラは一つの小さな集落を擁する地方政権であり、したがって軍事部門だけで完結する組織ではなくなります。裁判所を設置し、農民や労働者に対する教育や宣伝を始めるので、政治部門が重要になってきます(同上)。
地方から中央を圧迫する
地方に政権を樹立すればゲリラは支配地域に居住する農民や労働者を徴兵し、あるいは志願者を募ることで、軍事部門を効率的に強化することが可能となります。しかし、この段階でも無制限に兵力を使ってよいわけではありません。
ゲバラはゲリラ部隊の人員増加に伴って活動半径を広げていくことが可能になると指摘していますが、当初は1個小隊程度を派遣するに留めることを提案しています(同上、114頁)。この小隊は30名程度の小単位な部隊であり、長期にわたって敵地で活動し続けることはしません。
ゲリラの本隊を動かさない理由は、教育訓練の機能を充実させる必要があるためであり、これは部隊の規模を政府軍と戦える水準にすることを目指しているためです。成果を求めて積極的な行動をとるよりも、多くの新兵に時間をかけて少しずつ経験を積ませることが重要であるとして、次のように論じています(同上、115頁)。
「新兵が続々到着し、すでに法律を公布した新政府の行政は続けられる。学校が設立されて、新兵の強化と訓練が始まる。戦争が進展するにつれて、指導者たちは着々と経験を積んでゆく」(同上)
ゲリラが政府軍の本拠地である首都を攻めるタイミングは、このような部隊の増強を終えてからのことであり、この段階でも相当の時間をかけることになります(同上)。市街地はゲリラ戦を展開しにくい地域だとゲバラは述べており、正面から攻撃することは避け、敵の内部で破壊工作を頻発させ、市民生活を麻痺させた上で攻撃を開始すべきだと述べられています(同上)。
この時期になれば、敵から奪い取った重火器を部隊で運用可能になっているため、局地的勝利を積み重ねつつ敵を圧迫していきます。こうすれば、地方から首都へ向かって段階的にゲリラを前進させ、最後には武力で現体制を打倒することができるようになる、というのがゲバラの構想でした。
以上の紹介はゲバラの著作の一部をまとめたものにすぎませんが、彼が絶えず人材の育成に注意を払いながら部隊の運用を考えていたことがうかがわれます。国内で起こる反乱は、戦争に比べて長期にわたって続くことが多いのですが、これは反乱軍が依拠できる人事的な基盤が乏しいために、長期戦を挑まざるを得ないことである程度の説明が可能だと思います。
参考文献
チェ・ゲバラ『新訳 ゲリラ戦争:キューバ革命軍の戦略・戦術』中央公論新社、2008年
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