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翻訳資料 「戦術とは何か」米海兵隊『戦術』第1章より

軍事学とは簡単に言えば軍隊の制度と運用を社会科学の立場で研究する学問ですが、特に軍隊の運用に関する研究は戦略と戦術に区分することが一般的です。18世紀末に戦略と戦術という用語が導入された当初は、あまり明確な概念ではなく、研究者の間でも定義に違いがありました。

しかし、19世紀にカール・フォン・クラウゼヴィッツは戦闘における部隊の運用を戦術とし、戦闘の結果を利用して戦争を遂行する運用を戦略と区分することを提案したことで、いずれも軍事学に欠かせない概念となりました。クラウゼヴィッツによれば、戦術は戦闘で戦闘力を運用する方法を規定するものですが、戦略は戦争の目的を達成するために戦闘それ自体を利用する方法を規定します。この区別は今でも研究者に受け入れられていますが、戦略と戦術の中間に作戦、あるいは作戦術という分析レベルを追加することや、戦略を大戦略と軍事戦略に細分化することもあります。

ただ、若干の立場の違いがあるとしても、軍事学で軍隊の運用を研究する際に、戦術が最も基礎的な分析レベルであることは変化していません。戦術を研究することは、戦争を構成する要素である戦闘をミクロの視点で研究することです。戦場で兵士、装備がどのように組織化されているのか、部隊がどのように行動しているのか、敵と味方の相互作用がどのような影響をもたらすのかを知るためには、戦術を理解することが欠かせません。しかし、戦略に比べると戦術については一般向けの入門書や概説書があまり多くないように思います。

そこで米海兵隊で教範として採用されている『戦術(Tactics)』の第1章の抄訳を作ってみようと考えました。この章はこれから戦術を学ぼうとする読者に向けて戦術とは何かを一般的に解説しています。語義の説明に終始しているとも解釈できますから、戦いの原則に関する理論的な解説、あるいは具体的な事例を使った部隊の編成や運用には踏み込んでいません。しかし、軍隊の教範で戦術そのものを一般的に説明しようと試みたものは必ずしも多くはないと思うので、入門者にとって価値があると思います。

ご要望が多ければ続きを翻訳することもあるかもしれませんが、ひとまず訳文を公開しておきたいと思います。皆様の調査研究のご参考になるところがあれば幸いです。

「戦術とは何か」

米海兵隊『戦術』第1章
武内和人 訳

 本書では戦いの勝ち方について述べる。勝利を収めるためには、戦術の理解と知識が必要である。しかし、戦術とは何だろうか。

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