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脅迫を成功させるための4つのポイント

脅迫とは相手に自分の要求を受け入れさせるために、武力を背景とした威嚇を行うことをいいます。現状維持を目的とした抑止とは異なり、現状打破を目的としており、しかも武力紛争になった場合のコストを負わずにすむという利点があります。

アメリカの政治学者スティーヴン・ウォルト(Stephen Walt)は脅迫を成功させるための条件を4つのポイントにまとめており、交渉で相手から譲歩を引き出す上で参考になります。

1 相手より弱くても脅迫はできる

ウォルトによれば、脅迫を成功させるために必要なことは、相手よりも軍事力で優位に立つことではありません。大事なことは、相手に何らかの恐怖を与えることであり、たとえ自分より相手が全般的に強かったとしても、相手が恐れていることを何か一つでも引き起こせるのであれば脅迫は可能です(Walt 2002: 152)。

例えば、北朝鮮はアメリカに比べて軍事的能力ではるかに劣っています。戦争になれば北朝鮮軍がアメリカ軍の攻撃を長期間にわたって食い止めることは非常に難しいでしょう。しかし、北朝鮮が核兵器を開発することで、アメリカに耐えがたい損害を与えることができるようになれば、脅迫によって他国から譲歩を引き出せることを認識しています。だからこそ、脅迫の手段として北朝鮮は核兵器を選んできました。1994年に日本、韓国、アメリカから経済援助を引き出し、軽水炉の核施設を無償で提供させることができたのは、北朝鮮のような中小国であっても、アメリカのような大国を脅迫することが可能であることを示しています(Ibid.: 154)。

2 脅迫では信頼を得ることが重要

脅迫が成果を上げるためには、脅迫に信憑性を持たせることが重要であるとウォルトは述べています。もし自分が攻撃しようとしていると宣言しても、自分に攻撃の意図はないと相手に見抜かれると脅迫は成功の見込みがありません。

脅迫に信憑性を持たせるためには、武力紛争になったとしても、脅迫する側にとって失うものは小さく、少なくとも脅迫される側が失うものに比べれば取るに足らないものであると認識させることが非常に重要です。これは脅迫を受ける側は本当に攻撃が現実味を帯びているのかを脅迫する側の立場に立って考えようとするためです。

自分が正常な判断ができなくなっているかのように振舞って見せることも、脅迫に信憑性を持たせる古典的な手法ですが、相手もまた正常な判断ができなくなったかのように振舞うことができるので、そうなると交渉の結果は予測しがたいものになります。ウォルトは相手にどのような対応を選択しても、脅迫をしている側に必ず何らかの利益が生じることを知らせることが有効であると論じています(Ibid.: 153)。

3 相手の動きをあらかじめ予測せよ

こちらが脅迫を選択すると、相手は現状維持のために、こちらの動きを思いとどまらせる抑止を図るはずであり、そのことは脅迫を始める前の段階でよく検討しておかなければなりません。相手が簡単にこちらの動きを抑止、あるいは対処できるようであれば、脅迫を行うべきではありません。

例えば、交渉の相手が世間に公表されることを避けたい写真を自分が持っていれば、それを暴露するとして脅迫することは可能です。しかし、相手はその写真を取り戻し、暴露することを未然に防ぐかもしれません。そうすれば、脅迫はもはや不可能になってしまいます(Ibid.)。脅迫を確実なものにするためにも、相手が対抗しようがないのかよく検討しておくべきでしょう。

4 恐怖を与えた後で、安心を与えよ

脅迫とは交渉で相手から譲歩を引き出す戦略であり、相手に恐怖を抱かせることは手段にすぎません。相手に恐怖を与えた後で、そこから逃れる道を示し、それを選ぶことが賢明だと思わせることによって脅迫は完成します。やみくもに怯えさせるだけの脅迫はまったく戦略的ではありません。

ウォルトは脅迫を受け入れたならば、直ちに安心できるようになると確信させることの重要性を強調しています。脅迫を受ける側は、ひとたび譲歩してしまえば、繰り返し脅迫を受ける事態を恐れるので、その不安は特に注意深く取り除かなければなりません(Ibid.)。本心では平和を望んでいると相手に知らせ、もし譲歩すれば二度と危害を加えることはないと確信させることができれば、それは理想的な脅迫だと言えるでしょう。

見出し画像:U.S. Department of Defense

参考文献

Walt, Stephen M. 2005. Taming American Power: The Global Response to U.S. Primacy, New York: W. W. Norton & Company.(邦訳、スティーヴン・ウォルト『米国世界戦略の核心』奥山真司訳、五月書房、2008年)

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