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第一次世界大戦で化学兵器はどのように使用されたのか?

第一次世界大戦は化学兵器が初めて大規模かつ組織的に使用された戦争でした。その歴史について知っておけば、化学兵器が使用されることの危険性を理解する上で参考となるでしょう。

1914年に第一次世界大戦が勃発し、ドイツ軍がイギリス軍とフランス軍に対して大攻勢を仕掛けてきたとき、化学兵器が戦場で大規模に使用されることを予想できた政治家、軍人、専門家、研究者、評論家はほとんど皆無に等しかったといえます。

フランス軍のごく一部の軍人は、催涙性があるブロモ酢酸エチルを充填した手榴弾を使用しましたが、これは戦況に何ら影響を及ぼすことがなく、組織的な使用には繋がっていません。ドイツ軍も1914年から1915年の初めにかけて、何度か実験的な化学攻撃を実施しましたが、いずれも戦術的な成功を収めるまでには至りませんでした。

1915年4月22日にベルギーのイーペルで始まった戦闘で、ドイツ軍は初めて化学攻撃で成功を収め、西部戦線における化学戦を本格化させました。この化学攻撃を計画したのはドイツの化学者フリッツ・ハーバーであり、彼は塩素を兵器に利用することを考案しました。塩素は水道水の殺菌にも使われているような身近な化学物質ですが、高濃度で吸引すると呼吸器に障害を生じさせます。

ハーバーはボンベに充填した塩素ガスを前線に配備し、風向きを見計らって敵の方向へ放出しました。この化学攻撃でイギリス軍の部隊は恐慌状態に陥り、防御態勢が崩壊する事態になりました。そのため、防護マスクを装備したドイツ軍の兵士は抵抗を受けることなく攻撃できました。ドイツ軍は2日後の24日も同様の化学攻撃を実施しており、5月に入ると攻撃の頻度を4回に倍増させています。

化学攻撃を受けたイギリス軍とフランス軍は直ちに化学戦の重要性を認識し、対策を講じました。まず、前線の部隊に簡易な防護マスクを装備させるように統制し、化学攻撃の被害を減らすように努めています。最初の報復が実施されたのは1915年9月25日にフランスで起きたルーの戦闘であり、この戦闘ではドイツ軍に対して塩素ガスが使用されています。

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