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ロシアのプーチン大統領は戦略家として有能とは言えない『ウクライナと戦略の技術』の紹介

2014年にロシアのプーチン大統領がウクライナのクリミア半島への軍事侵攻に踏み切り、引き続いてロシアはウクライナの東部地域を実効支配する武装勢力を援助したことは学界でも大きな注目を集めました。この一連の動きを見た一部の研究者はプーチンの戦略を優れたものとして評価しています。

しかし、そのような評価は不適当だと考える研究者も少なからずいます。核戦略の研究で著名なフリードマンもその一人であり、著作『ウクライナと戦略の技術(Ukraine and the Art of Strategy)』(2019)ではプーチン大統領の戦略的能力について否定的な評価を与えました。

Freedman, L. 2019. Ukraine and the Art of Strategy. Oxford University Press.

はじめに
1 戦略理論
2 ロシア・ウクライナ紛争
3 戦争
4 文脈の移行
結語:ウクライナと戦略の技術

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この著作の目的は、2014年にウクライナで起きた武力紛争でロシアがとった一連の軍事行動の有効性を事後的に評価することです。議論のポイントは、ウクライナでの武力紛争でプーチン大統領が選択した戦略は熟慮を重ねたものとは言えず、むしろロシアの安全保障環境を悪化させている、という点しょう。もちろん、プーチン大統領が下した決断が何の成果も上げなかったと述べているわけではなく、2014年にクリミア半島を軍事占領することに成功したことは限定的な成果として認めています。

しかし、そもそもロシアの立場から見てウクライナが問題だったのは、ウクライナの外交が西側へ接近する傾向を強めていたことでした。この問題を解決する上でクリミア半島をロシアが軍事占領したことは必ずしも有効ではありませんでした。ウクライナの東部地方ドンバスにおける武装勢力を援助し、ウクライナを政治的に分裂させたことについても、ウクライナが西側に接近する動きを阻止することには繋がっておらず、むしろその動きを加速させていると著者は指摘しています。

「プーチンは、ウクライナの新政権を圧迫し、前政権と同じように欧州連合と緊密に連携することを断念させたかったのだろう。あるいは、ウクライナがさらに分裂していくように促したのかもしれない。しかし、クリミア半島におけるロシアの成功は、ドンバスにおいては再現されなかった。ドネツィク州とルハーンシク州の占領地は自給自足ができていない。そして、ウクライナはこれらの地方を失ったことに適応しつつも、決してその喪失を恒久的なものとして認めようとはしなかった」

根本的な問題として、プーチン大統領がロシアの能力の限界を超えた戦略を実行に移したことを著者は指摘しています。本来であれば、プーチン大統領は利用できる能力の限界を見極め、その範囲内で戦略行動を選択すべきでした。ここにロシアの見通しの甘さがあったと考えられています。

「目標を設定してから、それらをどのように達成するかを尋ねるような戦略家の観念は、現実的にほとんどあり得ないものである。手の内にある資源で目の前の問題を解決するための方法を探るところから始まり、選択肢を検討する段階へと移り、状況の進展に応じて問題を再定義することが、より普通のことである。そして、これが戦略的に行動するということである」

それでは、2014年にプーチン大統領に何をすべきだったのでしょうか。簡潔に述べれば「何もすべきではなかった」というのが著者の評価です。著者は、有事において「何もしないこと」を決断することは決して簡単なことではなく、十分な時間をかけて意思決定を吟味できないときほど、「何か行動しなければならない」という思考に陥りがちであると述べています。

ちなみに、著者は戦略理論を専門とする研究者であり、東欧地域を専門としている研究者ではありません。そのため、紛争の事実関係に関しては既存の研究成果に依拠しているようです。書評をいろいろと読んでいるとロシア側が宣伝している内容はほとんど取り除かれているものの、2014年のクリミア半島に対する軍事占領に関する記述や、ウクライナと欧州連合の交渉に関する記述に間違いがあるとの指摘もあるので、参考文献として使用する際には注意が必要でしょう。

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