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算命学×実話怪談の戦慄!『忌神怪談 占い師の怖い話』(幽木武彦)著者コメント・試し読み・朗読動画

霊感の有無から怪の予兆まで見える脅威の占術、算命学。
怪奇現象の因果を算命学が紐解く、異色の実話怪談集!

内容・あらすじ

昔、義勇兵だったという夫。
〈波乱〉の宿命を命式に持つ彼の妻を襲う
リアルな戦場の夢と生霊の正体は…
――「シリアの狼」より

生年月日から導く命式で霊感の有無まで分かるという占術、算命学。
その占者が遭遇した偶然とは思えない戦慄現象、宿命の怪を綴った異色の実話怪談集!
●子を授かりたい一心で土地の無縁仏に縋った女性が体験した恐怖。
生まれた娘と自身の命式にはある絆が…「二階の窓」
●昭和20年、枕崎台風で土砂災害に見舞われた女性。
彼女のその日の運勢には恐ろしい暗示が…「忌神の降る夜」
●怨霊に祟られた一族。次々と禍に見舞われる分家、
対する本家が無傷な理由とは…「呪われた一族」
●家をつぶすことが自分の使命だと語る女性。
異常干支だらけの家系の根深い因果とは…「白い着物」
他、全25話収録!

著者コメント

 世の中は怪異に満ちていること、そして同時に算命学という占術も、かなり不気味な「怪異そのもの」であることを思い知らされながら、今回もいろいろな方から話を聞くことができました。
「二階の窓」は、そんな「占い師の怖い話」らしいエッセンスに満ちた怪異譚。
 算命学が炙りだす「前世からの絆」で結ばれた母と娘が恐怖の異界へと引きずりこまれ、無事にこの世に帰還する話です。
 エピソードに登場する某著名人の空恐ろしい力にも戦慄すべきものが…。
 どうぞお楽しみください。

試し読み 1話

二階の窓

 強い絆で結ばれた親子というのは、やはりいる。
 柴浦さんという五十代の女性。
 その娘で、現在十代の美緒ちゃん。
 二人の命式を見比べた私は、感慨を禁じえなかった。

◎柴浦さん
 年干支 丁未
 月干支 癸卯
 日干支 壬午

柴浦さんの日干支は「壬午」。
 日干支は狭義で「自分自身」を表す。
 そして娘の美緒ちゃんは、母の日干支と同じ干支の年に生まれている。
 つまり、これまた「壬午」。

◎美緒ちゃん
 年干支 壬午
 月干支 丁未
 日干支 己卯

自分の日干支と同じ干支の年(六十年に一度しか回らない)に生まれてくるなんて、かなりの縁の深さを感じる。
 もっとも、同じ干支がふたつ揃うことを「律音」と言い、そもそも命式間にこれが発生すること自体で、縁の深さを物語ってはいるけれど。
 しかも、柴浦さんと美緒ちゃんの命式に発生する「律音」はこれだけではない。

◎柴浦さん
 年干支 丁未
 月干支 癸卯
 日干支 壬午

◎美緒ちゃん
 年干支 壬午
 月干支 丁未
 日干支 己卯

 柴浦さんの年干支と美緒ちゃんの月干支が、これまたどちらも「丁未」。
 実はこれら以外にも、二人の命式には強い結びつきを感じさせるものがあり「前世でも出逢っていたんじゃないですかね」と私は言った。
 たしかにそうだったようだ。
 縁あって知りあった霊能者には「前世でも親子だった」と言われたという。

 これは、そんな二人が現世で出逢って、三年目頃の話。
 その霊能者も登場する。

 柴浦さんたち夫妻には、なぜだか子供ができなかった。
 柴浦さんは人知れず苦しんだ。
 どうしても子供がほしい。
「そうしたら、あるとき叔母が言ったんです」
 ――そういうときは無縁様。その土地の無縁様にお願いをすればいいんだよ。
 無縁様。
 その土地で無縁仏として埋葬されないまま、寺院ではなく、すぐそこにいる霊――それが「無縁様ってどういうものをおっしゃっていますか」と質問した私への、柴浦さんの回答だ。
「正直、ほんとにそんなことをしていいのかななんて思わないでもなかったんですけど、当時の私は藁にもすがりたい心境でした」
 当時、柴浦さんと夫は、近畿地方某県のある場所にマイホームを購入していた。
 数十年のローン。
 念願の一戸建て。
 自然の豊かな土地柄で、夫の勤め先へも近い好物件だった。
 少なくとも当時は、そう思えた。
「叔母の教えで、私は無縁様にお茶をあげるようになりました。もちろん毎日です。ベランダにお茶をたむけ、どうか子供をお授けくださいと手を合わせて祈りました」
 やがて。
 その甲斐あってか、二人は子供に恵まれた。
 それが、美緒ちゃんだった。
 だが美緒ちゃんは、ちょっぴり身体が弱く生まれた。
 現在は、そろそろ成人式を迎えるような年ごろにまで成長したが、今も柴浦さんは生活のほとんどの時間を美緒ちゃんのために使っている。
 柴浦さんなしに、美緒ちゃんの生活は成りたたない。
「美緒のことを思うと、やっぱり当時は申し訳ない気持ちでいっぱいで。毎日自分を責め続けました。無縁様になんて安易にすがってしまったからよくなかったんだろうかとか、朝も夜も泣き腫らしながら美緒に謝っていましたね」
 そんな生活も、三年ほどが経ったある日。
 ずいぶん長いこと会っていない実弟から電話がかかってきた。
 ここでは徹さんとする。
 徹さんは遠く離れた首都圏で、雑誌記者の仕事をしていた。
「それまで一回も、私たちの新居に来たことはありませんでした。距離も離れていますし、生まれた子が病気だったものですから、弟を呼べるような状況でもなかった。そんなこんなで、弟から電話をもらうこと自体久しぶりでした」
 ところが。
 徹さんの用件は、思いがけないものだった。
 彼は仕事で、ある著名人にインタビューをした。
 それがどんな人物であったかは、ここには書かない。
 性別も。
 だが特異な霊能を持つ人として、当時から一部ではよく知られた存在だった。

 ――あなた、お姉さんがいるでしょ。

 その人は徹さんを見て言ったという。
 徹さんは驚きつつも「はい」と答えた。
 すると、その著名人は言った。

 ――お姉さんのお子さん、もしかして病気じゃないですか。

「『そう言われたんだよ、もう俺びっくりしちゃって』って、電話の向こうで興奮してまくし立てるんです。でも人のことは言えません。私も驚いてしまって。そうしたらその方、弟にさらにこう言ったって言うんです」

 ――あのね。びっくりしないでほしいんだけど、その子のまわりを子供たちの霊が走り回っている。家の中で。

 柴浦さんは慄然とした。
 背筋がゾゾッとしたことを、今でも昨日のことのように覚えている。
 著名人のすごい力に驚嘆した。
 言われてみれば、思い当たる節もあった。
「その頃、美緒を抱っこすると、なぜだかいつも私にしがみついてきたんです。私は『どうしたの』って聞くんですけど、美緒はもうそれどころじゃなくて。とにかくまわりをキョロキョロキョロキョロ。あっちを見ては顔を引きつらせ、こっちを見ては変な声をあげたり、そんな不可解なことがずっと続いていたんです」
 何だろう、いやだなあと心配になっていた。柴浦さんはその人の話を聞いて、ようやく得心した。
 どうすればいいのか、先生に聞いてもらえないか。
 柴浦さんは、無理を承知で徹さんに相談した。徹さんは、可愛い姪と姉のために一肌脱いだ。
「その先生がおっしゃったのは、とにかく私が泣いてばかりいるから、霊たちも私に同化して集まってきちゃっていると。その霊たちも、みんな生前悲しい境遇にあったらしいんですね。だから、泣いてばかりいるのは絶対によくないよと言われたのと、あとは……今住んでいる土地も、ちょっとどうかなということでした」
 柴浦さんたちの暮らすニュータウンは、もともと荒れ地だった土地を埋め立ててできた場所だった。
 心配になって調べてみると、いろいろなところから土を持ってきて造成されたことが分かった。
「いろいろなところってどこよって思いますよね。もういやな予感しかしません。私、ますますそこに住んでいることがいやになってしまって」
 思い悩んだ柴浦さんは、信頼できる霊能者を友人に紹介してもらった。
 その男性霊能者もまた、特異で強烈な能力を持つ人だった。
 霊能者は柴浦さんに言った――とにかく家の中の写真と、家を外から撮った写真を送ってください。
 言われた通りにした。
 数日後、電話があった。
 ――六人ぐらいいます。小さな子供が。
 柴浦さんの背中を、またもぞわぞわと鳥肌が駆けあがった。
 霊能者はさらに言った。
 ――外からお宅を撮ってもらった写真、ありますよね。二階の窓の向こうに子供たちがいます。じっと見ています。みんなでこっちを。
 もうだめだ。
 柴浦さんは思った。
 こんなところに暮らせない。どうあっても、やってなんかいけない。
 霊能者からは、いろいろとアドバイスをもらった。
 たとえば。
 必ず塩と酒を敷地の四隅に蒔くようになさい。床の間に菊の花を活けなさい。飴玉と水を毎日捧げ、一週間経ったら全部川に流しなさい。
「どれもみんなやってみました。でもやっぱり怖いんです。土地に縛られた霊だから、そこを離れればついてくることはないって言われたことも大きかった」
 柴浦さんは決心した。
 しぶる夫を説得した。
 自分だけでは首を縦に振らせられないと分かると、件の霊能者にお願いし、彼からも説明と説得をしてもらった。
 その甲斐あって、だったろう。
 ようやく夫も、ことの重大さを認識した。
「私たちはそこを離れ、今暮らしている街に越してきました。この街に来てから十五年ぐらい経ちますけど、もう二度と怖い思いはしなくなりましたね」
 柴浦さんはそう言って、私を見た。
「ただ、霊能者さんにも著名人の方と同じことを言われたんです。私が悩んだり泣いてばかりだと、どこに行っても寄ってくるものは寄ってくる。それだけは忘れないようにって」
 気持ちを強く持ち、明るく生きよう。
 何があろうと。
 以来、柴浦さんは、そう心に決めた。自分に使える時間のほぼすべてを、美緒ちゃんのために笑顔で使おうとした。
「無縁様に、お茶なんてあげるもんじゃないですね」
 取材の最後に、柴浦さんはそう言って、気味悪そうに微笑んだ。
 強い絆と前世からの縁で結ばれた母と娘は、今日も二人三脚で生きている。

―了―

朗読動画

4/28 18:00公開

著者プロフィール

幽木武彦 (ゆうき・たけひこ)

占術家、怪異蒐集家。算命学、九星気学などを使い、広大なネットのあちこちに占い師として出没。朝から夜中まで占い漬けになりつつ、お客様など、怖い話と縁が深そうな語り部を発掘しては奇妙な怪談に耳を傾ける日々を送る。トラウマ的な恐怖体験は23歳の冬。ある朝起きたら難病患者になっており、24時間で全身が麻痺して絶命しそうになったこと。退院までに、怖い病院で一年半を費やすホラーな青春を送る。中の人、結城武彦が運営しているのは「結城武彦/幽木武彦公式サイト(https://www.takehiko-yuuki.com/)」。既著に『算命学怪談 占い師の怖い話』『怪談天中殺 占い師の怖い話』(竹書房)がある。現在noteにて、「幽木武彦の算命学で怪を斬る!」を連載中。

シリーズ好評既刊

シリーズ1「算命学怪談 占い師の怖い話」
シリーズ2「怪談天中殺 占い師の怖い話」


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