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金沢発、人気シリーズ第9弾『闇塗怪談 瞑レナイ恐怖』著者コメント・試し読み・朗読動画

金沢、加賀、能登…石川県の心霊情報から、
著者のブログに寄せられた戦慄体験まで!
霊感会社員が紡ぐ本気で怖い話。

内容・あらすじ

「あいつ、友達を貪り食うんだ」
友人の連続死と悪夢。
因果の種は少年時代に…。
「鬼ごっこ」より

肉は滅べど、怨みの炎は燃え続ける…
金沢発、闇を呼ぶ実話怪談第9弾!

石川県金沢市で営業マンとして働きながら、夜な夜な怖い話を綴る著者の人気シリーズ第9弾。
家族以外の人間の立ち入りを禁じる友人の家。家に住む神様が怒るからというのだが…「神様が住む家」
加賀市で洞窟を探検していた高校生らが体験した恐怖…「加佐ノ岬」
実家の母から贈られた枕。よく眠れるが、やがて夢遊病のような症状が…「枕」
土地の者が怯える古い社。神様以外が祀られているというが…「知らせ」
空のまま能登の船着き場に戻ってきた遭難漁船。夜、船上にいたのは…「何が起こったか」
小学校の同級生の連続死。心当たりは神社の境内で遊んだ記憶の中に…「鬼ごっこ」他、収録。

著者コメント

9巻目となる本作には私が本当に怖いと感じた話ばかりを収録できたと思っています。
そして、今回はブログの読者さんから寄せられた話の中にもすこぶる怖い話が目白押しで嬉しい悲鳴の中、いつも以上に身近で起こる怪異と闘いながらの執筆になりました。それだけの恐怖譚を出来るだけイメージしながら読めるように書いたつもりです。
私が感じた本物の怖さを読者の皆さんと共有できれば嬉しい限りです。

試し読み1話 

クローゼットの利用法

 これは関東に住む読者の方から寄せられた話になる。
 その日、大澤さんは仕事で川崎の川沿い、多摩方面へ出向いた。
 ドローンを使用して、依頼された家屋の屋根や外装などを調べるのが彼の仕事である。
 基本的に彼が行う調査は家の敷地内に入ることはあっても、家屋の中に入ることは稀だという。唯一の例外を除いては……。
 その唯一の例外というのが、所謂、事故物件の調査なのだそうだ。
 空き家になっている事故物件に対して、
 ・特殊清掃が確実に行われているか?
 ・破損した箇所はないか?
 といったことを調べるのも彼の会社の業務であり、そのような場合には、必然的に事故物件である家屋の中に入って、目視による点検調査が必要になるのだ。
 だが、会社内でも彼が霊感体質で、昔から色々と面倒ごとに巻き込まれていることは周知の事実であるらしく、上司からは常々、
「大澤君は事故物件の調査には行かないようにしてくれ」
 と、釘を刺されていた。
 ところが、その日彼が出向いたお客さんがどうやら日程を勘違いしていたらしく、現地に到着してすぐの朝九時から開始できるはずの調査が、十五時からに変更になってしまった。
 つまり六時間もの空き時間ができてしまったわけである。
 俺ならば、偶然そんな時間ができたとしたらラッキーと捉えてのんびりと過ごすに違いないが、彼はかなり真面目な性格なのだろう。
 彼は空き時間を利用して、翌日行く予定だったアパートの調査へ行くことに決めた。
 実は翌日に行かなければいけない物件は事故物件であり、彼としても内心避けたかった案件であった。だが、会社も現在人手不足であり、仕方なく彼にその仕事を回した経緯があった。
 だから、彼としては嫌な仕事はさっさと片付けてしまおうという気持ちだったのかもしれない。
 そこは東京と川崎の中間くらいに位置する、妙に人里から遠い場所にあるアパートだった。
 現地に到着し、現場のアパートを外から眺めた時、彼は絶句した。
(うわ……ここヤバすぎだろ?)
 直感でそう思ってしまったそうだ。
 彼は持参したアパートの管理会社が作成した書類に改めて目を通した。
 事故物件の詳細が書かれている書類だ。
 事故物件の場合、瑕疵に値する具体情報がかなり書き込まれているのが普通らしいのだが、なぜかその書類には『首吊りで』とだけ記載されていた。
 そのあっさりした内容を見て、これだけのヤバイ雰囲気なんだから、自殺もこれが初めてじゃないはず……と思い、備考欄の下の方を見ると、案の定、同じ部屋で計三回の首吊り自殺が起きていたことが申し訳程度に小さく書かれていた。
 彼は少し呆れてしまったが、こういうケースも多々あるらしく、とにかく一分一秒でも早く目の前のアパートの調査を終わらせてしまおうと、渡されていた合鍵を使って事故物件である部屋の中へと入った。
 中は、特殊清掃が意外としっかり行われており、虫が湧いた所も念入りに掃除されていることが分かった。
 室内の汚れた状態を覚悟していた彼は、その時点でホッと胸を撫で下ろしたが、まだやるべきことがあった。
 それは事故物件の原因となった場所の特定だった。
 殺人ならば殺された場所、自殺ならば自ら命を絶った場所を特定し、その部分が元通りに補修されているかを確認する必要があった。
 今回は首を吊っての自殺であるから、どの場所で首を吊ったのかを特定し、柱や天井、床が破損していないかどうかを確認しなければならなかった。
 彼は注意深くそれらしい場所を観察し、首を吊ったと思われる場所を探した。
 しかし、どれだけ探しても首を吊れるような場所が存在しない。
 天井も薄く、ロープを引っかける柱すら見つからない。
 風呂場を見ても、トイレを見ても、それらしい場所は存在しないばかりか、事故物件にありがちな嫌な空気感もなく、とても綺麗な状態だった。
 更にドアノブも確認したが、とても人間の体重を支え切れるほどの頑丈さはないように見えた。
 彼はさっさとその仕事を終わらせたくて焦っていた。
 しかし、焦れば焦るほど首吊りをしたと思われる場所が見つからない。
 そうしているうちに特殊清掃でも落ち切らなかった隅の、奥に入り込んだ腐臭が鼻に入り込んでくる。
 彼はむせ返りながら必死で吐き気に耐えていた。
 二人目の自殺が発生したのは前年の夏。
 それなのにこれほどの腐臭を放ち続けるものなのか?
 彼はそんなことを考えながら次第に頭がぼんやりとしてくるのが分かった。
 そして、彼は奇妙な違和感を覚えた。
 彼はその時何かに腰かけていた。
 それも全く自覚のないままに……。
 だが、尻に伝わってくる感触は椅子とは別のものだった。

 俺は一体……どこに腰かけているんだ?
 おかしい。さっきまで立っていたはずなのに……。

 そう考えて自分の腰かけている場所をぼんやりと見た彼は、全身に鳥肌が立つのを感じた。
 彼は自分でも気付かないうちにクローゼットを開けて、そこに座り込んでいた。
 どうしてクローゼットなんかに?
 そう考えた刹那。
 耳元で、
「置いていけぇ……」
 という声が聞こえてきた。
 彼はその声が聞こえた瞬間、振り返ることもせずに這いずりながら、何とか部屋の外へ転がり出た。
 そのまま足で玄関のドアを閉め、ガムテープで封をし、そのままそこから走って逃げた。
 ドアを閉め封をしている間にも、部屋の中からは
「待てよ……置いていけよ……」
 という甲高い男の声が漏れていて、それを聞いてしまった彼にはもう、その場所で仕事を続ける勇気は残されていなかった。
 死にたくない。
 四人目になりたくない。
 それしかもう頭に浮かばなかった。
 何とかその場所から無事に逃げ帰った彼は、それでも不安と好奇心からその物件について自分なりに調べてみた。
 すると、過去三回の首吊り自殺は全て、クローゼットの中で行われたことを知った。

 俺はあの時、自殺した三人と同じ場所に腰かけていたんだ……。
 あのままあの場所に座っていたら……。

 そう考えると今でも背筋が冷たくなるそうだ。
 彼は最後にこう言っていた。

 あのクローゼットはきっと管理会社が備え付けた家具なんでしょうね。
 だから処分したくない気持ちも理解できるのですが……。
 でも、あのクローゼットがあの部屋にある限り、首吊り自殺がなくなることはないんだと思います。
 きっともう、あのクローゼットの中にはこの世の者じゃないモノが巣食っていますから。
 そんな気がして仕方ないんです――と。

ー了ー

『闇塗怪談 瞑レナイ恐怖』購入者特典

営業のK×怪談朗読の鬼才136(イサム)
スペシャルコラボ


再生回数1億超え、人気怪談朗読YouTuber136氏が、営業のKが書き下ろす本書未収録の怪談3話を朗読した動画を購入者様限定で視聴できます。

★朗読タイトル
1「人形」
2「ウロコ」
3「蚊帳の外」

(※詳しくは本書のP223ページをご覧ください)

朗読動画

6/27 12:00 公開予定

著者紹介

営業のK (えいぎょうのけー)

石川県金沢市出身。
高校までを金沢市で過ごし、大学4年間は関西にて過ごす。
職業は会社員(営業職)。
趣味は、バンド活動とバイクでの一人旅。
幼少期から数多の怪奇現象に遭遇し、そこから現在に至るまでに体験した恐怖事件、及び、周囲で発生した怪奇現象をメモにとり、それを文に綴ることをライフワークとしている。
勤務先のブログに実話怪談を執筆したことがYahoo!ニュースで話題となり、2017年『闇塗怪談』(竹書房)でデビュー。主な著書に「闇塗怪談」シリーズ、共著に『呪術怪談』『黄泉つなぎ百物語』『実録怪談 最恐事故物件』など。
好きな言葉は、「他力本願」「果報は寝て待て」。

シリーズ好評既刊

第1巻「闇塗怪談」
第2巻「闇塗怪談 戻レナイ恐怖」
第3巻「闇塗怪談 解ケナイ恐怖」
第4巻「闇塗怪談 消セナイ恐怖」
第5巻「闇塗怪談 醒メナイ恐怖」
第6巻「闇塗怪談 断テナイ恐怖」
第7巻「闇塗怪談 朽チナイ恐怖」
第8巻「闇塗怪談 祓エナイ恐怖」


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