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メディアで大人気!怪談社の書記が刻む最新刊『怪談社書記録 蛇ノ目の女』(伊計翼/著)冒頭2話・試し読み公開中

ひっ!息ができない恐怖実話!

あらすじ・内容

メディアでも大活躍の怪談社による、全国で蒐集した怪異を収める書記録シリーズ第三弾。
・学生の時に付き合っていた彼と別れた驚愕の理由「好きだったのに」
・自宅療養中の同僚の家に車で向かうと、途中奇妙な子供に出会い…「お見舞いだったのに」
・突然失った味覚、玄関ドアポストに釘が打たれた藁人形が入っていて…「返ってくるのに」
・壮絶な虐待体験に我を失った後…「母親なのに」
・久しぶりに訪れた幼馴染の実家で思い出とシンクロする切なく不思議な出来事「死にたくないのに」
—―など56話収録。思いもよらぬ結末に驚愕、存分にご堪能あれ。

試し読み冒頭2話

みていないのに

 朝になって悪夢をみたことを話した。
「うそッ。私もよ。どこかの川で溺れる夢だった」と妻がいう。
「ぼくも。川で流されてぐるぐるまわりながら溺れ死ぬ夢」と長男もいう。
 自分もそうだったので細かく聞くと、どうもまったく同じ川のようだった。
「朝からなんだか気持ち悪いな……」
 そこに小学生の次男があくびをしながら居間に入ってきた。お前も怖い夢をみたかと尋ねたが「なにが?」と寝ぼけ眼。彼だけは悪夢をみていないようだった。
  
 次男が川で亡くなる四日前の出来事である。

いわれたのに

「この先の渓谷、心霊スポットがあるって。ネットに書いてあったんです」
 彼は三脚が入ったバックを肩にかつぎながら、歩いていたEさんに尋ねてきた。
「どういけばいちばんラクですか? 険しそうな山道なんで」
 真夏とはいえど、あまりに軽装の彼にEさんはため息をつきながら忠告した。
「そんな恰好で山に登る気か。素人がいけるところじゃないし。止めておきな」
「恰好? おじいさんだって、そんな恰好じゃないですか」
「わしは近くに住んでいるんだ。だいたい心霊なんてものはない。危ないって」
「だいじょうぶっすよ! 撮影にいくだけですから」
 なにをいってもヘラヘラするばかりで聞いてくれなかった。
 
 翌日、心配になったEさんはようすを確かめるため、山を登ることにした。
 その渓谷よりずいぶん手前の崖の下、彼は足を踏み外して落ちたのだろう、変わり果てた姿になっていた。落ちるようなところではないのにと不思議に思ったが、なんとか崖をおり、亡くなっているのを確認して地元の警察に通報した。
 到着を待っているあいだ遺体と一緒にいた。
 可哀そうにと思いながらも、ため息をつき「だからいったのに」とつぶやく。
 すると「……いわれたのに」という声がした。
 声がしたのは遺体からとはいいきれないが、まわりには他に誰もいない。念のため、
 まだ息があるのか確認したが、灰色の肌は生きているようにみえない。
 よくみると、彼の右足首には黒い手形がついていたそうである。

―了―

著者紹介

伊計 翼 (いけい・たすく)

怪談イベント団体「怪談社」の書記として怪談師が取材する怪談を記録している。著書に「怪談社書記録」「怪談社十干」「怪談社THE BEST」各シリーズ、『怪談与太話』『魔刻百物語』『あやかし百物語』『恐國百物語』『怪談社RECORD 黄之章』『怪談師の証 呪印』ほか多数。

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