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❖机上の拡大主義を反省した結果たどり着いた平和主義もまた机上のものかもしれないという疑念❖ まいに知・あらび基・おもいつ記(2022年2月25日)

(長さも中身もバラバラ、日々スマホメモに綴る単なる素材、支離滅裂もご容赦を)
◆机上の拡大主義を反省した結果たどり着いた平和主義もまた机上のものかもしれないという疑念◆

またもや「自衛」の名の下で、大規模な軍事行動が実行に移されてしまった。ガルージン駐日ロシア大使は、林外務大臣との話し合いの中で、今回の行動は侵攻や侵略に当たるものではないとし、プーチン大統領が決定した特殊軍事作戦は、NATOの東方拡大に対する「自衛」にも関わっていると答えたと報じられている。
Once again, in the name of "self-defense," large-scale military operations have been put into practice. Galuzin, the Russian ambassador to Japan, said in discussions with Foreign Minister Hayashi that this action was not an invasion or aggression, and the special military operation decided by President Putin was also a "self-defense" against NATO's eastern expansion. It is reported that he answered that he was involved.

今回の行動が国連憲章第51条にも定められている「自衛」に該当するかどうかは別に論じる必要があるだろう。しかし、何よりも今回の行動に対して国際社会では動揺や相互不信が大きくなっているのは間違いがないと思う。

これまで、政府とその管理下での経済システムに対して不信感が高まると紙幣の交換価値が揺らぎ不安定さが増すため、実物としての商品価値への回帰が求められるようになり、極度のインフレーションが引き起こされてしまうのと同じように、信用・信頼で成り立っていた集団安全保障システムも、今回のウクライナ情勢でのアメリカの対応を中心として、そのシステムだけに依存していることのリスクが顕在化してしまい、実効性の価値が感じられる「核抑止力」へ傾倒していってしまうのではないだろうか。

そして、アフガニスタンから米軍が撤退する際に垣間見えたドライな一面や、今回のウクライナ情勢に対するアメリカの動きから、いざとなったとしてもアメリカは守ってはくれないのではないかという不信が広がっていくことを私は危惧している。

また、ロシアとウクライナの関係に着目すると、あるグループからの離脱の動きを示し始めた子分に対して、親分が引き留め工作を本格的にすることで状況は泥沼化していくパターンにも見える。これについて、旧ユーゴスラビア紛争において、スロベニア・クロアチア・ボスニアヘルツェゴビナなどがユーゴスラビア連邦からの離脱の動きを見せる中、セルビアが軍事行動を本格的に実施した事例が思い出され、ウクライナ情勢がそのときと重なる部分が多いように私は感じている。

ニュースサイトのwowKoreaによれば、ウクライナのドミトロ・クレバ外相は様々なメディアに対して、以下のような発言を繰り返していることが報じられている。
「1994年の核放棄決定は、賢明な判断ではなかった」
「(米国は)当時約束していた安全保障を履行せよ」
「当時もし米国が、ロシアとともにウクライナの核兵器を奪わなかったら、より賢明な決定を下すことができただろう」
「1994年、ウクライナの “核放棄”のかわりに、米国が交わした安全保障の約束を守らなければならない」
「1994年ウクライナは、世界3位規模の核兵器を放棄した。我々は特に米国が提示した安全保障を代価として、核兵器を放棄したのだ」
「当時我々は『誰かが我々を攻撃したら、米国が我々を助ける国の一つになる』という約束を交わした」

このクレバ外相の発言に出てくる1994年の核放棄というのは、1994年12月に開催された欧州安全保障協力機構(OSCE)の会議において署名された「ブタペスト覚書」の内容を指している。この文書では、ウクライナが非核化を進める約束として、アメリカ・ロシア・イギリスが「(ウクライナの)独立と主権および既存の国境を尊重」することや「ウクライナの領土保全または政治的独立に対する脅威または武力の行使を差し控える義務を再確認」することのほか、「これらの約束に関する疑問に関わる状況が発生した場合には協議」することなどが示されている。なお、同様の内容の文書を、ベラルーシやカザフスタンもアメリカ・ロシア・イギリスと交わしている。

Memorandum on Security Assurances in connection with Ukraine’s accession to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons 
Budapest, 5 December 1994 

The United States of America, the Russian Federation, and the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, 
Welcoming the accession of Ukraine to the Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons as a non-nuclear-weapon State, 
Taking into account the commitment of Ukraine to eliminate all nuclear weapons from its territory within a specified period of time, 
Noting the changes in the world-wide security situation, including the end of the Cold War, which have brought about conditions for deep reductions in nuclear forces. 
Confirm the following: 
1. The United States of America, the Russian Federation, and the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, reaffirm their commitment to Ukraine, in accordance with the principles of the CSCE Final Act, to respect the Independence and Sovereignty and the existing borders of Ukraine. 

2. The United States of America, the Russian Federation, and the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland, reaffirm their obligation to refrain from the threat or use of force against the territorial integrity or political independence of Ukraine, and that none of their weapons will ever be used against Ukraine except in selfdefense or otherwise in accordance with the Charter of the United Nations. 

6. The United States of America, the Russian Federation, and the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland will consult in the event a situation arises which raises a question concerning these commitments.

しかし残念ながら、この約束が尊重されることなく、ロシアによるウクライナ侵攻が始まってしまったので、ウクライナからすれば、ロシアだけでなく、アメリカやイギリスに対しても不満があるわけである。ウクライナからすれば、非核化させておきながら、それとの交換条件だったはずの領土保全や政治的独立を守ろうとアメリカやイギリスが積極的に行動してくれていないと感じているはずである。「騙された」と思ってしまっても仕方がない状況ではないだろうか。

この問題はウクライナだけに留まらない。戦後、国際社会が築き上げてきた集団安全保障システムが試されていると言わざるを得ない。特に、領土保全・政治的独立を交換条件として、非核化地域を広げていこうとする動きについては、それが机上の空論ではないかという疑念から、今後、その条件を真剣に受け止める国は出てこないかもしれない。

そしてロシアの拒否権発動によって、安全保障理事会は法的拘束力のある決定をすることができないわけで、今後、冷戦期のような機能不全が続くと思われる。そうなると、集団安全保障システムは机上の空論であることがはっきりしてしまう。このシステムを頼りにして、自国の安全を保持しようと考えていた国は、別の手段を用意しなければならなくなる。その結果、再び「核保有」を考えるようになる国も増えてしまうだろう。つまり「核抑止力」の流れに向かっていくわけである。
And Russia's veto will prevent the Security Council from making legally binding decisions, and it is likely that dysfunctions such as those during the Cold War will continue. When that happens, it becomes clear that the collective security system is a desk theory. Countries that have relied on this system to maintain their security will have to provide alternatives. As a result, more countries will think about "nuclear possession" again. In other words, we are heading toward the flow of "nuclear deterrence."

それは「信用・信頼」という抽象的な価値を前提にするような「理想の安全保障」ではなく、「力(特に、核抑止力)」という具体的な価値を前提にするような「現実の安全保障」への流れである。
It is not the ideal security that presupposes the abstract value of credit and trust, but the actual security that presupposes the concrete value of power (especially nuclear deterrence).

日本は戦前や戦中は自国に都合の良い机上の空論を前提にして、拡大戦争という破滅の道を歩んだ。戦後の日本は「平和主義」や「非核三原則」を掲げ現在に至っているが、もしそれらが「ブタペスト覚書」のように机上の空論に成り下がる可能性があるとすれば、「理想の安全保障」という平和主義を信じながら、同時に破滅の道を歩んでいることになりはしないだろうか。

この一連の主張に対して、もう一人の私はどのように反論すべきだろうか。

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