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なんとなく好きなもの

日頃ぼんやりしながら生きているようで、人っていうのは案外忙しない生き物だなぁと改めて考える時がある。
朝起きるにしても時間通りに起きなきゃいけないし、起きたら歯を磨いたり顔を洗ったりして、間髪入れずにご飯を食べる用事も待っている。
日々は何気なく過ごしているようでいて、実は何かしらの予定でいっぱいいっぱいなのだ。

そんな中で物を書いたりしてる訳だけど、書いている時間が好きだし本を読む時間ももちろん好きではある。
偏りがあるのは百も承知だけど、好きなものは好きだ。
他に何か好きなものはあるかなぁと考えてみると、これまた僕は好きなことが沢山あったりする。
音楽も好きだし、自転車に乗るのも好きだし、散歩も好きだし、知らない道を地図で見たりするのも大好きだ。
書くことと同等くらいに熱を込めてプラモデルや様々な材料で情景を作ることも大好きで、何かしらの作業をしている時にいつも流しているラジオがある。
それがオードリーのオールナイトニッポンだ。
二人のやり取りはまるで男子高校生がしているような下らない放課後のバカ話みたいなものが大半だけれども、流し聞きしている内にすっかり日常の一部みたいになってしまった。
それくらい、聞いていて飽きないのだ。

ラジオの細かな内容は置いておくとして、お笑いを見て生まれて初めて衝撃を受けたのがオードリーのズレ漫才だった。
その時の僕はあんまり家族仲がよろしくなく、家に帰って揉めることが年中だった。
もう生きるのも面倒臭いと思い、自分で自分の命を落としそうになったり、それまで知り合った友人や知人達との関係を断ち切って、家の中で一人で過ごすことが多かった。
気分は当然毎日塞ぎがちで、何をしても何を見ても楽しくはない。
何度も観た同じ映画のDVDを隔週で借り、新しいものを見てもいまいちピンと来ない。
飽きることにさえ飽きてしまい、そのうちこれは病気なんじゃないかと気が付いた。

意を決して生まれて初めて向かった精神科で、先生は僕のカルテを眺めながら開口一番、こう言った。

「あの、突然ですが今日から二週間入院出来ますか?」

その時の僕は不眠が続いていて、希死念慮が酒を飲んで服を着て歩いているような人間だった。
ダメだこりゃ!次逝ってみよう!という精神で人生を来世にかけていたので、この患者は急を要すると思われたのだろう。

僕は入院の為の準備をしに帰ると伝え(止められたけど)、そのまま家に引き返して病院へは戻らなかった。
分かってはいたけれど、家族に「こんな風に言われたんだけど」と話をしてみると、案の定「ゆっくりしなさい」とは言われず、親父からは「(生きることに)やる気がねぇだけだ」と言われてしまい、母親からは気のせいだからとにかく稼いで家に金を入れろと言われてしまった。
妹達は「元から頭おかしいからね」とゲラゲラ笑っていたし、自分でもおかしいと思っていたから特にショックを受けたりはしなかった。

この俺っていう人間はなんだか虚しいなぁ、と不貞腐れそうになっていたが、その数時間後に部屋で眺めていたテレビの前で僕は腹を抱えて笑い転げていた。

自信満々にゆっくりと歩きながらスタンドマイクへ向かう気持ちの悪い男に、まずは目を惹かれた。おそらく漫才のはずなのに、相方が話し始めても相槌ひとつ打つことなく、相方に顔を近付け、何故か胸を張っている。

「まぁ、ここにいるお客さんはみんなオートロックのマンションに住んでいると思いますけど」
「プレハブだろ!」

やっと口を開いたと思った気持ちの悪い男は、なんとツッコミだった。
あまりの面白さに一瞬で心を鷲掴みにされた僕は、それからすぐにオードリーのファンになった。
春日という人間の謎に偉そうで自身に満ちた姿が癖になり、若林の考えなくてもいいことをわざわざ考えて斜って話す感じも好きになった。
エッセイ本を買ったり、DVDを買ったり、気が付けば僕はかなりのオードリーファンになっていた。

なんでずっと好きなのかなぁ?と、ちょっと考えてみたことがあった。ネタの面白さや二人のキャラクターはもちろんだけれど、好きになった時に熱量がハンパじゃなかったこともその一因だった。

オードリーの漫才を観た翌日、僕はたった二人だけ連絡先を残してあった友人達に連絡を取っていた。

「昨日、オードリー観た?」

前置きもなく、そんな風に聞いていた。
誰とも連絡を取りたくないし、生きるのも面倒だなぁと思っていた僕だったが、オードリーを観た直後から、すぐに誰かに教えてやりたい欲求に駆られていたのだ。二十半ばのいい大人だったはずが、まるで中学生ロックに撃たれた直後のような気分になっていた。
翌日。友人の家に行き、僕らは無事にオードリーの違法アップロード動画を発見し、三人で腹を抱えながら笑い転げた。
あれからもう十四年が経つと思うと、僕はずっとオードリーが好きなんだなぁと改めて思ったので、ちょっと書いてみた。
好きの度合いも強烈、熱烈!ではなく、なんとなくで心地良いことすら丁度良いのだ。(なんと失礼な)

ちなみにラジオのお気に入りは二人が話す岡田マネージャーの話で、若林のひまわりを育てる話と、春日のポテポンのロケ話も大好きです。

これからも聞き続けるだろうなぁと思うし、多分二度と言わないと思うけど、僕は紛れもなくリトルトゥースです。

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