【エッセイ】 北くんとバッドエンドラブレター
のべりー!というアップリでお題に添って小説を書いてみました。
完全に別のサイトですが、たまにはnote以外でも良いかと思い書いてポン!と投稿しました。
よければ読んでみてネ!!
と、よそのサイトの宣伝タイムはここまでで、ここから本題。
のべりー!のお題が「チューインガム」だったので、過去に何かチューインガムに纏わる体験はあったかしら、と思うとほとんど何もなかった。
僕は小さな頃にガムを飲み込む癖があったらしく、
「ガムを飲んだら腹に溜まっていつかパンパンになる」
と兄に真剣な顔で脅されたことがあったくらいだ。
普段ガムは噛まないし、何かないかなぁと思っていると高校二年の頃の友人の悲劇を思い出した。
悲劇のヒーローは北くん(仮)と言い、ピアノが上手で頭も言い優等生タイプのヤツだった。
部室で煙草を吸いながらギターをジャンジャカ弾いたりドラムをポンポコ鳴らす僕らみたいなボンクラとは違い、二年の春には早くも大学受験に備えて熱心に勉強をするTHE・優等生な北くんであったが、うちのドラムが
「キーボードも弾けるだろ?弾いてよ」
と強引にうちのバンドに誘い込んだことで北くんは少しだけヤンチャになってしまった。
髪を茶髪に染め、それまで真面目キャラだったのがオリラジの慎吾のような絵に描いたようなチャラ男風になってしまったのだ。
積み上げるのは時間が掛かるものの、人間崩れるのは一瞬だなぁ……と、同じバンドメンバーながら元から人生が崩れていた僕は同じ目線となった北くんを憐みながら見つめていたものの、北くんは暴走した。
「夏休みはやっぱり恋でしょ!サマー・ラヴでしょ!それしかないっしょ!」
と、本気で言うような人になってしまったのだ。
勉強もストップし、チャラに熱心になったおかげで北くんはキーボーディストとしてもグン!と腕を落とし、バンドでもギターコードと全く同じコードしか弾かないため、しょっちゅう僕とドラムから
「バンドナメてんのか」
と詰められるようになっていた。
そんな北くんだったが上達の見込みがなく、誘っておいてなんだけどクビにすることにした。
クビが決まると北くんは水を得た魚のように
「ヒャッホー!ふぅうううう!俺は遊ぶぞぉー!」
と溜まりに溜まったチャラゲージをマックスにして、ある女の子(Hさん)に狙いを定めたのである。
その娘は当時流行していた「原宿系」を模写したようないわゆる「おしゃれ」な女の子で、しかもベースが弾けるので僕とは同じ部活でコピーバンドも組んだりしていた。
そこに目をつけていた北くんは、まず僕に接近し始めた。
「バンドの時はごめんよぉ〜。でもさぁ、改めてクラッシックの世界ではなくて、ちゃんとバンドのこと分りたいと思ってさぁ」
「そうなん?パンクを聴いて壁に頭をぶつけてたらいつか分かるようになるよ」
「マジで?よーし、頑張るぜえー!」
「嘘だよ。ていうか、なんで今さらバンドのこと分りたいの?」
「たけちゃんってさぁ、Hさんと同じ部活じゃん?」
「そうだね」
「だからさ、色々バンドのこと教えてもらって、俺もバシッとキーボード決めて、Hさんにカッコいい!って思われたいんだよね!
「だったらうちのバンドで最初から真剣に弾いてくれてたら良かったじゃん」
「だって怖いし厳しいんだもん。怖くない方法でバシッと決めて、カッコいい!って思われたいんだよぉ」
「うーん、バンドで今さらってのはなぁ……北くん評判悪いからバンド組めないと思うよ」
「えっ!そうなの!?」
事実、そうなのであった。
アイツはピアノができることに胡座をかいている!けしからん!という輩や先輩が何人かいて、その中のFくんという筋肉マンみたいな奴が付け焼き刃でピアノを猛練習した結果、三ヶ月でXのサイレント・ジェラシー(選曲よ)を披露するまでになったという偉業が達成されていた時期だったのだ。
腕まくりをした大木のような腕で
「北よ!見よ!これがTHE・ピアノマンという者なのだ!」
と意気揚々とサイレント・ジェラシーを弾くFくんの姿に北くんはジェラシーするどころか、Hさんという素っ頓狂な方向を見つめていたのであった。
楽器じゃもう振り向いてもらうチャンスはないだろうなぁとか思っている内に、僕の悪い癖が出た。
北くんを応援するどころかだんだん面倒臭くなって来てしまい、挙句の果てに
「男らしく堂々と告白しなよ」
そうアドバイスしてしまったのだ。
北くんは全てを理解したような顔つきになり、立ち上がった。
ちょうどホームルームが終わってみんなが帰る準備をしている頃で、教室の隅で他の女子達と喋るHさんもそこにいた。
北くんはHさんの方をまっすぐに見つめて、叫んだ。
「Hさん!好きだ!」
クラスメイトの視線が一斉に北くんに向き、すぐに静寂が訪れた。
考えてもみて欲しい。僕らの高校は県内でも下から数えればすぐに行き当たるようなバカ高校で、モラルだの思いやりだのなんてものは皆無の学校なのである。
ありがちなパターンだと、この静寂を破るのは盛大な拍手やヒューヒュー!などと盛り立てるクラスメイト達、そして困ったように笑みを浮かべるHさんの姿……。
な感じだと思うのだが、違った。
静寂を突き破ったのは割れんばかりの大爆笑であったのだ。
ギャハハハハハ!!
バカが出た!バカが出たぞー!!
皆が口に出しながら、立ち止まることもなくさっさと教室を出て行った。
あー、やっちまったなぁと思ったのだが、Hさんはおもむろに机に向かってメモを書くと、こちらへらって来た。
そして可愛らしい笑顔を北くんに向け、何かを手渡した。
「北くん、あげる」
「えっ……」
北くんの手には、くしゃくしゃのチューインガムの包装紙が握られていた。
それをゆっくりと開くと、噛んだガムの銀紙と共に
『無理』
と書かれた包装紙が広がったのであった。
ゴミに書かれた「お返事」を手にしつつ、北くんは呆然と立ち尽くしたまま肩を震わせていた。
なんて言葉を掛けて良いか迷っていると、Hさんが北くんに明るい声でこう伝えた。
「ゴミ、ちゃんと捨てといてね」
北くんは泣いた。
こんなことがあったなぁと思い出して書いてみたけれど、僕が唯一持っているチューインガムの思い出はこんなものだった。
今にして思い出すとしかし、ひでぇフラレ方だなぁと思うし、少しだけ北くんに同情してあげても良かったのかなぁなんて思う。
北くんはそれ以降髪色を戻し、真面目な日々に戻っていった。
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