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【後編】 宗教法人に拉致されたよ、というおはなし 【エッセイ】

前半はコチラ


あれは高校二年の頃。同じ高校の先輩を名乗る見知らぬ男からの電話をもらい、僕は地元の商工会館へと足を運んだ。ちょうどその頃学校でギターが盗まれる事件が発生しており、おそらく事の発端となったのは僕だった。
先輩からの呼び出しという事もあり、きっとギターの件での呼び出しだろうと向かってみると、そこで待っていたのは見覚えのない小人のような男とオカメっツラの金髪二人組であった。

前半で伝えた通り、僕は団体のビデオを強制視聴させられた後にまんま見事に宗教勧誘を受けた。
それを頑なに断り続けていると少年部隊長という男が登場、それに屈する事なく断り続けていると何と青年部長なる鼻毛ボーボーの小太りのオッサンが登場したのであった。

会議室へやって来た鼻毛は僕を見るなり、

「ふんふん。ほう、これは魔がついてるね」

なんて如何にも「それっぽい」事を言い始めた。
僕と対面になった鼻毛は自己紹介もそこそこに、突然こんな事を言った。

「僕は昔、相当なワルだったんだ」

いやいやアンタ!バリバリ現役で極悪な鼻毛がついとりまんがなー!!と言いたくなったが、その風貌からは一体どんな種類のワルなのか想像できなかった。
近い線で言えばパンツ泥棒とか上履泥棒だろうか……と思ったら僕の相槌を待たずに鼻毛は勝手に話し始めた。

「今の妻と出会ってね、僕は妻の父が残してくれた工場を継いだ。でも不況の波に勝てなかった。従業員を守らなければならない……けど、経営は悪化。そんな時に出会ったのがこの真実の教えなんだよ!」

うわぁ!なんかの通販みたい!!と僕は思ったものの、ひたすら「はぁ」とか「へぇ」と生返事をし続けた。
鼻毛はそれでも熱っぽくこの宗教がいかに素晴らしいかを説き続けていたけれど、僕は「そうですか、早く帰りたい」しか言わなくなっていた。
すると、痺れを切らした鼻毛はテーブルを思い切りグーでぶっ叩き、こんな風にブチ切れた。

「さっきからなんなんだよ!?ええ!?人がせっかく折伏してやってんのにさぁ!!何が不満なのか、言ってごらんなさいよ!!」

これには流石の僕もカチンと来た。

「いや、頼んでないし。勝手に呼び出されて訳分からない宗教勧められて、入る訳ないでしょ。興味もないですよ」
「それが「運命」だって言ってるんだよ!!」
「そんな運命ある訳ないでしょ。そんなんなら世の中運命だらけになりますよ」

こう返した後、この鼻毛は僕が一生忘れないであろうセリフを吐いた。
鼻毛は怒り心頭!といった様子でテーブルをバンバン叩き、テンポをつけながらこう叫んだ。

「君の理想を語ってごらんよ!!僕が全部論破してあげるから!!」

全部論破して「あげるから」。これには流石に苛立ちを越え、仏のたけちゃんも大魔神に変貌しそうになったのである。
こんなに人をイラつかせるセリフが他にあるだろうか。それに、論破するクセに語らせるとはどういった意味があるのだろうか。
僕は頭に来たのもあり、これ以上は付き合いきれないと思って匙を投げた。

「すいません、もういいですか?帰ります」
「ダメだ!キッチリ折伏を受けるまで帰さないからな!」
「頼んでないんで。失礼します」

ちょうどそのタイミングで会議室の貸出時間がやって来たようで、商工会館の人が会議室から出るように促して来た。あ、ラッキーだ。そう思った途端だった。
鼻毛は立ち上がり、絶叫した。

「おい!逃すなよ!車回せ!うちで折伏するから!早くしろ!」

その声を聞いた信者の男達は僕を取り囲み、今から車に乗るように催促して来た。

「ヤダヤダヤダヤダー!!」

と全力でダダをこねると、彼らは僕を立ち上がらせ、そして商工会館前につけた車の後部座席に無理矢理押し込めたのだ。
おまけに外を見ないように言われ、鼻毛の家に着くまで顔をシートに押し付けられ続けていた。

たどり着いた鼻毛家で僕を迎えたのは心なしか鼻毛が飛び出しているように見える奥さんと、心なしか鼻毛が飛び出しているように見える子供達だった。
やたら気味の悪い笑みを浮かべながら
「おめでとうございます」
と言われ、僕は玄関で「助けてー!」と喚き散らした。
しかし、無常にも助けなど来るはずもなく、仏間に連れて行かれた僕は数珠と経本を無理矢理渡された挙句、念仏を唱えるように言われた。

「心から唱えて!心から!」

と鼻毛による猛コーチが始まったが、僕は心底イヤイヤしていたので渡された数珠をブン投げた。
すると、信者達は飛んで行った数珠を犬のように追い掛け、「嗚呼!」と悲鳴をあげたのであった。
それでも彼らは諦めず、僕は根負けしてとうとう数珠を持つハメになった。
念仏は唱えなかったのと、頑なに断り続けたのもあって僕は次回話し合う事にして無事に解放となったが、鼻毛は僕を解放する時に

「この事は学校や親御さんには内緒にしなければ仏罰が下るよ」

と何度も念を押していた。卑しい気持ちがあったのがバレバレである。

その帰り道、数珠と経本を持たされた僕は宗教に根負けしてしまった悔しさのあまり、たまたま通り掛かった警察署の草むらに向かって泣きながら数珠と経本を投げ捨てた。警察からしたらとってもいい迷惑である。

チキショウチキショウチキショウチキショウ………アイツラ……ゼッタイニフクシュウシテヤル……!!!!

この時の心境は旧劇版エヴァの量産型エヴァに二号機をむしゃむしゃされるアスカと全く同じ心境だった。
なので僕は多少なりとも、やり返す事にした。

学校へ行くなり先生へ事の顛末を話すと、

「あぁ!?あの野郎またやりやがったんか💢」

とブチ切れた。なんでも小人の勧誘は校内でだいぶ前から問題になっていたらしく、ついに注意喚起を促すプリントが生徒全員に配布され、小人と仲間信者達は晴れて停学となった。
僕はそれだけでは満足が出来ず、今度は僕が小人を呼び出す事にした。

駅前のベンチに呼び出し、徹底的に話し合う事にしたのだ。証人としてこの話を面白がっていた友人二人に他人のフリをしながら隣のベンチにも座ってもらい、いざ討論会が始まった。
小人は「この地球は近い将来隕石が落ちて破滅する!この仏法の学びを実践すれば救われるんだ!」と熱弁をふるい始めた。他人のフリをしていた友人二人は既に爆笑していた。
僕は小人に訊ねてみた。

「それだけの質量がある隕石が地球に落ちたら助かったとしても宇宙に放り出されそうですけど、窒息死しないんですか?」

小人は真顔でこう答えた。

「その時は仏様がバリアを作ってくれるから大丈夫なんだよ!」

この答えには流石に僕も笑った。あんまり面白いから色々突っ込んで聞いてみると矛盾がボロボロ飛び出して来た。

Q 魂の数は決まってるというが人口が増え続けているのは何故?
A それは仏様が天界の畑で魂を植えているからです
Q この仏法を実践したら交通事故や災害で亡くなる人が世界からいなくなるのでは?
A その通り、いなくなります。だから早く広めなければなりません。
Q それならば、日常のわずかな危険も察知して回避出来るようになりそうですよね?
A その通りです。万が一事故に遭っても身体は無事でいられるので、痛みも何も感じる事はありません。

この返答をもらった時、僕は裏が取れたと思い、ノーモーションで小人を思い切りビンタしてみることにした。パンッ!という音と共に聞こえて来たのは

「痛い!」

という小さな叫び声だった。小人は頬を抑え、その場に背を丸くしてうずくまった。言葉で通じない相手には暴力を行使し、分からせる以外に方法はないと思った。
僕の出した結論、そして僕なりの真実は「暴力による解決」だった。

「おい、痛ぇんじゃねぇかよ。どういうことだよ?」
「だって、あんなのマイク・タイソンだって避けられないよ!※原文ママ」
「インチキだって認めろよ、痛ぇんだろ?」
「それとこれとは話が違うじゃないかぁ!」
「心の準備しろよ。もう一回叩くから、ほら、こっち向けよ」
「警察に訴えてやる!」
「おお、いいよ。俺もおまえらの事訴えてやるから。人のこと騙して拉致した挙句、動けないように車の中で拘束されたって言うからな」
「そ、それは誰にも言わない約束じゃないか!」
「俺は約束してねーんだよ。ほら、ぶっ叩くからこっち向いてろよ」

小人は自分の発した矛盾を解決する術をなくし、ボロを出し、震えていた。そこへ我慢ならなくなった友人二人が指をポキポキ鳴らしながら

「俺もやるー!」

と来たもんだから、小人は話の途中でその場から逃げ出してしまったのだった。
こうして僕のささやかな復讐は幕を閉じたのであった。

その後も校内や地元では信者の勧誘が後を絶たず、時には暴力で折伏するような連中も現れたおかげで活動は一気に縮小していった。

しかし、近年では新たな信者が増えているとニュースで見た記憶がある。駅前で新聞を配っているのも時折目にしたりする。
コロナ禍にあって、なおさら戦争なんかおっぱじまったもんだから心が不安になる人も多いのだろう。

しかし、溺れた時に掴んだものは所詮藁にしか過ぎない。
心の中に存在する不安も、他人によって植え付けられたものではなく、自分の中から湧いて出てくるものなのである。
そんなものを他人や宗教によってどうにか出来ると思うなら、それは心に鎮痛剤を打っているだけに過ぎないのだ。
自分の不安を解消する方法は、自分と向き合う以外にない。
目を背けるあまり、気付いた時には何処を向いて生きているのか分からなくなるなんて本末転倒じゃないか。

そんな風に僕は思うので、自分に負けない強い自分を作りたい方は是非「大枝教」の入信案内を希望して頂きたい。

というのは冗談な訳ではあるが(ヨッ!座布団128枚!)、結局自分自身を感じられるのは自分しかいないよって話です。
念仏唱えて救われるなら戦争も起きてないだろうし、バリアが張られるおかげでコロナも虐殺も起きていないだろうからね。
もし現役の方がいるなら、その辺を冷静に見て、考えてみて欲しいなぁとも思っています。あと新聞持って家に来るの誰も頼んでないので、やめた方が良いと思います。

プラモコーナーにいると、未だにたまに声掛けて来ますよね。
ガンガン声掛けて下さいね。僕は頑なに断り続けます。
それでも声を掛けたい方、僕が「全部論破」してあげます。

それでは、また次回のエッセイでお会いしましょう。
怪しげな勧誘には要注意!


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