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埼玉の田舎者、地元サーファーにイジメられる

僕は大人になってから新しく出来た友人というのが極端に少ない。仕事の縁で知り合った人達は仕事が変わればそのまま縁が切れていたし、継続して付き合って行きたいと思える人との出会いも少なかった。
何かしらのコミュニティなど、友人を作る場へ足を運ぶのも苦手だ。
なら「置かれた場所で咲きなさい」とは言うが、いやいや、そもそも勝手に置いてんじゃないよとも思う。

そう思うのは中学から付き合いのある友人達と大人になった今も遊び続けている事が大きく影響しているかもしれない。
アホ丸出しだった中学時代から共に大人になり、友人達に彼女が出来たり結婚したり子供が生まれたりとリアルタイムで大人になって行くのを感じている分、自然と情も湧いている所もあると思う。

そんな風に若い頃から良くつるんでいる友人のDとWだが、Dは新しいことに次々にチャレンジするタフな精神を持っている。
それはテニスだったり官能小説だったりサーフィンだったり投資だったりキッチンカーだったり、やってみてダメなら次!の精神で様々なことに今でもチャレンジし続けている。
最近はメダカの養殖もやっていて、釣ったザリガニを水槽で餓死させた過去を持つ僕は純粋に凄いなぁと思っている。

二十代中盤の頃、Dが突然「サーフィンをしたい」と言い出した。理由は単純明快、なんだかモテそうだからだ。
しかし、サーフィンをしたいと言ってもここは埼玉。
荒川でサーフボードを浮かべてみても東京のドブ川まで流されるのが関の山だ。

どっこい、僕らはまだ若くてジャンボリーでそして無知だった。
予備知識も何もないままサーフボードを旧車のクラウンの中へ突っ込み、狭い車内で僕らは首を曲げながら茨城の海へと向かったのだ。
これから起こる事を予想すらもせず、延々と海を目指して走り続けた。

海岸へ着いたは良いが波の良し悪しなど当然分かるはずもなく、とにかく浜から海へ飛び出しやすそうな所を探して車を走らせた。すると数台の車がタムロしてるスポットを見つけ、何も知らない僕らはルンルン気分でそこに車を停めたのであった。

Dは「これをやる!」と言ったらやる性格なので、ウェットスーツもバッチリ持って来ていて完全防備で「いざ浜へ!」という状態に換装した。僕とWは元々海へ入る気が無かったので「ぼへーっ」と男の生着替えを眺めていただけだったのだけれど、いざDが海へ行こうとした時に事件は起きた。

「待で待で待で待で〜 ちょっと待でって〜」

そんな声のする方向を見ると、数人のどう見ても「輩」にしか見えない「輩」がこちらへ肩でブンブン風を切りながらオラオラしつつ向かって来るのが見えた。
呼び止められた理由が全くわからない僕たちは 

「ぽかん」

としながら突っ立っていた。突っ立ちながら

あいつら、縄張りとか言い出す気じゃないだろうな?
まさか、だって海はみんなのものだぜ?
いやー、韓国とか中国みたいなこと言い出すかもよ。

なんて話していたら案の定だった。彼らは既にブチ切れていた。そして、怒り訛り全開でいきなりこう吠えたのだ。

「あぁん!?💢おめだづ!◯◯さん←(誰だか全然分からない)に、あいさづすたんべがやぁ!?あぁん💢なんだらだんだんべでおめだづ熊谷ナンバーでねぇがゴラァ💢」
「だっぺ💢だー!?あんだらべんべんべやあ💢チャンプロードぶぉんぶぉんだんべー💢はぁ💢」
「ここいらはオレだづの浜なんだがんなぁ💢おめら勝手に入ってサーフィンこくでねぇど💢」

マジでこんな調子だった。
そしてDは見るからにこれからサーフィンをこくつもりの格好をしていたのだ。

彼らの怒声に僕はビビった。理解不能な言葉で怒鳴り散らされるとここまで恐怖を覚えるのかとセンリツしていた。
訛りでこれほど恐怖を抱くのだから、宇宙人にカツアゲでもされた日には気が気じゃなくなるかもしれない。
おまけに輩の周りの連中が「村の敵を発見した!」と言わんばかりにワラワラ集まり出し、車の出口を彼らの車が塞いだ為に(アメリカの警察みたいに)脱出不可能に陥ったのだ。

熊谷ナンバーだったばかりにこんな目に遭うのか……。土浦ナンバーに偽装してレンコン持って来ればよかったのかな……。
と思いながら僕らはそそくさと謝り、ガンを飛ばされながらその場から逃げ出した。

激テンション下がり丸になった僕らは隣接する波の穏やかな海水浴場へ足を運んだ。ここならきっと安全安心である。
おまけに偶然出会った同じく埼玉から来たというサーファーおじちゃんが僕らに「だっぺだ浜」の掟を教えてくれたのだ。

「オレは湘南でいじめられて、逃げた先のここでもいじめられて、ほんでここで一人でやってんだ。ここはね、知らないで来るとイジメられるよ」
「他県はみんなイジメられるですか?」
「うん。ボスがいるの。なんつったって田舎だかんね!」
「田舎だからイジメられるんですか?」
「うん!あいつら、他にやる事ないから!暇なんだもん!なんつったって田舎でやる事ないんだから!」

と、目をバキバキにさせながらおじちゃんは田舎を強烈にディスっていた。こいつもこいつでヤベー奴だな、と思ったものの、ここは安全だと教えてくれた。このおじちゃんのおかげで「ここなら大丈夫なんだ」と僕らはホッと胸を撫で下ろせたのだ。

海を見ると波は高くはないものの、サーファーゾーンと海水浴ゾーンがご丁寧にロープで仕切られていて、これなら安心だネ!な状態になっていた。
Dはサーファーゾーンに向かったので僕とWはせっかくだからボディボードを借りてやってみようという話になった。
ボディボードは言ってしまえば巨大ビーチ板みたいなもので、サーフィンよりも手軽に波に乗る感覚が味わえる。
波が来てボードの上に胸を乗せてターンすればそのまま一気に浜辺にまですっ飛んで行くので、これは楽しい!と僕とWはボディボードに夢中になった。

ところがである。

「おい!子供が泳いでんだからボディボードやるんじゃねぇよ💢撃つぞ💢」

と、海水浴ゾーンで身体の和風柄が美しいヤクザなお父さんに怒鳴られ、サーファーゾーンへ行けば

「なんだおめぇ!!邪魔だからあっち行けよ💢ボードで頭ぶっ叩かれてぇのか💢」 

とサーファー達に怒鳴られ、結局僕とWはオロオロと右往左往した挙句、海水浴ゾーンとサーファーゾーンを仕切るロープすれすれの場所でボディボードをするハメになった。
ところがロープがあるばかりに波に乗ってみても首やら腕がロープに引っかかって上手いこと行かないのだ。
どうしても途中沈没してしまうので相当なコントロール力(ちから)が必要だぞ……と思い、体幹をフルに活かして浜辺まですっ飛んで行くと途中でウフフキャッキャしていたカップルのお姉さんに正面衝突してしまったのだ。

腰くらいまで水のあった場所でお姉さんは

「ぎゃああああああああ!!」

と叫びながら、八つ墓村のスケキヨのように股を開いてドボン!と真っ逆さまにひっくり返ってしまった。
僕はボードを掴むなり彼氏に撲殺されると本能で察知し、振り返らずにその場を全力で後にした。

DはDで波にも他のサーファー達にも馴染めず、しょんぼりトボトボと僕らのいる場所まで帰って来た。
そして三人で海の家のたいして旨くもないラーメンを食べて近くの銭湯へ行き、

「わーい!ここが一番楽しいなぁ!」

という身も蓋もない事を言って埼玉へ帰ったのであった。
とりあえず海遊びが絶望的に合わないというのが僕は分かったので、若い人なら一度は若気で至ってみるのも良い経験になるのではと思っている。

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