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翳りゆく部屋

おこんちー!タイトルは松任谷になる前、荒井由実のラストシングルより。

「私が今死んでも輝きは戻らない」

そう言ったことを僕を遥かに凌ぐ倒置法で歌い上げた荒井由実さん。結婚を前に荒井名義でのラストを飾る曲に「死」を選ぶ辺りがもう、本当素晴らしいの一言に尽きます。
中学の頃、毎週ユーミンのラジオ聴いてました。喋りが軽快で大好きです。

まぁユーミンの話をしようと思って書き始めた訳ではなく、一ヶ月余入院していた父が一昨日やっとこさ退院しました。
母に「最近上半身裸の男が小学生追い掛け回してて警察が近所をパトロールしている」って話をしていましたら、電話から漏れた僕の声に

「たけしじゃねーか?」

と笑っていた父の声に少しだけホッとしました。
もしも僕が裸で人を追い掛け回す時はきっとポコ太郎も晒します。父よ、私は上半身では済まないのだ。

乾うどんを茹でながらそんな話をしていると、妹の旦那の母が癌だと発覚したそうで。
誰かが体治すと入れ替わるように誰かが体壊す。
まぁ、それだけ歳を取ったってことなんだよなぁ、と思っていると中々深刻なようだった。
名前は仮でヨーコさんとしよう。

ヨーコさんが具合を悪くしたのは先月のこと。肺に水が溜まっているとのことで色々検査したら、癌がステージ4まで進行していると発覚した。
僕も何度か会ったことのある人だったから話を聞いた瞬間、ズシンと来るものがあった。
ヨーコさんは少しおとなしいけど朗らかな人で、うちの妹のことを入籍する遥か前から娘として受け入れ、可愛がってくれていた。
将来的には二世帯で〜なんて言いつつ、妹の旦那とその弟とヨーコさんを取り合うほど愛されている人だ。

僕はその話を聞きながら、また死が目の前を掠めて行ったと思ってしまった。

一時は念仏のように「死にたい」と思い続けていた僕の所へはやって来ず、死はいつだって生きていたい人の場所へ飛んで行ってしまう。

「おーい! ここに一人いるぞー! おまえに手を振ってやってんだ! 幸せな人の所へ行くなら、俺の所へやって来いよー!」

つい、心の中でそんな風に死に語り掛けてみる。
すると、死は長い長いベロをペロリ、と出してこう言うのだ。

「やーだよ! おまえなんか俺様がわざわざ行かなくったって、生きてるだけで十分不幸の塊じゃないか。自分のことだけじゃなく、人のことだって平気で不幸にする癖に。そんなヤツの所へ行っても、俺様はつまらないんだ。おまえなんか、誰が死なせてやるもんか! 人の死を眺めながら、せいぜい苦しむんだね」
「待てよー! どこ行く気だよー!」
「教えてやらないよっ。へっ! 俺が怖いから、おまえは俺を求めるんだ。俺が怖いから、おまえは大切な人の一つも作らないんだ。全部バレてるんだぞ!」
「それの何がいけないんだよ?」
「へっ、呆れるぜ。おまえみたいなつまらんヤツなんか、死なす気にならないのさ。せいぜい勝手にくたばるまで、苦しんで生きるんだな。じゃあな!」
「おーい!」

そう言って、死は何処かへ行ってしまった。
色も匂いも残さず消えた死の向こう、鍋の中でうどんが煮詰まっているのが目に入った。

僕は今現在、死からはずいぶん離れた場所にいるように思う。
その昔、首を吊ったら縄が切れて失敗した。
その後風邪を引いたので病院へ行くと、医者に風邪よりも首に出来た痣のことを心配された。
死ねずに風邪をひいて病院へ行くだなんて、皮肉なもんだ。

少し大きな手術をした日、全身麻酔で薬物スーパーおねんねをキメていた僕の心肺が突如停止した。
目が覚めると予定時間を大幅に越えていた。カテーテルの処置をしながら、看護師が笑いながらこう言った。

「オオエダさんね、一回死んだんですよ。慌てましたよー、でもしっかり生き返って良かった!」

僕は薄い意識の中でヘラヘラと笑ってみたけれど、思い返してみたら全く意識のない中で一瞬だけ夢を見たのだ。

それは下半身裸でケツを僕に向けながら黒電話で誰かと話をしている「えなりかずき」だった。
僕は入院中に自分の人生を振り返ってみた。
流石に「走馬灯がケツを出したえなりかずき」って人生は、考え直さなければならないと思ったのだ。

悪運が強いのか、それとも死からとことん嫌われているのか、今の所死にそうになっても死なずに生きている。
生きているってことは当たり前に死んでないってことだけど、死ってものは突然現れたりする。
匂いだけを出しながら、その姿を見せないことだってある。
けれど、確実に身の回りにいるのだ。毎日、毎時間、今この瞬間も、今これを読んでいるあなたの肩を、三秒後に叩くかもしれない。

わっ!!!!!!!

(意味はないです。ビックリさせようと思っただけナンダカラネ!!)

そんな風な身近な死が、僕の周りだけをいつもグルグルしてるなぁと思いながら翳ったキッチンでうどんを茹でていました。
茹で過ぎたうどんは野菜と一緒にクタクタに煮込んで、一味とカツオ節を掛けて食べました。
んまかったなぁ。

何の脈絡もなければ連休とも全然かけ離れたおはなしでしたが、みなさん良き一日をお過ごし下さい。
あなたが生きていて良かった、そう思ってくれる人がいるうちは死なずに生きましょう。

では。




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