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はじめてのアルバイト!というおはなし 【エッセイ】

お久しぶりのエッセイのお時間でござんます。どうも、大枝です。
近頃台風が「どう?今日もやっちゃってる?」的なペースで上陸するようになり、いよいよ秋深くなって来たなぁと感じる今日この頃でござんます。

さっきからなんで「ござんます」と言っているのかと言うとですね、「すしざんまい」のCMが喉に引っ掛かったまま取れなくなってしまったからなんでござんますね。あくまでもCMです。寿司苦手です。

はい、今日のテーマは「アルバイト」について!

皆さん多かれ少なかれ、学生時代や若い頃にバイトした経験がおありかと思う。
僕が生まれて初めてアルバイト(労働)したのは高校一年のこと。
高校に入ったんだからアルバイト出来るっしょー!という軽いノリで友人と二人で職探しを始める所から始まった。

ところがどっこい、僕らはいきなりつまずいた。

当時住んでいた所があまりにも田舎過ぎたおかげで、バイト先の選択肢がほぼ無いといった状況だったのだ。
コンビニやスーパーは女子達のバイト先となっていて入り込む隙間ナシ。
ホームセンターやガソリンスタンドなんかはイケてる不良達に占拠され、オタクにもヤンキーにもなれない僕と友人の内田くんが途方に暮れた末、辿り着いたのは街の片隅の田んぼの脇に立つ、絶対ヤメとけ!と噂が持ちきりの

「白いけど汚いケーキ工場」

だった。

「なんか甘い匂いがするけど、サティアンな香りもするぞ……」

と、二人で真っ白だけどあちこち傷んだ外観の工場を見て、震え、オシッコが漏れそうになってコンビニへ退避した記憶がある。

「うーん……想像以上に明るくない。あまりに雰囲気が明るくない。あの中ではプリンではなく、サリンを作っているのでは……?」

なんて物騒な話をしながら、もう一度だけ二人でケーキ工場を覗いてみる事にした。
工場の裏手ではスイーツに使う「甘物質」がドラム缶に詰められ、あちこちに置かれていた。

「あれはきっと身体に良くないガスを作る材料に違いないぞ……」

そんな風に声を潜めてフェンス越しに眺めていると、全身白装束の工場の人がシャッターをガラガラ開けて出て来たではないか!

頭の先からつま先まで見事に真っ白な衛生服に身を包み、ゴーグルまで着用している!(実はただの眼鏡)
これはサティアンだ!間違いなくサティアンだ!!ヘッドギア付けられてポアされる前に違うバイトを探そう!!
と、二人でケツをまくって逃げたものの、やはり他にバイト先はなく結局この工場でバイトする事を決意したのであった。

バイトの面接は実に拍子抜けするもので、爪が短いかどうかと、くるぶしが隠れるソックスで毎日来てネ!という実にシンプルな要望だけを伝えられて僕と内田くんは即採用になった。
採用が決まった=はじめての労働!という事も手伝って

「大枝君、考えてみたけど男子のケーキ作りも悪くないよね!」
「俺はチーズケーキ大好きだから楽しみだな~」

なんて二人でルンルンとテンションを上げていたのだが、実際バイト初日になると僕と内田くんはケーキ工場の外へと連れていかれた。
老人のホビット族みたいなギョロ目の採用担当のおじさんは僕らを外に連れ出すと、入り口の脇に立つ二階建のボロ小屋を指差した。

「えー!君らはここ!ゼリー棟勤務になりますから!」
「ええ!?ゼリー!?ケーキは!?」
「女の子はケーキ!男の子はこっち!」
「こ、こんなボロ小屋でゼリーを!?」
「見た目じゃないんだよ!ゲホー!ハートハート!じゃあよろしくお願いしますねぇ!うー!ゲホー!ゲホー!」

と、咳き込みながら何処かへ行ってしまった。

僕と内田くんは

「こわいよー!おうちかえりたいよー!」

と半泣きになりながらゼリー棟のボロボロの引き戸の中へ入った途端、やたら威勢の良い社員に迎えられた。

「オッス!俺がここのリーダーの赤川だ!おめーらマジでバシバシしごきマックスだから泣き入れんじゃねーぞ分かったらさっさと配置に立って熱いゼリーの乗った網棚掴んで冷却装置にぶち込めやコラ早くしろよボーッとしてたら今日の給料一切出さなくするからな後でワビ入れたって遅いからなウッス!以上!」

と一息で説明され、マジで右も左も分からない、そして誰が誰だかも分からないままいきなり製造ラインに立つことになった。
基本的には熱処理消毒されたゼリーの乗った網棚が機械から吐き出されてくるので、それを掴んで右の冷却水が流れる装置にセットする、という単純なものだったのだが、初めてだからもう何がなんだかチンプンカンプンロシアンプーチン、何もかもが分からない状態だった。

あまりにも突然の勤務開始だったので、おっかなびっくりしながら左から出たものを右に入れる間に徐々に不安になっていき、後ろで段ボールを組んでいたパートのおばあちゃんに僕は大声でこんな事を聞いてみた。

「今日はじめてなんですけどー!これで合ってますかー!?(工場の中は機械音がうるさいのだ)」

すると、おばあちゃんは組んでいた段ボールをゴミように勢いよく右にブン投げ

「お箸持つのが右!お椀は左!それが分かれば、大丈夫!!」

と、なんとも力強いエールを僕に送ってくれたのだった。
つまり、お椀方向のものをお箸方向に流せばいいだけなのだ。
そうとわかれば中々気が楽な仕事だな、なんて思いながら一時間が経った。


配置交換の時間になり、僕の居た場所に内田くんがやって来たので

「お椀持つ方のヤツをお箸の方に流せばオッケーだから!!」
「お、お椀をお箸なんだね、よし、分かったぞ!」

というやり取りをしたわずか一分後。背後でガシャーン!と音がして、内田くんは赤川さんに

「次やったら君の命を僕が奪うよ!」

という意味の事を、だいぶ過激な表現にした言い方で怒鳴られていた。
しまった!とは思ったものの後の祭り。僕は段ボール作りに勤しんだ。

これは僕の凡ミスなのだが、内田くんは左利きだったのだ。

僕らはそれでも学校終わりには毎日バイトに勤しみ、他の学校の先輩二人組と四人で一グループになって作業する事が増えた。

この二人の先輩というのが中々の「ワル」で、余ったケーキの盗み方をアレコレ教えてくれたおかげで僕らは他を圧倒するほど顔面にニキビを作るハメになったりもした。

そんなある日、僕らはついに応援として花のケーキ工場へ呼ばれる事となった。
先輩達はテンションぶち上げで、内田くんも心底エロそうに鼻の下を伸ばしたりしていた。

「うへへ〜!女の子達とおっぱい、いや、いっぱいおしゃべり出来るかな〜?うははははは!」

なんて言いながら四人で夢の花園・ケーキ工場へ向かい、扉を開いた途端、その幻想は早くも打ち砕かれた。

クリスマスシーズンという事をすっかり忘れていた僕らは、怒号の飛び交う殺伐とした工場内の雰囲気にビビりまくってしまった。
というか、そもそも忙しくなると同時に女の子達はさっさと辞めて行くので、女の子の姿は工場のどこにも見当たらなかったのだ。

始めに目に飛び込んで来たのは古株のお婆ちゃんパートが新人のお婆ちゃんパートを叱りつけてる光景で、

「スポンジは押しちゃダメって何回言えばわかるのよ!?あーもうダメよこれー!!代わって!あんた使い物にならない!!」

という無慈悲なやり取りだった。それをボーッと見ていたら早速白羽の矢が飛んで来た。

「お兄ちゃん達二人はあっち!背の小さいあなたはイチゴのヘタ取り!!あなたはケーキをカゴに乗せる!!早くしてーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

と絶叫されたので僕はラインから流れてくるケーキを延々と箱にセットしてカゴに載せることになった。

が。

そのペースたるや尋常な物ではなかった。

五秒に一個ホールケーキが流れてくるのでそれを急いで崩れないように箱に入れ、蓋を閉め、背後のカゴ車(スーパーなんかで良く見る荷物運ぶ台車)に載せなければならないのだ。
ケーキ取る、箱入れる、蓋閉める、カゴ乗せる、振り返る、

目の前にケーキ!!!!

という地獄ループにドハマりしてしまい、正直さっきまで鼻の下を伸ばしていた俺は一体何だったのだ!?と思う他無かった。
おまけにラインで作業してるおばちゃん同士が

「あんた飾り付けが違うわよ!」
「それはあなたのイチゴの感覚ももっとこうでこう!」

などと喧嘩し始めたのだ。

ケーキキャッチャーの僕はそんなことに構ってる暇などなく、ケーキの出来が良かろうが悪かろうが悪魔の速度で迫ってくるケーキをカゴに載せなければならなかった。

しかし、事態は悪化した。

おばちゃんVSおばちゃんのバトルは白熱し、ついに完成していないケーキが流れてくるようになったのだ。
目の前に迫る不完全体ケーキ。
途中で作業を諦めたのか、メレンゲで出来たサンタクロースが頭からケーキに突っ込んだ状態で流れて来ているではないか!

これはどうする!?のせる?のせない!?えー!?

と思っていると、お婆ちゃんリーダーが僕に叫んだ

「ちょっとー!載せないで!入れないでー!!お願いー!!入れちゃダメーーーー!!!!」
「えっ、えっ!?」
「箱に入れないで!入れないでーー!!ダメェ!!そこに入れちゃダメーーーー!!!!」

と若干いかがわしく感じる言い方で叫ばれた挙句

「止めてぇ!!ライン止めてぇ!!」

と叫ばれた。しかし、僕は通常ゼリー担当の男の子。
ライン停止ボタンがどこに付いてるのかなんて分かりっこないのである。
そしてついに手元まで迫っていたケーキは僕の目の前でラインから勢い良く飛び降りてしまったのだ。

もちろん後発のケーキも続々と流れて来るので、続々とケーキはベチャベチャと落下し続けた。
その光景はまるでペンギンが列を作って寒海に飛び込むような光景だった。

ペンギンと異なるのはあんな微笑ましい光景ではなく、阿鼻叫喚の絶叫に包まれていたということだ。

何とか停止ボタンを押したのだが時既に遅し。
ヘルプに来てくれた係長がケーキに足を取られ派手にスッ転び、おばちゃん達は誰の責任かのなすり付け合いを始めてしまい、背後のカゴ車は動かそうと思ったら油分で足場を取られて勢い良く倒れてしまった。

バゴーーーーーン!!!!

という轟音と共に箱から飛び出すクリスマスケーキ。
僕はもう「行くアテはないけど、ここには居たくない」とブランキージェットシティのように思いながらふと横を見ると、内田くんは隣の騒ぎをモノともせず、死んだ魚のような目で延々とイチゴのヘタを取り続けていた。

先輩二人組もお婆ちゃんパートにコキ使われ工場を右往左往し続けた末、退勤時には四人でやつれ切った顔を見合わせた。

結局その後も夏くらいまでこのバイトをしていたのだけど、いまだに「ケーキ工場」と聞くとこの時の光景が頭を過ったりする。

ちなみに女の子は友達どころかおはなしする相手すら出来ず、なんなら口を聞いてもらえる相手すら出来なかったというオチでした。

みなさんも良かったらバイト苦労話なんかを聞かせて下さいね。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

あ!!治った!!


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