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Nissan FairladyZ それは傍流から始まった

「皇国の荒廃この一戦にあり」日本海海戦で東郷が掲げたZ旗がこのクルマの命名の由来と言われています。

間もなく8月18日9:00(日本時間)に、最新のフェアレディZが、北米市場でワールドプレミアされます。現代まで世界で最も売れたスポーツカーとして、ギネス登録されているクルマでもあります。

今回はこのクルマの誕生経緯を少しおさらいしてみたいと思います。

イレギュラーから生まれる日産スポーツカーたち

現代も続く日産を代表するスポーツカーと言うと、ZGT-Rでしょう。

実は日産自動車を代表するこの2台、いずれも本流部隊は手掛けていません。Zは日産本体社員の有志と子会社の日産車体が初代企画から製造までを手掛けています。一方のGT-Rはプリンス自動車吸収合併によって引継れたスカイラインの1グレードであり、日産本体が企画したクルマではありません。

後にスカイラインからGT-Rブランドが独立しますが、こちらも当時CEOだったカルロス・ゴーン直轄のもとで誕生したクルマ。いずれのクルマも、日産社内の総意や正規社内プロセスを経て生まれたクルマではなかったのです。

Zを生み出した人たちは、みな傍流だった

フェアレディZの生みの親と言われる片山豊氏は、既成概念や組織の論理に囚われない考え方で行動される方だったとのこと。Z以外には、現在も使われている日産のブランドシンボルの原型を作った方でもあります。

そんな偉業をなされた方が、ある日出社すると机を撤去されており「今の会社に君の居場所はない。アメリカに行ってくれないか」と左遷されます。

またZのデザイン担当された松尾良彦氏は、入社間もないころ海外デザイナーの原案にネガティブな意見したことで上司に怒られます。そのことがきっかけで、最初の仕事は遊園地のゴーカート設計。組織変更の際は2名だけの部署に異動となりました。

他にも開発部隊はバキュームカーなどの設計部隊だったなど…挙げればきりがありません。いろんな会社のドキュメンタリー見ていますが、社内人事に翻弄される物語は非常に珍しいです。それだけ堅い社風にめげずに仕事をされた方々が、のちに日本車を支える車を作り上げます。

トヨタ・86と共通する企画エピソード

当時北米で若者の草レースを見た片山氏は、若者がボロボロの乗用車を使っていることに疑問を持ちました。「なぜスポーツカーに乗らないの?」と尋ねた。すると彼らは口をそろえて「みんなジャガーやポルシェが欲しいさ。でも高くて買えない。だからこうやってボロ車を改造して楽しんでるのさ」と言います。

「手の届く値段で、高性能なスポーツカーを作れば売れるのではないか?」

その仮説は、のちにDATSUN 240G(日本名:フェアレディZ S30型)として結実します。当時の販売台数は月約8,000台。2021年現在販売トップのトヨタ・ヤリスが月販2万台ですので、2人乗りスポーツカーがこの台数をたたき出す凄さが分かると思います。現代でも破られていない、世界でもっとも販売されたスポーツカーとなりました。

それから30年近い時を経た2000年代。トヨタの初代86の企画を手掛けていた多田氏も、日本国内のレース場を走るクルマがボロボロの中古車ばかりであるのを目にします。彼らに尋ねたところ「今新車で買える手ごろなMTスポーツカーが存在しない」と気付きました。

日産、トヨタ、それぞれ会社も時代も異なりますが、スポーツカーを渇望する市場の声は共通しているのかもしれません。

Zでの北米の成功と影

ちなみにこの「ダットサン」ブランドが北米で大成功している絶頂期に、日産は「ダットサン」ブランドを廃止します。背景には「日産」ブランドへの世界ブランド統一がありましたが、当然、日産の米国法人からは猛反発をされたと聞きます。

また当時から近年まで世界最大の市場だった北米への工場投資を行わず、英国サッチャー首相との華々しいトップ交渉に熱中して英国やスペインなどへの欧州投資を優先してしまいます。

それだけ当時の日産にとって、世界の現実よりも社内の政治的決定が重かったのでしょう。ある意味とても日本的な堅い会社にも見えます。そしてその決断の数々は、バブル崩壊後に日産を倒産寸前まで追い込みますが、それはまた別の話…。

そして伝説は再び

2002年に日産復活の象徴として誕生したZ33型とその後のZ34型を経て、今回Z35型がまもなくリリースされます。近年新型車の多い日産ですが、このフェアレディZもまた新しい時代を感じさせる何かになるのでしょうか。

過去Zを所有したことのあるユーザーとして、私はとても楽しみにしています。

▼参考資料





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