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治療の専門家がつくる医療に頼らない未来

医療デザイン Key Person Interview :
薬師台メディカルTERRACE代表(医療モール)
医療法人社団 泰大会 顧問・運営本部長・柔道整復師 野口 泰昭

少年マンガで抱いたあこがれを追いかけて、野口泰昭は柔道整復師になった。ひとりの身体と向き合い『もう通院しなくていい状態』を目指した治療をする。

接骨院・鍼灸院があるのは東京・町田市の住宅街。自ら中心となり家族や仲間と力を合わせて作った医療モール「薬師台メディカルTERRACE」の中にある。医療だけでなく介護や治療までも含めて、住民の健康を守ってきた。

目指すのは「医療・治療・介護を受ける必要がない身体づくり」。そのためには従来の医療や治療にはない概念もどんどん取り込んでいく必要性を感じている。そこにデザインのエッセンスを取り入れることにどんな可能性があるのか? 今後の展望を伺った。

心にあり続けた治療家へのあこがれ

祖父は病院経営、父は医師、母は薬剤師という医療一家で育った。そんな家庭環境では子どもも医療の道を選ぶケースが多いが、野口は違った。

「俺はそういうのいいや!って。医者にならないかと言われたこともあったけど、断ったんですよね。仲間に誘われるがままに広告制作会社を選びました。10年勤務したんですが『そもそも』から考えるパターンや、人と違うことをやりたいって発想はこのときに培われたんですよね。」

ーー30代になってから柔道整復師を志したんですよね。

「いいえ、実は子どものころに読んだ『北斗の拳』をきっかけに治療家への憧れを持っていました。ただ当時は『そんな仕事、稼げないよ』と言われてすぐ諦めたんです。ところが、バリバリ広告制作会社で働きながらもいつも憧れが消えなかった。で、これは今やらないと一生後悔すると思い、柔道整復師になることを決意しました。」

すでに結婚もしていた。会社を辞めて、アルバイトをしながら3年制の専門学校に通うだけでも大きな決断だ。ようやくの思いで卒業、柔道整復師としてスタートを切った野口のもとに、父からのオファーがやってきた。

そのころ、父・近藤泰一(医療法人社団 泰大会・理事長)は町田市で、整形外科のクリニックを運営していた。骨、関節、筋肉などを治療する接骨院との相性がよいのは言うまでもない。父のクリニックを勤務先と定めた野口は柔道整復師として腕を磨いていく。

2015年、薬師台メディカルTERRACEのオープン直後の野口泰昭。
右は実弟でおはなぽっぽクリニック院長の野口泰芳。

医療・介護・治療の「商店街」を目指して

転機となったのは2015年、野口が中心となり「薬師台メディカルTERRACE」をオープンする。もともとイメージしていたのは治療するスポットの集まりだった。

「鍼灸院のほか、アロマやヨガ、カイロプラクティックなどが軒を連ねる予定でした。医師が行う『医療以外の治療』を全部集めるイメージで、患者さんも一度にかかれるというか。その構想がもう一段階大きくなって、結果的に鍼灸院とともにクリニック、歯科医院、薬局、デイサービスが集まりました。医療・治療・介護を1カ所で連携する新しい形の医療モールですね。」

東京・町田市の郊外にある「薬師台メディカルTERRACE」は地域住民の拠り所になっている

ーーそのうちの1施設「薬師台おはな接骨院&鍼灸マッサージ院」で野口さんも柔道整復師として活躍されています。お仕事は充実していますか?

「面白いですよ! その場だけでよくするのではなく、できればもう来院しないでいいようにする。『もう来ちゃだめだよ』っていう気持ちを込めて患者さんと日々接しています。」

ーースポーツに強い、高齢者の来院が多いなど特徴はありますか?

「本当に幅広いんですよ。1~2歳の小さなお子さんから90歳以上の方もいますし、スポーツ少年、プロアスリートもいれば、お年寄りの機能回復を担う部分も治療しています。

連携している父や弟のクリニックは整形外科と内科を標榜しているので、そもそもいろんな人が来ます。治療としても全てのニーズに対応していこうってなると、やっぱり専門を絞れない。こうしてあらゆる人を治療するのもやりがいですね。」

治療家にあこがれた少年時代から時は流れ、野口は治療家として歩んでいる。そして経営者としてさらなる高みを目指す。

周波数を整えれば人々の暮らしは変わる

地域の人々の健康を明るく照らしたい。
野口が次に仕掛けたのは自然、みどりの力を採り入れることだった。「まちにわプロジェクト」「みどりとカラダのプログラム」を次々に立ち上げる。

活動の中心にあるキーワードは「周波数」だと言う。

ーー周波数ってラジオとかのWi-Fiとか…?

「みんな、生きとし生ける者が、それぞれの周波数を発しているんですよ。目に見えない何かですね。その個体の周波数を整えると、身体が変わり、感情が変わり、思考が変わり、健康な人ができ上がると考えているんです。」

そして健康な人が多ければ多いほど、より良い社会になっていく。『健康だから自分には医療は必要ないわ』という人が増えるのが究極ですよね。」

「まちにわプロジェクト」で行った植樹のようす

ーーたとえ周波数が乱れて体調を崩しても、みどりの力を使えば元に戻せるということでしょうか?

「自然の力はめちゃくちゃ大きいです。だから薬師台メディカルTERRACEの敷地内や近くの公園で、自然と触れ合う機会を作ったり、ハーブを育てて収穫したり、地域のみなさんといろんなイベントもやってきました。

そうした取り組みを通しても、我々、治療者がやるべきことって周波数を整えることに尽きるなって思います。施術、鍼、代替医療などの治療はもちろん、投薬など医療も周波数を整えるためにやっているんだなと日々感じています。」

ーーなるほど、患者さんのもつ周波数を整える…

「私たちスタッフも同じですよ。医療、治療を実施する側の我々も周波数の影響を受けるし、逆に自分の周波数でまわりに影響も与えるわけです。

だから、うちの医療法人の行動指針には『いつもニコニコみんなに優しく』っていうのが入っているんです。もとは祖父の教えなんですけどね。いつもニコニコしていれば、いい周波数を発するようになり、まわりにいい周波数が集まって、みんな健康に近づけるのでは?という考えですね。」


「みどりとカラダのプログラム」ではハーブづくりを実践

「伝わらない」を伝えるためにデザインの力を

野口の構想は、従来の枠組みにとらわれずにどんどん広がっていく。薬師台メディカルTERRACEを「より良く生きるための」いろんな智慧(ちえ)の発信の場所にできたらいいとも思っている。だからこそ閉塞感、世界の狭さも感じているという。

「医療や治療、介護の世界には『ここまで』って枠組みや領域がはっきり規定されているのが面白くないんです。職種によるピラミッド社会とか、不自然にサービス業っぽいところとか。

先ほどの『みどりの力を加えよう』のような取り組みも医療になかったユニークな挑戦として地道に続けていきたい。でも、もっとうまく発信していきたいんですよね。」

ーーそんな中で医療デザインと出会ったんですね。

「そうですね、日本医療デザインセンターは面白いですよね。医療・治療・介護分野にいろんな切り口を持ち込む、新たな視点を入れる僕が必要だと思っていたことを、仕事として本気で取り組んでいるので『そんな人たちがいるんだ!』と感心しました。

自分たちの取り組みを伝えたいと言いましたが、自分のスタッフにももっと分かりやすく伝わるような求心力のある言葉、デザインを生み出したいんですよね。」

質の高い医療・介護・治療を提供しながらも「健康ならば医療などは不要。それが理想」と断言。

ーー自分たちの取り組みが伝えられていないという課題感があるんですね。

「すごくあります。新しいものを立ち上げたり、形にするのは得意ですが、どう伝えていくか。そこに取り組んでいきたいですよね。まだ “医療デザイン”って言葉を深く理解しているわけじゃないけれど、見栄えも大事、言葉も大事、それを一緒に作っていきたいです。

医療・治療・介護の枠におさまらないことを表現するんだからそりゃ難しい。もっと薬師台メディカルTERRACEもはみ出していきますよ。まずは『朝活TERRACE〜呼吸編〜』という朝からみんなで一緒に呼吸する「朝活」をスタートさせました。

そして「食」の提案、プロジェクトを今年から始めます。「医食同源」のイメージです。さらにここで勉強会や、映画の上映会をやったり。図書室も作りたい。この辺りに地域のお年寄りから子どもまで勝手に集まって来て、近所の寺子屋みたいな、生活の拠点みたいな。そこで、僕がジジイになっても人の健康と向き合い続けていきたいです。」

会社員生活を経て、治療家の道を志した影響か従来の枠組みにまったくとらわれない。異端のようだが、取り組み自体は本質的だ。デザインを味方にして、言葉や見栄えを整えたとき、野口のつくる新しい医療モールは一気に広がっていくのかもしれない。

取材後記

野口さんのお話から終始感じたのは、意志力の強さでした。自分の行きたい道を歩むためには、苦労も困難も乗り越えてみせるという強じんなリーダーシップがある方です。ストイックなのに豪快、そして地域の健康を本気で考えている人。どんどん活動の輪が広がっていくことでしょう。
(聞き手:医療デザインライター・藤原友亮)

日本医療デザインセンター桑畑より

医療一家で育ちながらも、異なる業界へ飛び込み、そして30代から医療の道へ進んだ野口泰昭さん。向学心が高く、そして心地よいコミュニケーションをされる方です。
泰昭さんの固定観念に縛られない斬新でクリエイティブな発想は、医療に新しい風を送り込むことになるでしょう。いや、もう既にその芽は薬師台から芽吹き始めています。ここからその活動を一緒に進化させていくことが本当に楽しみです。

野口 泰昭さん プロフィール

1975年、神奈川県生まれ。広告制作会社勤務を経て、32歳で柔道整復師の道を志す。2011年から、父の経営する近藤整形外科で勤務し、2015年に「薬師台メディカルTERRACE」をオープン。「薬師台おはな接骨院&鍼灸マッサージ院」の院長となる。2021年に薬師台メディカルTERRACEの運営法人である株式会社にこにこTERRACEを設立する。現在は薬師台メディカルTERRACEの運営、医療法人社団泰大会の顧問・運営本部長、薬師台おはな接骨院での施術を兼務中。

https://taidaikai.com/

https://yakushidai-mt.com/

https://taidaikai.com/yos/

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