ただ、一緒に生きている(坂本美雨) 読書感想文
ただ、一緒に生きている(著:坂本美雨、光文社、2022)
ミュージシャンの坂本美雨さんによる娘さんについての子育てエッセイである。
美雨さんの娘さんは、
そんな娘さんのことを美雨さんは、
と語る。
それにしても子どもはすごい。
例えば、偏見も疑いもなくオープンハートでどんな人も笑顔にしてしまう。
例えば、言葉を知る時の根源的なうれしさを、大人が言語を会得するのとは違う興味そのもので知るうれしさをわからせてくれる。
例えば、「2人の間に起きたこと」、それがたとえ思いがけないことでも重要な出来事として、時系列関係なく自由自在に引き出しよみがえらせてくれる。
例えば、「なんのために生まれてきたの?」と聞いてみると間髪入れず「あそぶためにきまってるでしょ!!」と答える。
例えば、障がいがある人と知り合ったらどうする?と聞くと、なにかをしてあげる、ではなくて「友だちになるよ。いっしょになにかする」と答える。
izumiさんについての日記も印象的だった。izumiさんは美雨さんの同志のような存在だったが美雨さんの娘さんが生まれる頃ガンを患ってしまう。しかし娘さんが生まれて、
「生きるチカラ、ありがとね。おばちゃんも今月から0歳だ。いっしょに生きてく」
と書いてくれたというエピソードが心に残った。
理学博士(理論物理学)の佐治晴夫さんとの対談で、佐治さんからの言葉も忘れられない。
この本は「当たり前」のことがいかに尊いものかを気づかせてくれる。
そうか……そうなのか。子どもが自分のことを嫌うと親も傷つくということは当たり前に気づけるようでなかなか気づきにくい。
美雨さんのお母様は音楽家の矢野顕子さんだ。美雨さんは4歳の頃、矢野さんのコンサートに行った。そこで「親は自分のものじゃない、ということ」を感じていたという。
そして娘さんが生まれ、同じくステージで歌う美雨さんは今こう思っている。
たぶんこれを書く際美雨さんはすごく勇気がいったのではと思った。ひょっとするとこの文章を読んで怒ったり美雨さんに幻滅するファンも出てくるかもしれない。でも美雨さんのすごいところはそういうリスクを承知の上でいちばん愛しているのは娘さんであると宣言したところだ。当たり前のことだが、当たり前にはなかなかできないかもしれない。
自分は子育てどころか結婚もしたことないし、お付き合いしたことも一回しか今のところない。
それでも感じたのは親が子を想う気持ちのあたたかさ、日々一日一日が学びであり気づきであり発見の連続であるということ。
その「当たり前」に深く気づかされた本であった。
余談:
あまり引用はしなかったが時々挟まれる教授こと坂本龍一さんと矢野顕子さんの幼い美雨さんとのエピソードもとても面白かった。
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