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【歴史本の山を崩せ#012】『昭和恐慌と経済政策』中村隆英

《経済政策の失敗と政局がもたらした「戦前」》

著書の中村隆英さんは『昭和史』で大佛次郎賞を受賞しています。

濱口雄幸内閣は歴代政権が挑戦と挫折を繰り返した金輸出解禁を果たします。
ところが世界恐慌のあおりを受けて、金輸出解禁のために採用し続けてきた緊縮財政が大恐慌を引き起こしてしまう。
本書の主人公は財政政策を主導した、ときの大蔵大臣・井上準之助です。

日銀総裁などを歴任し、金解禁には反対の立場をとっていた井上ですが濱口内閣で蔵相就任後は、一転して金解禁を推進・実現させます。
金解禁に対する井上の姿勢は政治の論理と経済の論理が対立しうる状況を浮き彫りにしてくれます。
政治における「正しさ」と経済における「正しさ」が衝突したとき、経済政策は迷走し、社会不安が増す。

国内では投機筋や財界の思惑に揺さぶられる経済不況とともに政党間の抗争があったことも見逃せません。
与党・民政党攻撃のため、野党・政友会は軍部を引き込んだ政局を展開していく。
不況と政局が政党政治の信頼を失墜させ、その代わりに政治力を増したのが軍部であったという歴史的な事実は、見落とされがちではないでしょうか。
軍部が政治に容喙する原因を作ったのは、政党自身にもあったことは肝に命じておくべきです。

出版社品切れのため、新本での入手は困難ですが、可能であれば同じ講談社学術文庫にある『昭和金融恐慌史』もおすすめです。
本書とあわせて読めば戦前日本が抱えていた経済問題の構造を概観できます。

『昭和恐慌と経済政策』
著者:中村隆英
出版:講談社(オリジナル版日本経済新聞社)
初版:1994年(オリジナル版1967年)
定価:840円+税

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