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オルガンの音色で #こんな学校あったらいいな

あたしはオル。本当は田中オルガンっていうの。長いからって みよ子ママもたかしパパもオルって呼ぶの。そんなに長いかな?

あたしはパパもママもだいすき。ママはオルガンが だいすきだから あたしにオルガンって名前をくれたんだって。それって あたしのことが だいすきってことだよね!

このあいだ ママとパパが話していたの。

ねぇ!「大切なワンちゃんを学校に通わせてみませんか」ですって!うちのオルは頭がいいから ちょっとやらせてみましょうよ
なになに?…へぇ、翻訳アプリを使ってやりとりするのかぁ。うん、うちのオルは頭がいいから ちょっとやらせてみるか

そんなわけで あたしは学校に通うことになった。いつもの首輪じゃないものをつけて(デザインがそんなに好きじゃないな!)あたしと話すときは みんな何かの画面をのぞきこんでる。腕についてるモノだったり、大きさが色々ある四角いモノだったり。

ぜんぜん画面なんか見ない人の方が多いかも。そういう人は大体「あっっら可愛いワンちゃんねぇえ〜」ってあたしの頭をワシャワシャしてくる。せっかくトリマーさんにキレイにしてもらってるのに!

最初に行ったガッコウには たくさんの子どもたち。あたしのことを見るなり「ワンちゃんだ!」「かわいい!」「うちと同じトイプードルだ!」「犬だ犬だ」って大騒ぎ。

先生が「オルちゃんは みんなと同じように学校の授業を受けにきました」って言ってるのに無視。

ジュギョウなんかぜんぜんやらなくて あたしはずっと「お手」「おすわり」って子どもたちに言われっぱなし。すっごいムカついてプイッて無視したら「バカ犬」だって!

知らない子どもに喜んで「お手」「おすわり」をやる方がバカ犬なんだからね!そんなことのためにガッコウに来たんじゃないのに。

あたしには ちゃんと田中オルガンって名前もあって、ママとパパがちゃんと申し込んでガッコウに来たのに。子どもたちに面白がられるだけだった。

ガッコウって つまんない。

うーん 小さい子が集まってしまうと 犬を同じ生徒だと考えるのは難しいのかもしれませんね…
だがペットに人間と同じ教育を受けさせたいという飼い主は多いのだ。ビジネスチャンスだ。なにかいい手はないものか
あぁ、校長先生。先日 文科省から受けたい授業と教えられる授業をマッチングさせて生徒同士で授業をさせるというカリキュラムの被験校募集がきていましたよ。これなら少人数ですし、年齢性別も問わないモノなので ペットが参加してもいけるのでは?
おっ それはいいな。ではオルの飼い主に提案してみよう

この夜、ママはベッドの上で あたしの頭をなでながら

ねぇ オル。今日は大変だったね。オルは学校でどんなことを勉強したい?次はオルが好きなことを勉強していいんだって。

あたし…あたしはオルガンってどんなものか知りたいなぁ。きっとステキなものだよね。

…うん、えっと、この翻訳アプリ本当に合っているのかしら…音楽?踊りたいってこと?あら!ステキね!

次のジュギョウは オルガンのことをやるのかな?たのしみ!

「アズマ。42歳。塾で理科を教えている」

「…ユウです。12歳。来年中学生」

きょうは小さい子たちじゃない!良かった!あたしは 田中オルガン。ママがくれた名前なの。本物のオルガンのことが知りたいんだ。

アズマは たかしパパと同い年くらい?でもパパよりやせてる。パパのおなかはプニプニで気持ちいいけどアズマは かじったほうが楽しそう。

ユウは このあいだの子たちよりも大きくて なんていうか、つまらなさそうにしてる。

きょうはユウがやりたいジュギョウなんだって。何をしてるのかはよく分からなかったけど、途中からユウが楽しそうだった。

ユウが床を焦がす失敗をしちゃったけど、あたしが助けたんだよ!そうしたら ユウもアズマも あたしにありがとうって言った!

ユウとアズマは あたしに「お手」「おすわり」なんて言わなかったし、きょうは楽しかったな。

…なんだろうコレ。教室に入ったら前はなかったニオイとモノがある。アズマも何だか固まってる。ユウが近づいていく。

わ!音が出た!何これ?何これ?

「きょうボクがアズマに教えるのは【エレクトーン】だよ!」

「…正確には【電子オルガン】だ。一般的によく言われるエレクトーン (Electone) は、ヤマハ株式会社が製造発売する電子オルガンの商品名である」

「…わぁ Wikipediaからって感じ」

オルガン!?いまオルガンって言ったの!?

あたしはオルガンって呼ばれたモノを見た。…うーん、悪いけど ぜんぜん、ステキじゃ、ない。机に白黒の四角がいっぱいついているだけ?

みよ子ママは 何でこんなのと同じ名前をあたしにつけたんだろう?

「じゃ まずボクが弾いてみるね」ユウがオルガンに手を伸ばす。

わぁ!キレイな音。うっとりしちゃう。オルガンはステキなモノだったんだ!!

次はアズマの番。アズマはどんな音を出すのかな、ワクワクする!

…ってアレ?なんか、ヘンテコな音~!ユウのは うっとり聞けたけど、アズマのは ガタガタ転んじゃいそう。アズマも照れ臭そうにしてる。

「一応、子どものころに習っていたんだがね」

「ま、まぁ!久しぶりだからじゃない!?何回か練習すれば大丈夫だよ!」

「…私は子どものころオルガンを弾くことがとても好きだったんだ。ヘタだったけれど。ありがちな話だが友人にからかわれてね。それで、やめた。好きだったのに やめてしまったことを心の隅でずっと後悔していた。

実は働いている塾に この授業マッチングに協力してほしいと連絡があったんだよ。私は どうせやるなら学校で後悔していることをやり直したいと思ったんだ。

…当たり前だがヘタクソのままだな」

「うん!そうだね、アズマはヘタクソだ。…でも 始めにうまくいかないのは当たり前だし、失敗のデータを集めれば次はもっとうまくいくかもしれない、でしょ?」

「…ああ、そうだね。まずはデータ集めからだな」

あたしは上手とか下手とか よくわかんないけど、何回も繰り返すアズマの音色はいろいろで、楽しかった。途中でシッポふりながらジャンプしたら ユウが喜んで笑ってた。

アズマは笑ってたのかなー?何かをかんでるみたいな顔がアズマの笑顔なのかも。

犬はシッポがふれればソレだけでサイコーなんだから!

きょうお迎えに行ったら ちょうどオルガンの音色が聞こえたわ。懐かしい音色だったわねえ。久しぶりに私も弾きたくなったわ。弾いたらオル 踊ってくれる?

もちろんだよママ!

あたしは夢のなかで雲にのって、みよ子ママとアズマのオルガンでダンスをしているの。ユウとたかしパパも みんな踊ってる。ステキな夢。

きょうのアズマの演奏は正直ヘタクソだったけれど、次はもっと上手くなっているんだろうな。

…それにしても この翻訳アプリはテキトウよね。ほとんど あたしの言うこと伝わってなかったんじゃない?みんな言ってることがヘンテコだったもの!

あたし?あたしは犬なんだから人間の言ってることなんて全部わかってるのに決まってるでしょ?



【別の授業を書いたおはなしです。】





つけヒゲに憧れているのでつけヒゲ資金に充てたいです。購入の暁には最高のつけヒゲ写真を撮る所存です。