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すらすら読める人事小説:部下を持つ⑨

4月初旬の大阪は、春の冷たい雨だった。山田と越智は、土地勘がないために道に迷いつつ、予定より20分遅れで面接会場に入った。
面接会場は貸し会議室が入る背の高いビルだった。慌てて飛び込んだエレベーターでは着慣れないリクルートスーツ姿の学生数名と一緒になった。
「うちを受けに来た学生か」
いよいよ始まるなと気持ちを引き締め、山田は、硬めの表情で階数を示すボタンを見上げた。
「課長、5階です」
越智が立川産業の面接会場を小声でささやく。「うん」と山田が答えた声だけが妙にデカく、そして学生も、山田と越智のことを面接官であると意識したためか、二人は学生の視線が自分たちに集まるのを感じた。
綺麗なビルの外観からは想像できないほど、エレベーター、会議室は年季を感じる作りだ。ホワイトボードにはかつて書かれた消しきれない文字が浮かび上がっている。その薄汚れたホワイトボードの裏から、東口、続いて見たこともない女性が山田と越智を出迎えた。
「お疲れ様です・・・。」
東口は緊張した面持ちで山田に挨拶した。
「お疲れさま」
山田と越智は、挨拶をしてきた東口ではなく、小柄な笑顔いっぱいの女性に目を奪われた。
「えーっと、こちらの女性は?」
山田は、その女性への視線を変えることなく聞いた。
「はい、私は、新卒採用チームに配属されました、伊丹です。山田課長さんですね、どうぞよろしくお願いしまーす」
伊丹は4月に入社したばかりの新卒社員であった。これまでの立川産業の新卒社員とはやや異色。それが山田の第一印象だった。
東口の説明では、岡部が独断で新卒採用チームへの配属を決め、佐川に報告もなく伊丹に配属通知を出したとのことである。もちろん伊丹の前ではそこまでの説明をしなかった東口だが、後日、伊丹が過度なお嬢様であること、実はいろいろあって年齢が東口より上であること、そして本当は合格レベルに無い学生だったにも関わらず、岡部が人数合わせで採用したことを愚痴交じりに報告した。

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