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部下を持つ②

企業人事小説 部下を持つ②

「山田さんには、今度新卒採用チームも見てほしいと思ってね」
ばつの悪そうな、それでいて少し強がった表情を浮かべ、佐川部長は目の前に座る山田課長に話を切り出した。普段、何か要件があれば自席から社員を呼びつけ、小声で話しを切り出す佐川部長が、人事部にあてがわれた個室を自ら予約し、二人きりで話をしたかったのにはわけがある。
これまで佐川部長自身が手塩にかけて育ててきた新卒採用チームの岡部課長が、パワハラの加害者として部下たちの訴えに遭い、体調を崩し休職を余儀なくされたことで新卒採用チームの運営が立ち行かなくなっていたのだ。そればかりか、パワハラを注意し、「しばらく休め」と実質の課長交代宣告をした佐川部長にまで岡部は噛みついた。佐川にとっては飼い犬に手を噛まれた思いなのだが、こういう場合、真っ先に自らが被害者ぶるところに、佐川が部下からの信頼を欠いている理由がある。当の佐川といえば、俺も被害者なんだよと素直に告白することで部下の求心力を高めていると感じているらしい。上司のその開き直りとも言える発言は、部下から見れば無責任な態度にしか映らない。特に岡部からパワハラの被害を受けた部下からの失望感は大きい。

山田は内心「来たぞ」と、佐川の発言と表情に集中し、黙ってうなずきながら次の説明を待った。 (つづく)

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