タイプⅡSLAP損傷の修復術の予後について;システマティックレビュー

参考文献

Kalyan Gorantla, Corey Gill, and Rick W. Wright :The outcome of type II SLAP repair: a systematic review .Arthroscopy The Journal of Arthroscopic and Related Surgery, April 2010, 26(4);537-545

背景

上方関節唇は上腕二頭筋長頭腱が付着してくるため、オーバーヘッドスポーツにおいて障害が起こりやすい部位となっている。
SnyderはSLAP損傷をtypeⅠ、typeⅡ、typeⅢ、typeⅣの4つのカテゴリーに分類した。中でもtypeⅡのSLAP損傷が最も生じやすいとされている。
typeⅡのSLAP損傷は、上方の関節唇損傷と上腕二頭筋長頭腱が関節窩から剥離されているのが特徴である。
現在、typeⅡのSLAP損傷に対して行われるのは関節鏡による上方関節唇の縫合術であるため、その治療法の効果を評価するべく術後の結果について考察することをこのシステマティックレビューの目的とする。

方法

論文の選択基準は最低でも術後のfollow-upを2年間は行なっているもので、エビデンスレベルが4以上の英語論文。
また除外基準は、typeⅡのSLAP損傷以外の関節唇の損傷を含むもの、2年未満のfollow-upのものとした。
検索は"superior labrum, anterior and posterior"、"SLAP"、"typeⅡ SLAP"、"typeⅡ SLAP outcome"

結果

まず最初に77の論文が検索され、Abstractにて39本に、全文にて12本にスクリーニングされた。

考察

TypeⅡのSLAP損傷は運動する人を頻繁に苦しめる障害である。また、オーバーヘッドスポーツ選手、特に野球の投手にとって重大な問題を引き起こすものである。
今回の研究で言えば、一般的にTypeⅡのSLAP損傷の修復術は良い結果をもたらしている。しかし、研究のほとんどが高いエビデンスレベルとは言えないため、真の結果や最も効果的な治療手段として決断するのは困難である。(2本の前向き研究以外はケーススタディ)
これらの研究による結果は様々であり、TypeⅡのSLAP損傷の修復術において良好な結果の割合は40%〜94%だった。患者の転帰を注意深く検討すると、一部の患者はうまくいかない可能性があることがわかる。今回の研究の中では、すべてのアスリートのうち20%〜94%が過去のパフォーマンスレベルまで戻ることができている。しかしオーバーヘッドアスリートにとって、以前のパフォーマンスレベルに戻ることはとても難しく、前述した復帰率に影響を与えている。5つの研究において、オーバーヘッドアスリート107人中69人が負傷前のプレーレベルに戻ったとされた。野球選手を分けて調査した2つの研究では他のオーバーヘッドアスリートに比べて野球選手は復帰率が低く、Ideらは86%に比べて63%、Brockmeierらは76%に比べ64%と報告している。さらにYungらはオーバーヘッドアスリートが過去のプレーレベルに戻るには他の患者に比べて、競技復帰前に長いリハビリ期間が必要になる可能性が示唆している。これらの研究は、TypeⅡのSLAP損傷の修復術の結果を説明するには野球選手と他のオーバーヘッドアスリートの結果を分けて報告する必要があることを示している。
驚くべきことにこれらの研究では、TypeⅡのSLAP損傷の修復術に付随する肩の病理の悪影響は示されなかった。研究結果ではUCLA、ASES、L'Insalataの肩のスコアというよく用いられる3つの指標が最も用いられた。UCLA shoulder scoreは5つの研究で使用され、術後平均スコアは30.2から33.4の範囲であった。ASESスコアは7つの研究で使用され、84から97の範囲であった。また、L'Insalataスコアは4つの研究で使用され、術後85.1から93の範囲であった。
これらの比較的高く類似した平均スコアは手術の結果指標に活動指標やプレー復帰データなど、いくつかのタイプを含める重要性を示している。

結論

TypeⅡのSLAP損傷の関節鏡修復術はオーバーヘッドアスリートを除いてとても良い結果であると言える。オーバヘッドアスリートにおいては良い結果となる選手もいるが、概ね過去のパフォーマンスレベルに戻れる比率は低下してしまう。
今後の研究では、前向きコホート研究によって結果の予測因子について検討する必要がある。

参考

  • Ide J, Maeda S, Takagi K. Sports activity after arthroscopic superior labral repair using suture anchors in overhead-throw- ing athletes. Am J Sports Med 2005;33:507-514.

  • Brockmeier SF, Voos JE, Williams RJ III, Altchek DW, Cordasco FA, Allen AA. Outcomes after arthroscopic repair of type-II SLAP lesions. J Bone Joint Surg Am 2009;91:1595- 1603.

  • Yung PS, Fong DT, Kong MF, et al. Arthroscopic repair of isolated type II superior labrum anterior-posterior lesion. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc 2008;16: 1151-1157.

  • L’Insalata JC, Warren RF, Cohen SB, Altchek DW, Peterson MG. A self-administered questionnaire for assessment of symptoms and function of the shoulder. J Bone Joint Surg Am 1997;79:738-748.

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