春のうたと、レース遺跡の修復作業
春の繁忙期がやってきて、ずっとアトリエにこもって作業をしている。ドレスのお直しとリメイクの仕事なので、ひたすらコツコツと手を動かす作業がほとんどだ。この季節はいつもそう。
作業中はずっとラジオをかけているので、おかげで「春ソング」にはずいぶんくわしくなった。
娘(16歳)が「春ソングプレイリスト」をつくるというので、いくつかおすすめを教えてあげた。
お気に入りの羊文学からは「マヨイガ」
これは春ということばは出てこないけど、卒業する人や、これから新しい出発をしたり、旅立つ人へ送る曲としていいなと思って。
羊文学はバンド名に「文学」がついているだけあって歌詞がとってもすてき。FM802のミュージックフリークスという番組で、羊文学の塩塚モエカさんが週替わりでMCをつとめているので、日曜日の夜の楽しみができた。
文芸つながりでいえばやはり「文藝天国」の「生活をとめて」がすてき。
この曲に数秒間うたが止まる部分があるんだけど、そこを聴くと伊坂幸太郎の「フィッシュストーリー」を思い出してワクワクしてしまう。映画もよかった。物語はいつも空白から始まる。
春といえば、Sundae May Clubの「春」も。
この3曲をオススメしたんだけど、羊文学のマヨイガ以外の曲は、娘はもうすでに知っていて、「もう入れてるし」と言われてしまった。「しかもさ、前にこのバンドのはなししてるよ」と。
娘は、Sundae May Clubのインスタのフォロワーがまだめちゃくちゃ少ないときから「売れる」と確信してフォローしていたらしい。そういうのが、いいんだって。売れていないころから応援してたってなるから。推しの世界は奥深い。
たしかにアマチュアのときからそのバンドや芸人や作家のファンっていうのは、どの世界にもあるのかもしれない。
わたしは娘から口頭で「Sundae May Club」というバンド名を聞いたとき、またすごい名前のバンド名やな、と思ったけど文字で見たら違っててちょっとホッとした。でも案外それを狙ってそうな気もする。
ところでSpotifyさんはわたしをどうも「若い」と勘違いしているようで、やたらと10代に人気の曲をオススメしてくる。リーガル・リリーとか、「夕方ジェネレーション」プレイリストとか。「放課後に聴くのにぴったりの音楽」って言われてもねえ。こっちは人生の放課後なんだけど…。
娘にプレイリストを見せたら手慣れた手つきでささっとアーティストを確認して「ふうん、ちゃんと若いね」だって。ちゃんと若かった。悪い気はしない。
さて、何の話だったっけ?
そうそう、アトリエに作業でこもっている話だった。
ドレスのリメイクは基本的に地味な作業が多い。
ドレスの現状を確認し、ひかえを取り、レースやビーズをいったん外して然るべきお直しや処置を施したうえでまたレースを縫い付け、ビーズを刺繍し直す。
いま手がけているドレスも、ひたすらこの作業がつづく。うわあ、これは大変な作業だなー、と思いながら心のなかではニヤニヤしている。いや、もうそれが顔に出てしまっていて花嫁さまに「お好きなんですね」と言われてしまう。どんなんや。
レースを丁寧に外して、ひかえを取った紙のうえに並べてみる。向きを変えて、パズルのように組み合わせて。
ドレスのリメイクというよりは、土器の修復をしているような気分になる。何か遺跡発掘というか、考古学的な作業のようだ。楽しい。好き。
そういえば小さいころ、考古学者になりたいと思っていた。化石とか鉱石とか、遠いむかしの遺跡や修復作業に興味があった。近所にむかしの地層が出ているところがあって、父が子どもの頃はよくそこで化石を拾っていたらしい。仕切りのある古いお菓子の箱に入った、形のかけた貝や光る石を眺めているのが大好きだった。学研マンガの「化石のひみつ」がわたしの愛読書だった。
夢って不思議なかたちで叶うものだなと、レース遺跡の発掘作業の手を休めて空を見上げると、春のうたがはらりと舞い降りてきた。
だれにたのまれたわけでもないのに、日本各地の布をめぐる研究の旅をしています。 いただいたサポートは、旅先のごはんやおやつ代にしてエッセイに書きます!