ドレス、時間の旅|1998年のウェディングドレス
旅のことばかり書いているわたしですが、きょうはウェディングドレスをめぐる時間の旅の話をします。
わたしの本業はウェディングドレス作家です。神戸のちいさなアトリエでドレスのお仕立てとリメイクをしています。最近は、お母さまのウェディングドレスのリメイクのご依頼をいただくことが増えてきました。
先日、1998年のウェディングドレスをお預かりしました。花嫁さまのお母さまがご自身の結婚式で着られたものです。これから、2024年の花嫁さまのために、リメイクしていきます。
1998年のウェディングドレス
1998年のウェディングドレス。なんか響きがいいなと思ったら、羊文学の「1999年のクリスマスイブ」みたいだからですね。まっしろなドレスでギターを抱えて歌う女の子。無敵すぎる。
ドレス、時間の旅
さて、わたしがお母さまのウェディングドレスのリメイクを始めてかれこれ10年以上になりますが、もう1990年代後半のドレスをリメイクするようになりました。え〜、1990年代後半だなんてはっきり記憶あるし、ついこのあいだのようです。
2000年代、21世紀生まれの息子は「1900年代ってほんまに実在したんや」というてましたが実在してたんですよね、それが。
ではここで少し、ウェディングドレスの時間を遡ってみましょう。
1960年代
わたしが「お母さまのウェディングドレスのリメイク」を最初に手がけたのは2012年ごろのこと。たしかドレスは1960年後半〜1970年代はじめ頃につくられたものでした。その当時(1960年代後半)はまだロックミシンが普及しておらず、端始末は手かがりでされていました。そのころつくられたドレスのなかには、端の始末がされていなかったり、ピンキングはさみで切られただけのものもありました。
その時代のウェディングドレスはほとんが洋裁が得意なご家族、たとえばお家でお仕立ての仕事をしている伯母さんや、おばあさまがつくられたものでした。繊細な手しごとの技術に頭が下がるような思いでリメイクしておりました。そして、ものすごく勉強になりました。この頃のドレスを、じっさいに解いて覚えることができたわたしは、ほんとうに幸運だったと思います。
1970年代
1970年代になると、いわゆる「テーラー(仕立て屋さん)」にオーダーしたものが増えてきます。1970年代なかばになるとテーラーにロックミシンが普及し、端もロックミシン始末になります。素材もシルクからポリエステルサテンに変わり、デザインも自由なものが多くなります。
クレージュやピエール・カルダン、マリークワントら「スペースエイジ」と呼ばれる近未来的なファッションの影響は、ウェディングドレスにも反映されていて、ハイネックのモードな雰囲気のドレスも多かったです。
この時代のドレスはデザインが個性的で面白くて、毎回いろんなチャレンジができて楽しかったな。
1980年代
1980年代になると、百貨店にオーダーされたものがみられるようになり、ドレスもうんと豪華になります。1980年代なかばからは、ボリュームのあるお袖、フリル、レースなどをふんだんに使ったものが主流になります。これは明らかに、世紀のウェディングと呼ばれたダイアナ妃のロイヤルウェディングの影響だと思われます。「お母さまがダイアナ妃に憧れて」という言葉をよく聞きました。
ブライダル市場ではレンタルドレスがはじまり、やがて主流になっていくころです。
1990年代
そして1990年代。80年代の流れを汲みながらも、デザインはどんどん多様化していきます。インポートのドレスも増え、選択肢が広がりました。レンタルドレスが一般的になり、「ドレスを購入する」または「オーダーする」ということが選択肢のひとつであった最後の時代かもしれないです。
1990年代、世紀末
いま、わたしはこの時代の、ドレスのリメイクをしています。このドレスは80年代のロマンティックブームの流れを汲んだものでしょう。
ドレスとともに時間の旅をした
こうしてみると、わたしはドレスといっしょに、時間の旅をして来たんだなあと思います。専門の研究機関で服飾史の研究をしてきたわけではないけれど、わたしは、ドレスに触れて、解いて、つくって、繕って、花嫁さまにお繋ぎすることで、ドレスに流れる時間を深く理解してきたのだと思います。
それは誰にでもできることではなく、いまから他の誰かがしようと思ってもなかなかできないことであり、わたしはこのことを誇りに思っていいんだと思いました。
花嫁さまに見つけていただけるように
「ウェディングドレスのリメイクをしてくださる方が見つからなくて、すごく探しました」
花嫁さまはよくそうおっしゃいます。わたしは広告とかをしていないので、じぶんでも、よく見つけていただいたなあと感心します。でも、感心している場合ではないのです。わたしはもっと、花嫁さまに見つけていただきやすくなるような努力をしないといけません。
だって、せっかくお母さまの素敵なドレスがあるのに、眠ったままなのはもったいないですもんね。
もう、全お母さまのウェディングドレスはわたしがリメイクしますくらいのイキオイでやっていかないとですね。
というわけで、きょうは、ウェディングドレスをめぐる時間の旅のお話でした。
旅は、まだまだ続きます。
最後までお読みいただいて、ありがとうございました。
・ウェディングドレスのリメイクのお問い合わせは上記InstagramのDMか、プロフィールのメールアドレスにお願いいたします。
・遠方のお客様の場合、ドレスを着た状態を見させていただきたいので、できれば最初はお会いしたいと思います。あとは状況を見ながら、やりとりして決めていく感じです。
・遠方の場合は、神戸のアトリエにお越しいただくか、神戸からの往復交通費をご負担いただいて、わたしが出向かせていただくかのどちらかの方法で対応させていただいております。
それでは、よい一日をお過ごしください!
ドレスの仕立て屋タケチヒロミです。 日本各地の布をめぐる「いとへんの旅」を、大学院の研究としてすることになりました! 研究にはお金がかかります💦いただいたサポートはありがたく、研究の旅の費用に使わせていただきます!