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レースを縫いつけ終わるころには

10月末にインフルエンザにかかってから、なかなか体力が戻らなかった。

熱が下がってからも微熱が続き、頭痛が続いていた。ようやく治ってからも、どうもしゃっきりしないというか、やたらと眠くなったり、疲れやすくなっていた。

そうなってくると人間よろしくない。

自己肯定感がだだ下がり。見なくてもいいSNSを見てしまって、みんながバリバリと仕事をこなしているのを見て意味もなく落ち込んだり、だれもわたしのことを忘れてしまったような気がしてしまったり。

でもやらなきゃいけないドレスの仕事があるので、這うようにしてアトリエに行く。正直、坂道を登るのもきつい。なのに神戸の町は坂だらけ。わたしのアトリエも坂道の途中にある。

ふらふらになってアトリエのドアを開ける。小さくて、整った、真っ白な部屋。

すると、条件反射でちょっとだけしゃんする。体はしんどいけど、換気をして、掃除をして、道具の準備をしていると落ち着いてくる。

最初はもちろん、仕事だからやらなきゃいけなくてやっているのだけど、手を動かしていると調子が出てくる。あろうことか楽しくなってくる。ミシンの前に座ると、もう完全に楽しい。

楽しいので、口に出してみた。

「やっぱりミシンは楽しい!」

元気になった。じぶんで。世話ないよね。

リメイクする前の、もとのドレスから外したレースやフリルを見ているだけでときめく。

「う〜ん、かわいい」

また元気になった。


やっぱり、ドレスなんだな、わたしは。そう思った。

じつはこのところ、寝ている時間が長かったこともあって、お布団のなかであれこれいらんことを考えてしまっていた。これからわたしどうしようとか、このままでいいんだろうかとか、何をしていこうかとか。

でも、たとえ体がしんどくても、やっていて楽しくなってくるっていうのはそうとうスキが強いよなあと。よっぽどだよね。わたしよっぽどドレスが好きなんだな。

それはやっぱり、大切にしていこう。

ああ、わたしにドレスの仕事があってよかった。

新しく仕立てたケープのまわりに、もとのドレスから外したレースを縫い付ける。まずはミシン縫い。上糸には透明な糸、下糸には素肌にあたる部分がチクチクしないよう、普通のミシン糸をセットして縫う。レースのギザギザの部分は、星どめで手縫いをしていく。透ける生地だから、できるだけ裏側も美しく。指先の感覚を頼りに、縫い進める。

最初は10センチ縫うだけでしんどくてハアハアしていたけど、ぐるり1周縫い終わるころにはすっかり元気になっていた。

ドレスは花嫁さまにとてもよろこんでもらえた。


うれしいのは、いつもわたしのほうです。

わたしはドレスに助けてもらっているんです。何度も、何度も。


ありがとう。







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だれにたのまれたわけでもないのに、日本各地の布をめぐる研究の旅をしています。 いただいたサポートは、旅先のごはんやおやつ代にしてエッセイに書きます!