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人とロボットとエレベータの付き合い方。

【この記事は所属機関や関連する団体とは一切関係ありません】

先週来、エレベータに乗ろうとしたロボットが、エレベータに乗っていた乗客がエレベータから降りるのを妨げた、というあるメーカの事案が、その場にいた方のTwitterに投稿から大きな話題となりました。

おそらくエレベータに搭乗していたのが、移動に不自由のある高齢者の方だったことや、遠隔からの対応があまり適切でなかったっぽいことにより、本当にあっという間に拡散していき、yahooニュースなどになっていった印象です。

個別の事案に関して、何が問題だったのか、もしくは問題ではなかったについて述べることは避けます。(思うところはありますが、色々なところから怒られそうですので、お許しください)

一方で、「ロボットがエレベータを使うとどのような問題が起きるのか?」そして、「問題が起きないようにどうすれば良いのか?」という話は、ロボット業界としてはかなり長い時間をかけて議論してきた話題です。どんなことが考えられてきたのか、記憶を辿りながら紹介しておきたいと思います。

オフィシャルにエレベータとロボットについて議論がされるようになったのは、おそらく「ロボットビジネス推進協議会エレベータWG」だと思います。業界ではビジ協と呼ばれていたこの団体は、平成18年(2006年)に設立されたのですが、安全や規格について議論する部会の中に「エレベータWG」というのが設立されました。詳しくは【こちら】を参照ください。

エレベータに人とロボットが一緒に乗らない、という時代

そもそもエレベータにロボットが乗るというのはどういうことなのか?ということから考えられています。法律ができたときには、エレベータに乗るのは人であり、ロボットが乗るなんてことは想定されていません。(話は変わりますが、現在で言う公道を配送ロボットが走ることは想定していないという問題に似ていますね)

そこで解釈として成立したのが、人が乗っていないエレベータであれば、ロボットがエレベータを使っても良いという考えです。2001年には富士重工(現在はサイバーダインに譲渡?)の掃除ロボットが晴海トリトンスクエアで稼働しており、エレベータWGではその知見なども元にしながら、2007年に「サービスロボットの運用が可能なエレベータの検査運用指針」が制定されました。

あくまでも「一般客とロボットは同乗しない」という大前提で開発されたのがこの指針になります。検査の指針なので、最後の動きなどでチェックする項目であり、エレベータとロボットの通信規格などは規定されていません。

ちなみに検査項目は以下になっています。結構、シンプルに書かれていますので、イメージは付きやすい内容ではないでしょうか。

4-1 かご室内及び乗り場で行う検査
サービスロボットがかごに乗車する際に一般利用者が同時に乗車しないシステムである場合、次の a)~e)項が確実に作動すること。
a) ロボット運転モードに切替えると、新たな乗り場呼び登録を無効とし、あらかじめ登録されていたかご呼び階のすべてに停止するまで通常運転を行った後、サービスロボットの乗車階に移動する。
b) サービスロボットが乗車するかごのみ、乗り場呼割り当てを無効とする。
c) ロボット運転モードでは通常運転終了後、かご内の照明を消し、一般利用者の利用を防ぐ。ただし、かご内の扉スイッチの「開」は有効とし、誤って乗車した一般利用者が降車することを可能とする。
d) 各階にかごが到着し、戸が開いている状態時には、音声及び表示器等により、ロボット運転モードであることを報知する。
e) サービスロボットへの乗車・降車の指示及びサービスロボットからの乗車・降車完了情報の取得が確実に行なえる。

4-2 中央管理室で行う検査
中央管理室における中央監視装置などでサービスロボットとエレベータの運転管理を行う場合、次の a)~d)項が確実に作動すること。
a) 中央監視装置においてロボット運転モード表示器がある。
b) 異常発生時には、赤色の異常運転灯を点灯又は警告音を発生する。
主な異常種類は、次の①~②とする:
①サービスロボット・エレベータ機器の異常
②サービスロボット・エレベータ間通信の異常
c) 地震や火災発生等の非常時には、速やかにロボット運転モードからエレベータの非常時運転モードに切替わる。
d) 異常又は非常発生時にサービスロボットへその情報が通知できる。 

パナソニックが商品化した病院内搬送ロボットにおいても、このような考え方に基づきながら、ロボットがエレベータに乗るときはロボット専用モードになります。また、その際には人がエレベータ内にいないかをチェックする機能やロボットが乗った後に人が乗り込めないようにする工夫などが組み込まれています。

エレベータに人とロボットが同時に乗りたくなる時代へ

第一歩目として、人がいない状況でロボットがエレベータを使えるようにすると、次のステップとしては、人と同時に乗る場合を想定し始めます。当然と言えば当然で、ロボットがエレベータを使う度に、人がエレベータを使えなくなるというのは、ランチタイムの忙しいときなど怒る人もいるかもしれません。

先ほどのエレベータWGにおいても、当然そのような思考になっています。

そして、2009年に発表されたのが「人と同乗するサービスロボットの運用が可能なエレベータの検査指針」。人と同乗しないパターンの指針が2007年でしたので、2年かけて検討を行ったということになります。

しかし、想定外な事態が発生します。
(いや、ある意味では想定内かも・・・)

どのメーカーもユーザーもエレベータ内にロボットと人を同乗させようとしませんでした。

指針を発表してから2年後の2009年。状況を鑑みて、以下のガイドラインが発表されました。「人と同乗するサービスロボットの運用が可能なエレベータの実証試験ガイドライン」です。この中では、次のようなことが明確に書かれています。

人と同乗するサービスロボットの運用が可能なエレベータについての検査指針は発行されている。しかし、実証試験については未だに行われていない実情を踏まえ、本資料では製造メーカ社内試験などで守るべきガイドラインを策定したものである。

A4 1ページにびっしりと書かれたガイドラインに効果があったかはわかりませんが、私自身の記憶では、このガイドライン発行後もしばらくは人と同乗するタイプのロボットは現れなかったような気がします。

おそらく、同乗したときの一番のリスクは、エレベータの中でロボットが暴走し、人の挟み込みなどが起きることなんだと思いますが、そのリスクをどのメーカを敢えて取る必要がなかったのかもしれません。

そして、やっと扉は開かれる

ガイドラインが発行されてから8年後の2017年。この間にエレベータWGもロボットビジネス推進協議会もなくなってしまいました。

なんの前触れもなく、普通に人とロボットがエレベータに同乗しているシーンを目撃することになります。

黒船?襲来です。米国シリコンバレーのサビオーク社の小型搬送ロボットRelayが品川プリンスホテルに導入されました。

人との共存を徹底的に意識したという謳い文句の通り、何事もなく人と同乗したとも言われています。(スイマセンが、自分の目でみたことはないです。。。)


その後は、特にこの2、3年はもう確認できないくらいの数の
・エレベータにロボットが乗るようになりました!
・エレベータとロボットの通信システムを開発し、実証しました!!
というプレスリリースが打たれる時代に突入しました。

もはやリリースを読むだけでは、ロボットと人がどういう状態でいるのかは理解できません。

いよいよ手間がかかる問題をどうするか

そして、ロボットーエレベータ問題は次の局面に向かっていきます。それは、「ロボットをエレベータに乗せるのに手間がかかりすぎる問題」です。

エレベータは多種多様です。そして、スマホのように買い替えのスピードも速くありません。何十年前に設置されたエレベータもあれば、最新のクラウドで群制御されているエレベータもあります。その通信方法はメーカー毎、そして時代によっても異なります。

ロボット導入案件毎に一件一件のエレベータとロボットの通信仕様を詰めて、エレベータメーカー側もロボットメーカー側も改造をかけていくというのは、圧倒的な時間がかかる行為であり、最終的には購入価格に大きく影響を与えることになってしまいます。ロボット本体価格よりエレベータ改造費用の方が高く付くというようになってしまっては、笑えない状況かもしれません。

そこで、この問題の解決に動いたのが経済産業省。そして、今は無きロボットビジネス推進協議会の発展的解消に伴い出来たRRI(ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会)です。

経産省からのプレスリリースには、

令和2年度から実施している「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」において、ロボットとエレベーターの連携に関する研究開発を進めるとともに、その成果を活用し、施設管理TCの下で、ロボットとエレベーター間の通信連携に関する規格の検討を進めてきました。
今般、同規格が策定され、RRIから公表することになりました。同規格については、すでに、施設管理TC参加事業者の施設で活用していくこととしています。また、同規格を利用いただき、利用結果についてフィードバックいただける他の事業者に対しても、規格に関する詳細な情報を提供して、同規格の精度を高めていくこととしています。今後、これら利用される事業者からのフィードバック結果も踏まえて規格の改定を進め、国際標準化を目指していくこととしています。

さらには、こう続けられています。

同規格は、エレベーターに人とロボットが安全に同乗するに当たり、新設のみならず、既設エレベーターにも組み込むことができる、シンプルかつ安価な連携システムを構築することを目的としています

実際に策定された規格は「ロボット・エレベーター連携インタフェイス定義 RRI B0001 :2021 (Draft Rev.2.0)」として、RRIのホームページに公開されています。ただし、全部を読むには、機密保持の契約などが必要になるので、ここで内容に触れるのはやめておきます。気になる方は、以下を参照ください。

というわけで、エレベータをめぐるロボットと人の関係はまだまだ進化しそうです。

許容できるリスクを持てる国になれるか

冒頭に紹介した事案に関しては、私自身は動画とメーカーのリリースを見たくらいの情報しか持っていません。ただし、リリースを読むと、このロボットは「ロボット専有運転」のモードを持っていたことになっています。今回紹介した流れで言うと、最初の「人とロボットは同乗しない」という方針で設計されていたことになります。にもかかわらず、人が乗っている状態でロボット専有運転モードに切り替わり、更にエレベータ内に乗り込もうとしてしまったとのことです。

そこの原因究明と対策はメーカや運用側でも「徹底的」に行われることを期待する一方で、是非、一般の方にも今回の一件だけで、「だからロボットは使えない」「ロボットを人が乗るエレベータに乗せるなんて言語道断だ」という風にだけはならないで欲しいと思っています。

開発側の勝手な想いになってしまうかもしれませんが、まだまだ技術も未成熟なヨチヨチ歩きの産業です。失敗することも沢山あるかもしれません。もちろん、人の命を危険にさらすようなことは決してあってはいけませんが、それ以外の失敗に関しては、使い方も含めて一緒に成長をさせていけないかと思っています。

中国(や米国)のようにドラスティックに現状を変えていくイノベーションのスタイルはおそらく日本には向いていません。地道に積み上げていくタイプのイノベーションが日本っぽいでしょう。もちろん、それでは海外勢に負けてしまうと言う指摘もあるかもしれませんが、少なくとも日本らしく地道に設定されたリスクの中においては、ある程度の内容を許容するという文化が根付いていけば、日本らしいイノベーションも実現できるのではないかとも思っています。

今回のメーカを擁護しているわけではないですし、移動ロボットという特性上、特に移動弱者(高齢者、障害者など)への配慮は最大限に行うべきとは思います。その上で、許容できるリスクを持てる国や文化になっていければと思います。

再度になりますが、今回の記事における個人の意見は、所属する会社および関連する団体とは一切関係ありません。

では、また来週~~。

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安藤健(@takecando)

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