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DXをサクセスさせる:4 価値管理

ITの価値や効果について、稟議を上げる際に必要ではあるものの、それっぽいことをその場で捻り出したり、投資が行われた後はさっぱりと忘れているというようなことに心当たりはないだろうか。
これからの時代は、ITの課題は経営課題であるとの認識のもと、継続的にITの価値を高め続け、組織に大きな貢献をしていく時代である。ぜひDXに関わる方に全社の中心となってもらいたい。そのために役立つ考え方の1つとして、価値管理を解説する。


価値管理とは何か

価値管理(Value Management)の目的は、組織におけるバリューを増大させることであり、ITの文脈でいうとIT投資を行った際に期待したビジネス効果が現れているか、導入した仕組みは利用者によって十分に活用されているか、導入した仕組みに対する支出が適正であるかなどを管理する。簡単のため、ざっくりというと、IT投資管理、IT資産管理、ITコスト管理を合わせたような概念である。

図1 価値管理の概念

なお、Value ManagementにはEN 12973:2020という欧州規格が存在するが、本文書は、規格の内容を解説しているわけではないのでご注意いただきたい。

価値管理の重要性

ITは競争力の源泉である

ITの利活用の優劣が、ビジネスに大きな影響を与えるようになっている昨今では、ITのビジネス貢献を増加させなければ、組織は競争力を増すことが難しい。
ダイナミックで不安定な市場環境の中で、限られたリソース(資金、時間、人材、情報システム)を最大限に活用し、成果を出すことが求められている。

ITに関する意思決定を正しくする

将来の組織の方向性を定める良いビジネス判断をする上で、意思決定者に確かな根拠を提供することも非常に重要になる。

ServiceNowにおける価値管理手法の例

具体的な例として、ServiceNowにおける価値管理の手法を解説する。手順は大きく次の4つのステップに分かれる。

1.価値の目標設定

戦略マップなどのフレームワークを活用しServiceNowのヴィジョンを策定したら、次に価値の目標を設定する。それぞれのビジネス目標に対して、ITにどのような効果を求めるかを具体的な指標と数値で設定する。これらをServiceNowではValue Blueprint (価値の青写真)と呼んでいる。
Value Blueprintの例を以下に示す。

図 2  Value Blueprint (価値の青写真)の例

Value Blueprintの構成は、左から、ビジネス目標(Business Objective)、業務レベルの成果項目(Operational Outcome)、成果測定指標(Success Metric)、成果測定指標の基準値(Baseline)とターゲット(Target)となっている。
* SNでは、このValue Blueprintを作成するためのフレームワークが用意されており、それらを利用することでスピード感のある整理が可能である。

Value Blueprintの構成を順番に見ていこう。
まず、ビジネス目標(Business Objective)であるが、企業あるいは事業に対するITの貢献をServiceNowでは、ドライバーと呼んでいる。
さまざまな種類のドライバーが考えうるが、それらを煎じ詰めると究極的には次の3つに集約される。①ビジネス成長のドライバー、②コスト削減のドライバー、③リスク低減のドライバーである。
ビジネス目標は、戦略マップで定義したものと同様であり、それが3つのうちどのドライバーと関係するか整理する。
戦略マップの作成方法については、以前の記事をご覧いただきたい。

次に業務レベルの成果項目(Operational Outcome)は、戦略マップの求める成果を対象の業務についてより具体化したものになる。

2.IT貢献のドライバーに対する測定指標を設定

成果測定指標(Success Metric)は、業務レベルの成果項目の効果を数値で測定するための指標を定義する。
この指標は実際にデータを取得できるものの中から選択することが重要である。データを取得できない指標は、次のステップである価値の測定に進むことができない。
ここで、実際にデータを取得できる指標と採用したいがデータが取得できない指標の存在に悩むことがあるかもしれないが、データの取得方法について長期間の検討を要するのであれば、ここでは実際にデータを取得できる指標だけを採用して価値管理の活動を前に進めることをお勧めしたい。
価値管理で重要な点は、経営者視点と同様に大所から見て価値が得られているかをマネジメントすることであり、あらゆる指標をリアルタイムで数値化し、可視化し、経過を追っていくような指標管理ではないからである。
成果測定指標の基準値(Baseline)と過去の実績値や経験を考慮して設定するのが良い。
ターゲット(Target)については、組織によって異なるが、どの程度の改善効果を期待するかで設定は変わってくる。ターゲットは、不変ではなく状況によって変更するものである。

3.価値の測定

次は、定期的に成果測定指標(Success Metric)のデータを取得し、データを蓄積する。測定の頻度は四半期ごとなどが一般的であるが、組織の考えによって調整できる。
データの取得については極力自動化し、人の労力を削減する方法を採用したい。

4.価値の可視化と共有

最後のステップとして、ビジネスバリューレポートを作成する。
複数回の収集した成果測定指標(Success Metric)のデータを分析すると、ベースラインおよびターゲットとのGapが明らかになる。
もしそれらの値との乖離が大きい場合は、その理由を分析し、考察するべきである。
考えられる原因としては、ベースラインの設定を誤った、ターゲットの期待値が高すぎた、既存の業務に対応すべき課題がある、利用者の習熟に時間がかかっており本来の効果が出ていないなどが考えられる。
現時点で実績が良い・悪いという評価だけでなく、価値創出の阻害原因に対して対策を検討することが重要である。
ServiceNowでは、成果測定指標(Success Metric)の成果を前提を置いて金額換算するロジックを提供している。それらを利用することで、経営者が理解できるROIの視点に変換することもできる。
ROIが時間経過とともにどのように変化しているかなどを見ることも可能である。

ビジネスバリューレポートは、関係者に共有するようにしたい。
共有する目的は、導入したITの仕組みは企業あるいは事業の目標に対して貢献しており、その成果が上がっていることを関係者で分かち合うことである。
関係者としては一般的にはシステム部門に所属する、構築チームや運用チーム、事業部門に所属する、ビジネス管理チームや業務チームなどがある。
良いシステムを導入し、持続的に発展され活用していくためには、これらの関係者の協力が不可欠である。

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