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「ラム&ミント・スマッシュ」─バーテンダーの視(め)

 仕事場の近くにある商店街で”冷やし中華はじめました”のノボリ旗を見かけるようになり、また今年も夏が来るのね……と思い始めた6月の頭。BARでも夏を感じさせるドリンクが良くオーダーされるようになってきた。

 冬の寒い時期はとにかくウイスキーが多くオーダーされるのだけれど、暖かくなってくるにつれてカクテルの割合が面白いくらい増えてくる。

 夏の代表的なカクテルといえばやはり『モヒート』だと僕は思っていて、団体様から、

「モヒートください。人数分で!。」

 などと言われれば、おお判っているじゃないのとおもむろに一掴みのキューバミント(イエルバブエナという名)をタンブラーへ詰めながら、ニヤリとしてしまう。

 元々このカクテルは、今や日本でも有名になったバカルディ社が『ドラケ』と呼ばれる飲み物を自社のラムでアレンジしたのが始まりとされていて、キューバを中心に大流行したのだそうだ。その後、会社がキューバから撤退を決めると現地にあったハバナクラブのラムに代わられて飲み続けられてきたらしい。

 どちらのラムで作っても美味しいのだけれど、僕は断然ハバナクラブ派。3年熟成のふわっとした甘味がミントとライムに凄く合うと思う。

「ミントの質が悪いから夏しかうちは作りませんよ。」

 と言いだすバーテンダーも少なからずいるけれど、こんなに美味しいカクテルを夏季限定にしてしまうのはとてももったいない。少し葉が厚みが違うくらいで、今はそんなに季節でミントの質は変わらない。十分バーテンダーの腕で補えるレベルだろう。

 それとミントの葉をぐちゃぐちゃとすり潰すのもいただけない。マドルは軽く、葉の表面を傷つける程度で良い。嫌な苦味と爽やかさを一緒と考えてはいけない。陽気なカクテルだけれど、意外と繊細な子なんです。

 もう1つ言うなれば、クラッシュアイスが溶ける前にグイっと飲み干してほしい。氷は入っているけれど、水で薄まってしまってはもったいない。美味しいうちに。ショートカクテルのように楽しむ。飲み方の注文が多いなと思われるかもしれない。それだけ僕はモヒートが大好きだ。

 これはラムBARの方に教えてもらった事で、飲み干した後は空いたグラスへ水を注いでもらってミントのチェイサーにするというのもまたオツな物。氷が溶ける前に、美味しいうちに飲みきり、その後まで楽しんでしまう。なんだか卑しい気がするけれど、味わい深くてとってもお勧め。

 10年ほど前にドイツのトップバーテンダーが次世代のモヒートとして『ジン・バジル・スマッシュ』というカクテルを発表し、当時ネット記事や業界紙で良く話題になっていた記憶がまだ新しい。

「21世紀のサラダ風サマーカクテルだ!。」

 と、一時期かなり盛り上がっていて今も世界中で飲まれている、らしい。日本でも飲まれている、らしい。もしお近くのBARにバジルを常備している店があるのであれば、今年の夏は挑戦してみてはいかがでしょう。

 しかしながら、昨年末のクラシックカクテルワールドセラー2018ではモヒート先輩が10位でジン・バジル・スマッシュ君は圏外と、まだまだ追いつき追い越せる日は遠いご様子。頑張ってほしい。僕はモヒートを飲み続けるけれど。

『モヒート』
ハバナクラブ3年 50ml
ライムジュース  12ml
フルーツシュガー 1tsp
イエルバブエナ  タンブラーの半分ほどまで詰める

材料を軽くマドル(すり潰し)し、クラッシュアイスを満タンまで詰めた後バースプーンでさらに混ぜてソーダでFullupする。

『バーテンダーの視(め)』はお酒や料理を題材にバーテンダーとして生きる自分の価値観を記したく連載を開始しました。 書籍化を目標にエッセイを書き続けていきますのでよろしくお願いします。