「豪華絢爛シャンパーニュ」─バーテンダーの視(め)
2年ほど前にとあるバラエティ番組で、名古屋のキャバクラ嬢が日本一"ドン・ペリニヨン"を飲んでモエ・エ・シャンドン社から表彰されたという話をしていて他のタレントさん達が騒然となっていた。
僕がまだ田舎で学生をやっていた頃に観たホスト同士の売上競争なる深夜番組では、劣勢だったNo.1ホストが終了直前に家から建つほどの高額シャンパーニュをオーダーさせて大逆転をするというシナリオで、とても刺激的な内容に感じたのを覚えている。
いつの頃からか日本でのシャンパンには価格以上の高級感が備わり、贅沢なお酒という立ち位置のまま今日まで続いていて(ビールが200円そこそこの時代にグラスのシャンパーニュはお店で飲むと2000円以上する事も!)、ボトルを開けるとなればワァーっと場が盛り上がる。
初めて僕がシャンパンを口にしたのは20歳を丁度過ぎた頃で、当時勤めていたフレンチレストランにて常連さんの飲み残しをいただいた。
正確には、自分と同じ歳ほどの女性を連れたジェントルマンが「シャンパーニュは乾杯の1杯ずつでいいから、後は皆さんで」と今開けたばかりの"ピン・ドン"を我々スタッフに残し、その後小一時間ほど食事をして店を出たのがキッカケだった。
なんて勿体ないのだろうと思い不思議がっていた僕は、あれが同伴というものであり、ここで飲み過ぎたらこの後に女性の売上にならないんだよと先輩から教えられ、「都会ってやっぱすげぇ!」とその日の営業が終わるまで田舎者丸出しではしゃぎ回っていた。なんとまぁ恥ずかしい事……。
肝心の飲んだ感想はというと、「なんだかありがたい味がしますねぇ……」などと1年とはいえプロの世界にいる人間としては到底思えない発言と、途中で飽きてグラスの半分ほどをお残しした事でしばらくの間お店の笑いモノとなりましたとさ。若気の至りとは本当に恐ろしい。
一般的な居酒屋やパブではグラスで出せるのはスパークリングワインだけでシャンパンはボトル売りのみという所も多い。正直なところ1杯に2000円ほどいただいても採算が取りづらく、さらに開けた翌日にはもう単体では使えない事も考えると懸命な判断だろう。
しかしながら、カクテルを出しているBARであれば別である。
春の『ピンクグレープフルーツのミモザ』。
夏の『ベリーニ(白桃)』。
秋の『シャインマスカットのロワイヤル』。
冬の『ロッシーニ(苺、レオナルドとも云う)』……。
シャンパン君は1年中大忙しだ。作る際にはフルーツをよく冷やしておき果肉はたっぷり使うのが望ましい。ケチケチするとせっかくのカクテルが台無しになりますよ。他にもジン・フィズの応用版『フレンチ75』やモヒートの応用版『セレンディピティ』はいつ飲んでも美味しいのでオススメ。
これらのカクテルは全てスパークリングワインで代用する事も出来るのだけれど、それだとどこか味がぼやけてしまう。気がする。
僕もまたシャンパンの持つ"高級感"に、毒されているのだろうか?。
『ベリーニ』
・白桃 2分の1個分(大きければ3分の1)
(香りが足りない場合)ピーチシロップ 適量
(甘味が足りない場合)フルーツシュガー 適量
(果肉が冷えていない場合)シャンパン氷 適量
材料をバーブレンダーで破砕する。冷えていない果肉を使う時は製氷容器で事前に凍らせたシャンパンを2かけほど入れる。
グラスに注ぎ、同量のシャンパンで満たす。
※他のフルーツも同じ要領で調味しながら作る事ができる
『バーテンダーの視(め)』はお酒や料理を題材にバーテンダーとして生きる自分の価値観を記したく連載を開始しました。 書籍化を目標にエッセイを書き続けていきますのでよろしくお願いします。