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「田舎のハイボール、町のウイスキーソーダ」─バーテンダーの視(め)

 昔流行っていた物や事柄が、時代が進む事でまた流行るという事はどこの業界にもあって、飲食業はそれがかなり顕著だと思っている。

 都内の駅前は今どこを見渡してもタピオカだし、夜に居酒屋へ繰り出せば、ホッピーを楽しむ人々を多く見かける。これらは一度廃れても10年ほども経てばまた新鮮味を取り戻し、僕らの前に現れる。

 その代表選手の1人が、『ウイスキー&ソーダ』だろう。

 巷では『ハイボール』で通っている彼であるが、カジュアルな印象を嫌ってか敷居の高いオーセンティックバーでほどあまりこの名は使われていない印象だ。

 なぜこの呼び方になったかは山の数ほど説があるのでここでは1つだけ僕が接客の時に使う説を書こうと思う。

「大人の社交場であるゴルフ場ではラウンド中にもお酒を飲んでいて、それの定番がウイスキー&ソーダだった。紳士諸君はこれに特別な名前を付けようと"もっと高く、遠くに!"という意味合いでハイボールと付けた……のが始まりらしいですよ。」

 但し、今現在海外のゴルフ場ではウイスキー&ソーダは定番として飲まれていなかったり、もっと喜劇的な脚色のされた話もあったりで、どれもこれも少しずつ胡散臭い。

 大概酔っているお客様はこういう話をバーテンダーから聞くと、一時「へぇ!」と思っても帰る頃には忘れている。お酒の場の話はどこか穴があるくらいで丁度良いのかもしれない。

「あれ?そんな話をここでしていたっけ?」

「よく覚えてますねぇ!」

「初めて聞きましたよ(以前にも話している)。」

 などはもはや日常茶飯事である。面白い事に普段カッチリしたお仕事にお勤めの方ほど覚えていない。リラックスしている証拠でしょうかね……。

 少し話を戻して、最近ハイボールが日本で再燃したキッカケは知っているだろうか?

 ヨーロッパやアメリカで流行ったものは3年ほどした後に日本で流行る。2000年頃とあるリストランテでリサーチを行なっていた日本の企業人が観たものはシャンパンの代わりにウイスキー&ソーダを楽しむセレブ達、だった。

 これだと思いすぐに販促に乗り出す。

 まずお店で飲むハイボールは格好良いものだとイメージ付けるため、女優の小雪さんを起用しスタイリッシュなコマーシャルを作った。

 数年後、お店での需要が増えたので次は家で飲んでもらおうと菅野美穂さんでアットホームな雰囲気のコマーシャルを出した。

 ハイボールは食事中にもどうぞ!と言わんばかりの"ハイから(ハイボール+唐揚げ)"という語呂と井川遥さんの笑顔は今でも記憶に新しい。

 何年もの期間を想定し数々の販促を行なった"サントリー角"の功績は想像できないほど大きいと思う。その後も国産ウイスキーが世界の品評会で金賞を取ったり、竹鶴政孝さんの生涯を描いた"まっさん"ブームなどにより今日までの流行が続いている。

 我々バーテンダーからすると本当にありがたい。

 さてさて、小難しい話をして疲れてしまったので今夜はお気に入りの『ブラックボトル』で寝酒のウイスキー&ソーダ……いや、ハイボールを楽しむ事にしましょうか。

『ウイスキー&ソーダ』

ブラックボトル 45ml
ソーダ     Fullup

冷えたタンブラーにウイスキーを注ぎ、氷を後から詰める。ソーダは2回に分けてFullupする

『バーテンダーの視(め)』はお酒や料理を題材にバーテンダーとして生きる自分の価値観を記したく連載を開始しました。 書籍化を目標にエッセイを書き続けていきますのでよろしくお願いします。