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[note63]2023年の高校3年生「政治経済」の総括

2023年度の総括

高校3年生は11月末で授業が終わり、学年末試験を経て、通常カリキュラムがすべて終了しました。労働問題と社会保障問題は冬期講習で扱いましたが、概ね政治経済の全分野は扱ったことになります。ここで、毎年考えるのが、今年の政経は理想に何%くらい近づいただろう!?ということ…。個人的に理想とする「高校3年生」の授業があり、そこに近づいているのか、まだまだ果てしない道なのか振り返るようにしています。そもそも目指す場所はどんな風景なんだろう!?そんなことから改めて考えます。

理想的な授業のデザイン

一言でいえば、「受験がなくても学ぶ意味がある科目」としての政治経済ということになります。これは以前のnoteでも書いたかと思いますが、高校3年生なおかつ受験生として必要な科目を学ぶ上でモチベーションがあることは当然ともいえます。逆に考えると、「もし、受験がなかったら自分の授業は履修する価値のあるものとなっているのだろうか」というのが毎年の評価基準になります。「それではなぜ政治経済という科目を学ぶんだろう?」と考えたとき恥ずかしながら誰にも納得できるような解答をまだ自分は持ち合わせていません。社会的常識を得るため、主権者としての資質を得るため…このようなことがよく言われると思いますが、何となくしっくりこない部分があります。主権者としての資質の涵養については学習指導要領的にも重要な部分であり、正しいと思っていますがそれをうまく生徒に伝えられるかというと自分はそれができているとはまだ思いません。
今のところ自分が考える政治や経済を学ぶ意義とは各人が自らの選択や決定を行うためのスキルを身につけることだと考えています。最終的にはそれが国の政治や方向性の決定につながると思うからです。この辺りはうまく説明しにくいのですが、個々の幸福が、他者の幸福を生み、その循環が社会全体の幸福を高めるとなんとなくイメージをしています。だからこそ政治や経済の基本的なしくみを知ることによって自らの選択権を行使するスキルを身につける必要があると思っています。

政治や経済に対する冷淡な見方に対して

政治や経済及び社会事象に関しては、それを極めてシニカルに見る傾向があります。それは冷淡であり、陰謀論や印象的な言説に基づくものも多いと感じます。もちろん授業で扱える政治や経済の世界はある意味表向きの世界であり、その裏側を必要以上に語ることが良いことだとは思いません。もちろん過度な楽観主義は禁物ですが、何か希望を抱かせるような、生徒自身が社会を変えることができるような可能性を感じられる内容にできたら良いと常に思います。ここがとても難しい部分であり、常に頭を悩ませる部分でもあります。教師は評論家ではないので、さまざまな現象を批判的に捉えるだけに留まるわけにはいきません。だからこそ生徒自身が自らマイテーマを設定し、問題の解決に向かって思考するための材料として政治や経済、社会への知識が必要であると考えます。社会に対して過度にシニカルになることなく、答えを授けるわけでもなく、ともに課題を設定し、その解決に向けて何が必要か生徒と教師が学び合うような関係が私にとっては理想的です。

入試にも対応しなければいけない!

とは言え、選択科目として直近の必要が大学入試における目標点の突破であることを考えると、その点を無視するわけにもいきません。政治経済という科目は殆どの生徒が大学入学共通テストで利用するものです。大学入試全体が歴史科目に偏重している傾向がある中で政治経済に時間をかける生徒は決して多くはないのが実情です。そうなるとどうしてもコストパフォーマンス、タイムパフォーマンスを求められることが多くなります。そのために今年取り組んだのが事前に音声ガイドを生徒に提供し、いわゆる反転学習の形で演習や実際のニュースなど社会事象を例年以上に取り入れるような授業形態でした。反転学習というと授業動画を見ることが一般的だと思いますが、あえて音声という手段を使ったのは、動画を見ることに対する生徒の負担感の軽減および時間の短縮という意味がありました。授業の流れは以下のような形です。

  1. 生徒には事前に授業内容をスライド化したプリントを配布する。これは、いわゆる穴埋め形式のプリントではなく、要点と直感的にイラストでわかるような内容にしています。それは政治経済の用語という点を意識するのではなく、全体の構造を大掴みして欲しいという狙いがあるからです。

  2. 次にスライドの内容に沿った音声ガイドをアプリケーションを使って作成し、プリントQRコードで添付します。生徒はスライドを見ながらでも、スライドを見なくても概要が把握できるように極力簡単な説明を心がけました。

  3. 授業では、スライドおよび音声ガイドで理解できる部分は生徒の自学に任せ、より細かな説明が必要な部分や補足が必要な部分、自主的な要素が含まれる部分など強調するべきものを扱うように心がけました。

こうした授業構成は基本的に生徒に対する信頼を前提とします。つまり事前に音声ガイドを聞いてくること、授業で扱わない部分に関しては自分で学習をすること、政治経済の全分野を授業に依存しないこと…などです。
今年一年を振り返ると自己分析では50%程度の達成率だったように思います。どこかで生徒の自学を信じ切れずに、インプット4、アウトプット6のイメージが逆転してしまったこと、場合によってはインプットが7~8を占めてしまったこともあったかと思います。ここに至る原因としては基本的な授業デザインがまだ確立し切れていないことに尽きると思っています。これが教える側の自信を生み出せず、生徒に対する信頼を持ちきれなかった最大の要因だと思われます。まず見直すべきは自分の授業デザインの確立になるでしょう。次の高校3年生を受け持つまでに、自分なりの確固たる授業構成、授業デザインを確立することが目標です。

大学入学共通テスト2024「政治経済」

今年の大学入学共通テストの政治経済の平均点は50点を割り込みました。倫理の平均点が高かった分、倫理政治経済としては平均的な点数に落ち着いていますが政治経済の低得点は大きな課題だと感じます。
政治経済を解いてみてもっとも感じたことは、問われていることをきちんと理解することができているかという点です。多少難しい用語はありますが、センター試験時代と比べても対象とする内容自体が極端に難化したという印象はありません。ただ、「何を問われているのかがわからない」時点で解答にたどり着くことができないという受験生は多かったのではないでしょうか。模範解答を見て「こういうことを聞いていたのか…」と振り返った生徒も多かったと思います。合わせて統計資料に対する対応です。統計資料は当然ながら無数にあるために何が出るかを予測することは不可能です。ただ、統計資料を出す意図が存在し、教科書レベルの基本的な知識にそれを紐づけることができれば解答にたどり着くことができるように思います。今まではなんとなく解けた政治経済は、今やしっかりとトレーニングをしなければ解答が難しい科目に変わったと思います。それが大学入試センターが中間報告で公表した50点割込みという平均点に表れていると思います。
これから先の政治経済を含めた大学入学共通テストの対策は決して容易ではないと思います。すなわちこれまでのような過去問を繰り返しておくことによってある程度解答パターンを定着させるという方法が通用しないということです。各科目とも、重要な部分や定義の理解が重要であり、知識の量を測る試験ではないように感じました。ただし、教科書の内容だけ把握していれば解けるというレベルは超えているように思います。教科書をベースとしてその内容を丁寧に理解するという意識を持つことが地味ですが共通テストや現在の大学入試に対応する方法であると思います。

来年に向けて

次年度はいよいよ新課程による入試が行われます。これまでの倫理政治経済という科目がなくなり、必履修科目である「公共」と「政治経済」または「倫理」の組み合わせによる受験が増えると思います。まずは自分の授業構成において教科書レベルの抜け漏れがないかどうか、生徒に対していかに効果的なアウトプットの方法を提供するか、暗記から理解への転換をどう図るか…こうしたことが目下の課題です。先に述べた通り「受験を超えた政治経済、つまり自らの選択や決定を行うことができるスキルとしての知識」を身に着けると共に、直近の課題である新課程入試への対応の両立、これらをいかに考えていくか頭を使う三ヶ月になりそうです。

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