竹村俊助/編集者
「となりのトトロ」を倍速で観る人はいるか
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「となりのトトロ」を倍速で観る人はいるか

竹村俊助/編集者

そういえば「となりのトトロ」って、倍速再生で観たことないなーと思ったので、その話をします。

ぼくはNetflixの作品が好きで、よく観ています。

「ハウス・オブ・カード」とか「ブレイキングバッド」とか「梨泰院クラス」とか。最近は速度を変えられる機能ができたので、忙しいときや早く先が知りたいときは1.5倍速とか2倍速とかで観たりします。

そして話の筋がだいたいわかれば2度目を観ることはあんまりありません。

一方、「となりのトトロ」。

すでにおそらく十回以上は観ていますし、よって話の筋もすべて知っています。妹のメイちゃんが迷子になってネコバスで探しに行く、みたいな話はかなりの日本人が知っているはずです。(おい! ネタバレするな! という人が万が一いたらすみません。)

「となりのトトロ」は話の筋がわかっていたとしても、あまり倍速で観たりはしない。どころか、何度も観る。おなじく「風の谷のナウシカ」とか「天空の城ラピュタ」とか「千と千尋」「もののけ姫」など、宮崎駿監督の作品はあんまり倍速で観ることはありません。

そういえば多くのディズニー作品も同じです。倍速で観るというよりは、じっくり時間をかけてみることが多いように思います。

倍速で観ない作品は「観ている時間」がコンテンツ

倍速で見る作品とそうでない作品。両者はどこが違うんでしょうか?

ここからただの仮説ですが、倍速で観る作品は「ストーリーを消費したい」「情報を消費したい」という欲求な気がします。もしくは最後の「カタルシスを味わいたい」みたいな欲求。

「一度観ればいいや」と思うということは「話の筋がわかれば満足」ということなのかな、と思うんです。たしかにNetflixの作品はどれも映像もすごいし、作品自体を楽しんでいないというわけではないのですが、それでも倍速にして観て、1回で十分と思ったとしたら、中身・ストーリーを楽しんでいる感じがします。

(えーっと、ちょっと嘘です。話をわかりやすくするためにそう言いましたが、ハウス・オブ・カードやビリオンズは何度も観ています。すみません。Netflix作品とひとくくりにするのはちょっと雑です。)

一方、倍速にしない作品は「その作品を観ている時間自体を楽しんでいる」感覚です。「トトロ」であれば、オープニングの「さんぽ」から始まり、引っ越しの荷物を積んで車であぜ道を走らせるシーンから、じっくり噛みしめるように観る。

「ああ、このシーン知ってるから飛ばそう」みたいなことはありません。

「となりのトトロ」は、観ている時間を楽しみ、観ている時間自体が心地よさ、なんだと思います。

つまり、倍速作品は、情報・ストーリー・話のおもしろさがコンテンツであり、倍速にしない作品は、その時間自体がコンテンツだと言えるのかもしれません。

『ノルウェイの森』がフライヤーで要約されていても……

この「時間自体がコンテンツ」というのは最強だなーと思うわけです。

最近はビジネス書も「フライヤー」という要約サイトが流行っていたりして、200ページとか300ページのビジネス書が5分くらいで中身を把握できちゃったりします。すごく便利だし、いいと思います。

一方で、要約サイトで満足できるということは、あくまで「情報」がコンテンツなのであって、「読む時間」はコンテンツではない、ということを意味します。

ぼくは村上春樹さんの作品が好きだったりするのですが、村上さんの作品はフライヤーで要約されていたとしても、おそらく読まないでしょう。

『ノルウェイの森』のあらすじが2分で知れたとしても、別におもしろくもなんともないと思います。ということは(あくまでぼくにとってですが)村上春樹さんの小説は、読んでいる時間が価値であり、コンテンツなのだと思います。

「触れている時間」が価値になるコンテンツ最強説

ぼくは編集者という仕事をしているので、どういうコンテンツがいいコンテンツなんだろう? 廃れないコンテンツって何だろう? などと日々考えていたりします。

倍速にされたり、要約されたり、圧縮されて流通するコンテンツというのは、情報や中身だけが価値だということになります。

もちろん、それだけでもすごくいいのですが、より残るもの、より高みを目指すのであれば「そのコンテンツを味わっている時間自体が価値にならないといけない」のかもなーとも思うわけです。

そう考えていくと、サウナとか森林浴とかって「その時間を楽しむ」という意味で、強いコンテンツなのかもしれないと思ったりします。

仮に「たった1分で1時間のサウナに入ったのと同じ心地よさが得られるカプセル」みたいなものが発明されたとしても、おそらくサウナ好きの人はサウナに入ると思います。

もしくは「2時間の森林浴をしなくても、この空気清浄機だと、たった3分で同じ効果が得られます」と言われても、あまり飛びつく人はいないのではないかなーと思うんです。

となりのトトロ倍速で観る人いない説から少しコンテンツについて思いを巡らせてみました。何か話題のきっかけになればうれしいです。

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竹村俊助/編集者
株式会社WORDS代表取締役。経営者の言語化・コンテンツ化をサポートする顧問編集者。『メモの魔力』(前田裕二)、『佐藤可士和の打ち合わせ』(佐藤可士和)、『福岡市を経営する』(高島宗一郎)など書籍の編集・執筆も。SNS時代の「伝わる文章」の探求をしています。ポテトサラダが好き。